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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十ニ章 東部戦線異常しかなし
167/352

12-4 ゾンビ忍者、グウマ

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

「あッ、『暗影』ッ!!」


==========

“『暗影』、やったか、を実現可能なスキル。


 体の表面に影をまとい、己の分身を作り上げるスキル。

 即死するはずの攻撃が直撃したとしても、作り上げた影に攻撃を肩代わりさせる事が可能。なお、本人は、半径七メートルの任意の場所に空間転移できる”


“実績達成条件。

 アサシン職をSランクまで極める”

==========


 反射神経を超える判断を求められた。首の違和感や背後の気配を確認しようと振り向いていたなら、その動きで刺さったままの刃に動脈を巻き込んでいただろう。

 裏取りされた仕返しに、『暗影』スキルで敵背後へと短距離跳躍を行う。俺を襲った老人ゾンビの背中が丸見えだ。

「仕返しだ!」

「『殺気察知』術。および『マジック・ブースト』術、瞬間加速!」

 両手で押し出したナイフに手応えはない。

 異常なまでに察しが良い。何より異常なまでに素早い。俺が腕を伸ばす動作よりも速く、老人ゾンビは真横へと退避していた。

 地面に残る二本の線の先に、低い体勢で武器を構えている老人がいる。眼光の鋭い目はうろとなっており、赤い鬼火が燃えていた。

 武将が装着する口を覆う面頬めんぼう

 筋肉の動きを阻害しないボディスーツ。

 見覚えのある老人だ。そうそう忘れられる人物ではない。俺が知る限り、最年長でありながら最強の異世界人である。


「グウマ。生きて……いや、死んでいたか」

「キョウチョウ。見事、若様を地上へお届けしたようだな。その節は大義であった」


 一目見て分かった。グウマの胸の中央付近にある傷は致命傷だ。傷を負ってから何日も経過しているため血は流れきっているが、黒い汚れは微かに鉄臭い。何かが傷の中でうごめいているが、おそらく魔界産の蛆だろう。

「あの時、吸血魔王に殺されていたのか。それで、今は死霊として人類に敵対するか!」

「死ぬまでナキナ国の影として働き、忠義を尽くし切った。今動いている体はそのしぼりかす、出涸でがらしに過ぎん」

「馬鹿言うな。もう少しで、即死していたぞ。くッ」

 首に刺さったままになっていたナイフを抜く。憎たらしいナイフであるが、捨てるのも勿体もったいないので左手に持つ。ナイフ二刀流でグウマと対峙した。

 忍者職の老人、グウマ。その死霊。

 実に戦い辛い相手だ。所詮はメイズナーに苦戦し、吸血魔王に殺された老人とあなどるのは愚かしい。人語を解している事からグウマは生前の知能を保持したまま死霊化している。考えるモンスターというものはレベルに関わらず脅威なのだ。

 また、先程の回避を見る限り、『速』パラメーターは確実に俺を上回っていた。まず攻撃を命中させるのが困難だろう。命中できたとしても、ゾンビの体は少し欠損したぐらいではスペックダウンしない。

 対して俺は……首のダメージが思ったよりも深くて片膝を付く。

「僕がキョウチョウを守る!」

「来るな、アイサ! こいつは危険だ」

「だからって、『鑑定モノクル』発動!」


==========

 ●グウマ(ゾンビ)

==========

“●レベル:72”


“ステータス詳細

 ●力:58 守:10 速:188

 ●魔:80/83

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●忍者固有スキル『速・良成長』

 ●忍者固有スキル『暗視』

 ●忍者固有スキル『殺気遮断』

 ●忍者固有スキル『殺気察知』

 ●忍者固有スキル『分身』

 ●ゾンビ固有スキル『夜型体質』

 ●ゾンビ固有スキル『ゾンビの腕切り』

 ●実績達成ボーナススキル『投擲術』

 ●実績達成ボーナススキル『技の冴え』

 ●実績達成ボーナススキル『マジック・ブースト』”


“職業詳細

 ●ゾンビ(Cランク)”

==========


 戦闘中に詳しく聞けるはずがないものの、意外にも『速』以外は俺が優勢らしい。ただ、問題はパラメーターよりもスキル構成だ。特異なスキルは知らなければ対処できないものが多い。

 俺はグウマの全力を知らない。

「『マジック・ブースト』は一時的に『速』を高めるスキル。『分身』は――」

「ほう。特殊な眼を所持しているのか。ならば、先に潰すべきか。……『分身』術」

 ふと、グウマの姿がブレる。高速移動を開始したのだろうか。

 一直線にグウマが迫る。短刀を抜刀し、目玉を狙って刺突してきた。

 二本のナイフを交差させてどうにか防ぐ。刃同士が擦れて火花が散る中……異様な事に、俺と斬り合っているグウマとは異なるもう一人のグウマが傍を素通りしていく。


「『魔』の気配も二つに分離した?! そんな反則!」


 スキルを使ったのだろう。幻覚か、それとも実体があるのかまでは分からないが、ともかく、グウマは像がズレて二つに分身した。

 完全に初見殺しのスキルだと思われるが、片方しか攻撃してこない。二方向から攻撃してくるかと思ったが、どんどん背後に過ぎ去っている。

「アイサ狙いかッ。汚いぞ、グウマ」

「忍者職ゆえな。それに、死んで今更気付く事も多い。キョウチョウを未だ人間族の位に縛り付けているきずな。あの可憐な森の種族にあると見た」

「お前ッ!!」

 目前にいるグウマの眼力が、鋭く俺の仮面を貫く。


「アサシン職の行き着く先。人間族からの階級昇華クラスチェンジ。今更ながら見てみたい」


 アイサめ、言わない事はない。こう恨み言を口にしても今更か。

 それに、グウマもグウマだ。俺を殺す事に全力を出さずに、何をたくんでいるのか。

「『暗影』最大跳躍!」

 影をまといて最大跳躍距離七メートルの後方へ。グウマがどれ程速かろうと、瞬間移動より速い訳がない。

 丁度、アイサを狙っていた分身グウマが手の届く範囲にいた。俺を刺したナイフを構えて、突き出す。


「『分身』術、発ッ!」

「分身は一回だけじゃないのか?!」


 グウマの胸を刺した瞬間、幽体離脱したかのごとくグウマが再度分身してしまう。刺された方のグウマは負傷を気にせず俺の腕を掴むと、そのまま背負い投げを敢行かんこうした。

 反転する視界の中、グウマが油断ない足取りでアイサに接近していた。急行したいものの、『暗影』の再発動には少し時間が足りないだろう。

 背中を硬い地面に叩き付けられて肺が強制圧縮させられる。更に、腕を決められての関節技で苦痛を漏らす。そうやって呑気のんきに苦しんでいるから、最初に出し抜いたグウマが追い付いてしまう。

 分身だろうとグウマはグウマだ。容赦なく後ろ腰に備えた鞘から短刀を抜いてきた。 

「分身ごときがッ!! ――発火、発射、火球撃。燃えてしまえッ」

 決められていた腕を無理に伸ばして、グウマの服を掴む。そのまま魔法を発射した。火属性の魔法をゼロ距離から受けたグウマは炎上する。

「『暗澹あんたん』発動ッ!!」

 暗澹空間のベールで目隠しした後、燃えるグウマを無理やり引っ張り短剣の盾とする。

 筋が弦楽器のような音を鳴らして、手首が動かなくなってしまった。まあ、心臓を串刺しにされるよりマシだ。そんな些細な負傷よりも、暗澹空間に捕えたグウマにナイフを投擲する。

 ナイフは胸の中心に命中した。

 それでも動いていたので、刺さったナイフの柄を蹴り上げて背骨の向こう側まで貫通させる。


「残念ながら、私達は本体ではない」


 グウマは最後にそんな言葉を吐きながら消滅していく。


==========

“『分身』、自分そっくりな攻性デコイを生成するスキル。


 一回一体、スキル所持者の十分の一のスペックの分身を作り出す。その際、『魔』を十分の一消費する。

 分身は一定時間ごとに与えられている『魔』を消費していき、ゼロになった時が活動限界”

==========


「クソッ。グウマの本体は、アイサに向かった奴か!」

 分身二体に手間取っている間に、グウマはアイサの元へと到着していた。

 アイサは抵抗の意思を見せており、健気にエルフナイフを抜刀している。が、アイサのパラメーターではグウマの『速』に対抗できない。

 俺が助けるしかない状況であるが、俺の『暗影』スキルはまだクールタイムを終えていない。

「……『運』がなかったと諦めろ」

「いやだ! 僕が諦めたら、連鎖的にキョウチョウが駄目になるからっ」

 グウマは短刀の柄を短く持ち、ワンステップでアイサの間合いに侵入した。最小の動きで首の動脈を斬り割いてしまい――。


「――そこまで堕ちたというのか、グウマ。……忍者衆のおきてだ。抜け忍は始末する」


 ――寸前、気配を完全に殺していた灰色髪の女が出現した。

 アイサの首筋を狙っていた短刀をクナイで受け止めて、力強くはじく。反撃のタイミングを逃さず、そのままグウマへと斬りかかっていく。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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