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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十一章 現実化する様々な危機
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11-8 予期せぬ進軍

 新たに部屋を訪れてきたカルテを合わせて、室内の男女比率は一対三。

「出たな、僕よりも年老いたハーフエルフ」

「この子興奮しちゃってどうしたのよ」

「小娘ですから青いのですわ。そんなに敵視しなくても、ポッと出の女など無視すればよろしいのです。所詮は貧相な体を使わねば寵愛を求められぬ悲しい生き物ですのに」

「ねぇ、そこの子。まずは人類の裏切り者から始末するのが先刻だと思わない?」

「同意します。殺し合う宿命ですが一時同盟を結びましょう」

 人類の醜い縮図が展開されている。これを止めるのは人類を滅ぼす以上の労力が必要とされるのではなかろうか。

 レベルだけを考えれば月桂花の圧勝となるが、果たして彼女達にとっての勝利条件とは何なのか。そもそも彼女達に得る物はあるというのか。争い事はいつもむなしい。

 どの勢力に加勢しても角が立ちそうなので、口を挟むのを躊躇ちゅうちょする。

 まあ、これ以上状況が悪くなる事はないだろうから、少しぐらい放置していても問題は――。


「ここにいましたか! この私を、実家に帰らせてください!!」


 ――異世界の天と地のはざまには俺では思いもよらない事がおきるものだ。新たに女が一人室内に投入されるなど誰に想像できる。

「今すぐ家に帰して!!」

 場の属性は混沌へと上書きされる。既に収拾がつかなくなっていた気もするが、今は完全にお手上げ状態だ。大人しく『暗躍』スキルを発動して気配を消し去って様子をうかがう。

「……また変なのが!」

「……どなた?」

「……ああ。教国の巫女様、ね」

 銀髪長髪で、目がキラキラしているのが特徴の彼女の名前は……ふーむ、はて、誰だっけ。『記憶封印』スキルの所為で記憶喪失だからなぁー。

「カルテ様! この私を今すぐ教国に戻してくださいっ!」

「リセリ様であっても、それはできない相談です」

「何故ですか!」

 そうそう、現れた女の名前はリセリだ。

 リセリは俺ではなく、カルテに詰め寄る。リセリに手を出した覚えはなかったので恐れる必要はなかったとはいえ、かなり安堵あんどしてしまう。

 特徴的な銀髪は乱れまくっている。

 怒りにも似た焦燥感ある表情で懇願している。

 リセリにとって重大な事が発生したようであるが、詰め寄られているカルテは冷淡だ。リセリに迫られる事をあらかじめ知っていなければ、これほど冷静に対応はできるはずがない。


「リセリ様もその情報を知ったから焦っているのでは? 祖国に帰りたくても、もう西の国境は魔族の軍勢に埋め尽くされていると」





 大陸を両断する山脈を境として、東は魔族が多種多様な生態系を築く魔界、西は人類が細々と暮す人類圏。それが世界の不文律であった。

 ナキナ国は最も魔界に突き出した国として果敢かかんにも、魔族の侵攻を受け止める盾として機能していた。実質国際社会から見捨てられているのだが、だからこそ魔族侵攻が発生したとてもナキナが滅びるまでは安心できる。時間稼ぎぐらいにはなる。それが世界の定説であった。

 ナキナの隣国、オリビアなどはナキナとの境に長城を建設し、ナキナ崩壊に備えていた。流石にオリビアまで落とされては人類も危ういため、大国もこぞって協力したという。

 数キロにわたる壁はほぼ完成しており、たとえ、今すぐナキナが滅んでいたとしても魔族百万を防ぎ切る蓋として十全に機能する。高位魔族の五節魔法さえも霧散させる。魔王であっても壁を無視して通り抜ける事は不可能。

 ……長城に対する人類の自信は正しかった。

 だからこそ、オリビア国が滅んだとしても、長城だけは未だに建ち続けるだろう。


「てっ、敵襲ゥゥゥッ!?」


 オリビアの兵士が異変に気付いたのは明け方。朝駆けと言われる程に定番な奇襲時刻である。

 長城の内側に突如現れたインプの群が、兵舎を強襲したのである。紫色の肌をした小悪魔共は寝静まっている兵士達を三叉槍で次々と刺し殺した。一人ずつ刺し殺す時間が惜しくなれば、兵舎の扉を外から封じて、火炎魔法で焼き殺していった。業火の中で悲鳴が溶けていく。

 出現したのはインプだけではない。長城の後背地にあった街では、ゴブリンやオークといったメジャーなモンスターが民家を襲撃している。

 兵士達の大切な家族が住む住居区画。不運にも目覚めてしまった子供の泣き声が響いては途絶えていく。

 行きつけの酒場や遊女屋が立ち並ぶ商業区画。街の食を支える農業区画。各所にて、早起きな働き者達の断末魔が輪唱を奏でる。

 少々不気味なのは、老若男女問わず皆殺しにされている点だ。集団として統制が取れ過ぎている。オークもゴブリンも人間族の女に欲情する化物であるため、街の制圧を優先して女も始末しているのは化物らしくない行動である。

 いや、任務を放棄して本能的に女を襲っているオークはいたのだが――、


「困りますな。今は作戦中。勝手に動く愚か者には、死んでいただかねばなりますまい」


 ――鼻の長い毛むくじゃらな化物が適時対応している。そのため、低級魔族の軍勢は忠実に人間族を始末していく他ない。

 甲高い破裂音が響く。また一体、オークが粛清された音だ。心臓麻痺を起してしまいそうな独特の音は区画をまたいで伝わるため、知能の低いオーク共に対しても分かり易い警告となっていた。

「これは申し訳ない、人間族の悲劇的な少女よ。深い悲しみで汚された記憶を鼻先に感じます。せめて私が即死させてあげましょう」

 また破裂音が鳴る。被害者だった人間族の眉間みけんに穴が開いて、その穴から血を流す。もう悲痛に苦しむ事はなくなった。

「命中精度は高まりましたが、まだまだ改良の余地はあるようだ。火打石を使うアイディアは悪くありませんでしたが、単発式なのが悲しい所です。まったく銃とは、実に研究のしがいがある」

 鼻の長い化物はトリガー部分に指を通して、破裂音を発生させた武器をクルクル回して遊んでいる。趣味で自作した新作の出来にそこそこ満足している様子だ。

 人間族による抵抗はほぼ皆無だった。街に住む五千人の生命は一時間足らずでついえた事になる。

「長城の占拠も……無事に済みましたか。お見事です、シスターズ」

 インプに襲われていた長城からも悲鳴は収まっていた。火の手が上がっていた兵舎も、今は炎ごと石となっているため静寂を取り戻している。

 長城の司令塔だった高台を陽光が包む。飛べない鳥共の影が、何枚も羽を伸ばしていた。


「長城の占拠はこのまま任せて問題はないでしょう。我等はこのまま電撃的に進軍し、オリビアの首都を陥落させましょう」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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