10-8 寄生魔王の計略
『騎士団前へ! 魔王だろうと怯むなッ』
「時間をかけ過ぎた? ぞろぞろと雑多に現れて――氷柱群」
『魔法攻撃! 属性氷! エコーズ小隊前へ、受け止めろォッ』
異世界人同士の高レベルな戦いが開始した。盾を前面に出した一小隊が前に出て、魔法障壁を展開、寄生魔王の魔法攻撃を受け止めている。
小隊が受け止めている間に、杖を持つ後方部隊が呪文詠唱を終えた。弧を描いて火球が数十、飛んでいく。魔法使いが杖を使っているのは何やら新鮮だ。
弾着と同時に火柱が発芽していく。まあ、その程度で寄生魔王がやられるはずもないが。
『倒れたエコーズを回収しつつ近接戦を仕掛けろ、ブラボー小隊、ゴーゴーゴー!』
「素体としては凡庸なのに錬度ばかりが高くて、嫌ね」
『支援砲撃、間隔長いぞ。何やってんのっ!』
向こうは楽しそうだな。俺も戦いに行こうか。
『貴方、どこに行こうというのかしら?』
足が止ってしまうが、これは命じられたからではなく自発的にである。
横に振り向くと、作ったような笑窪を見せる女がいる。
色白というか色素が薄い。白い肌と白髪に近い金髪を、肩口まで伸ばしている。意志の強そうな目が特徴的であるが、長いまつ毛も特徴的だろう。
ちなみに、左右に伸びている耳は人間族よりも確実に長い。が、エルフと比較すれば明らかに短く、実に中途半端である。
美人、というか、下手したら美少女と言って差し支えない。そういった外見だ。アニッシュの叔母でありながらそんな顔付き。実年齢からいって童顔が過ぎるとも言える。
「ええっと、初めまして」
どうしてだろう。部位的には目の周辺が誰かさんに似ていて好みだ。
『我が夫ともあろうものが、妻に対してそんな他人行儀でどうするの!』
だが、初対面でありながら精神面で安らぎを得られそうにない女と直感できた所為で、色々と台無しだった。
『夫としては正直期待外れだったわ。魔王相手にそこそこ戦えていたのは褒められたものだけれども、やっぱり、最後の醜態でプラマイゼロね』
「勝手に受理済みの婚姻届を送ってきた癖に、何を言っているんだこの女は」
『イントネーション最悪で聞き取れないから、ゆっくり喋りなさい!』
この女、名前はカルテであったか。
耳もそうであるが、本当にあの愛嬌のあるアニッシュの親族なのか疑わしい。心安らぐ芸術作品のような見た目をしていながら、言いたい事をそのまま言ってくるので気分がささくれる。残念な美人さんだ。
「いや、カルテでも何でもない。残念に構うのは後回しにして、寄生魔王の相手をしないと」
『ちょっ、ちょっと今、私と残念を言い間違えなかった?!』
騎士団は順調に押されている。数で勝る騎士団であっても、寄生魔王の一節魔法に対応が追い付いていない。負傷者が一定数以上に増えれば簡単に瓦解してしまうだろう。
『何を考えているの。寄生されかけていた癖に』
「違う違う。この右肩の奴隷の焼き鏝の所為で朦朧としていただけだ。今度は不意討ちして、命令される間も与えない」
『無謀だから待ちなさいな。騎士団はここに集合しつつあるから。今は派手に暴れているから劣勢に見えるけれども、『魔』が尽きるまで踏ん張れば勝てるから』
「もう何人も倒れているぞ! これ以上、黙っていられるかッ」
『ああもうっ、『花嫁絶対則』! 私から離れないでっ!』
戦闘へと参加しようと足を踏み込むが、カルテが命令にて制した。力を込めて跳ぶぐらいの気持ちで地面を蹴っても、足裏が離れない。
カルテにあーだこーだと文句を言っている間に、知っている顔が続々と集まる。
「お、叔母上!? 昼なのに化けて出ている!」
「キョ、キョウチョウが知らないエルフと親しげにっ!?」
『アニッシュ坊の癖にその言い草!』
「おい、アイサ。どうして矢を撃たなかった!」
戦場を迂回しながら、別方向からアニッシュとリセリのペア、アイサと月桂花のペアが現れた。アニッシュにはカルテが構い始めたので、アイサには俺が構う。
「俺を見殺しにするつもりだったのか、アイサ」
「ち、違うよっ! キョウチョウが寄生されないように、寄生魔王を撃たなかったんだ」
「どういう意味だ??」
援護しなかった事と俺が寄生されてしまう事の関連性が分からない。
走ってきたアイサは息を整えてから、アイサだけに分かった寄生魔王の計略を語った。
「『鑑定』で見て分かった。寄生魔王は、死ぬと次の生物に寄生できるんだ!」
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●寄生魔王(種族、真性悪魔)
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“●レベル:45”
“ステータス詳細
●力:65 守:41 速:203
●魔:695/1021
●運:0”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●忍者固有スキル『速・良成長』
●忍者固有スキル『暗視』
●忍者固有スキル『殺気遮断』
●忍者固有スキル『殺気察知』
●真性悪魔固有スキル『魔・特成長』
●真性悪魔固有スキル『耐物理』
●真性悪魔固有スキル『呪文一節』
●魔王固有スキル『領土宣言』
●魔王固有スキル『低級モンスター掌握』
●実績達成ボーナススキル『投擲術』
●実績達成ボーナススキル『爆薬知識』
●実績達成ボーナススキル『憐れむ歌(強制)』”
“職業詳細
●魔王(Cランク)”
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“『憐れむ歌(強制)』、体を失った真性悪魔を憐れむスキル。
寄生した体が死亡した場合、別の生物に寄生できる。
ただし、百秒以内に寄生できなかった場合、本スキル所持者は完全に死亡する”
“実績達成条件。
真性悪魔の中でも高位の存在が、体を滅せられても魂だけで活動し、この世に執着する”
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アイサの宝石で出来た義眼は本当に優秀だった。視界に収めるだけで相手のステータスを確認できる。相手が魔王であっても例外ではない。
寄生魔王についての一番の懸念は寄生手段であったのだが、アイサの功績により判明した。知らずに挑んでいたならば、どんな生物も勝利した瞬間に寄生されてしまっただろう。
ただし……決してアイサが悪い訳ではないのだが。
「そんな反則ありかッ!!」
強力なスキルを前にしては、叫ぶぐらいしかできそうにない。
騎士団は勇敢に戦闘を続けた。
傍にいた仲間が魔法で吹き飛ぼうとも、長剣が握った手ごと魔法で吹き飛ぼうとも、前進を続けた。ナキナ王都を攻め込まれた彼等は本丸を攻め込まれたも同じ。士気高く戦闘を続けるのは当然と言えた。
山を登り、または山頂の山城から続々と増援部隊が到着する。
こうして、寄生魔王の包囲に成功する。
四方に陣を敷いて、魔法とスキルを併用した結界を構築。寄生魔王はもう逃げられない。このまま消耗戦を続けた場合、被害は甚大であるが騎士団は勝利できるだろう。
「あはっ、流石に一人でここの人間族全員を相手にするのは辛いかしら」
それでも、ニヤりと歪めた口が開かれ、唇同士を唾液が汚らしく繋ぐ。
窮地に踏み込んだ。こう理解していながら、それでも寄生魔王は真性の悪魔みたいな笑顔を続けていた。
「けれど……あはっ。誰が一柱だけでやってきた、って言ったかしら」
遠くから、山の麓に広がる街、その更に端で発生した轟音が、山の中腹まで届く。
警戒態勢が強まり、閉ざされていたはずの城門が穿たれた破壊音に紛れて聞こえる。狂った魔獣の、叫び声だ。
“GaGa、GaAAAAAGAAッ!!”
現在まで判明した敵勢力:
○『ダンジョン』迷宮魔王 (???)
配下:○オルドボ (オーガ) ×メイズナー (ミノタウロス) ○エクスペリオ(???)
×『永遠の比翼』吸血魔王(吸血鬼)
配下:ゲオルグ (リッチ) グウマ (ゾンビ)
○『淫らな夜の怪女』淫魔王 (???)
配下:大型魔獣多数
○『毒頭』寄生魔王 (真性悪魔)
体:スズナ 魂:真性悪魔
配下:人類寄生ダニ
○『泣き叫び狂う』怨嗟魔王 (???)
○『行軍する重破壊』墓石魔王 (ゴーレム)
○『終わりなきコーラス』合唱魔王 (???)
○『法螺吹き男』山羊魔王 (???)
○『古式竜』竜頭魔王 (???)
○『翼竜の統治者』翼竜魔王 (???)