10-4 尋問
館を出て、併設されているやや入口の分かり辛い建物に入っていく。
牢屋とは地下に設置するものなのか。それとも、ナキナの建築様式がそういったものなのか。鉄格子と暗幕の向こう側にあった階段を下って、地下一階の牢屋に到着した。
地下迷宮でグウマが着用していたのと同じ、体に密着するボディスーツを着込んだ覆面が警備をしている。男も女もしなやかな筋肉が浮き出ており、『速』が高そうだ。
全員が鎧を着用した兵士ではない。一般的な牢獄ではないのだろう。
『さて、大体想像できているけれど、今回はどこの馬鹿魔族がナキナに喧嘩を売ってきたのか確認しないと』
RPGのように仮面の騎士に並んで廊下を進む。
最も奥の牢屋内。そこでは、壁に鎖で繋がれた男が上半身を裸にされていた。
猿轡は標準装備。目には目隠し、耳には詰め物。また、異世界的にはセオリーなのだろう。呪文が編み込まれた紐が蛇のように胴体へと巻き付いている。
完全に囚われた状態であるが……男は、何がそんなに可笑しいのか。轡を気にせず唾液を垂らして笑っている。
明らかな異常者だ。室内で自爆した男と同じように表情筋が歪んでしまっていた。
「アイサ。男に対して『鑑定』を行え」
「分かった。『鑑定』発動!」
==========
“●レベル:30”
“ステータス詳細
●力:30 守:15 速:111
●魔:13/13
●運:3”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●忍者固有スキル『速・良成長』
●忍者固有スキル『暗視』
●忍者固有スキル『殺気遮断』
●寄生虫固有スキル『寄生』(一時)
●寄生虫固有スキル『精神支配』(一時)”
“職業詳細
●忍者(Cランク)”
==========
「あ、怪しい寄生虫固有スキルがあるよっ」
「寄生虫。ダンジョンの中で見たダニ虫か。ダニ虫本体が弱過ぎて、宿主の『魔』と混じって寄生の有無を判断できない。が、アイサの眼があれば容易く暴けるか」
俺の独り言のような分析を聞き、アイサは必要以上に喜びを見せる。片手を握り締めて、声と同じように震えさせていた。
「そうだよ。僕にはこの眼があるんだ。キョウチョウの役に立てる」
アイサは傍にいるだけで俺の人間性を支えてくれているのに、今更何を喜んでいるのか。
湿気と陰気臭さで澱む地下に、アイサの自信を得た表情は相応しくない。寄生された男と対面させたくもないので、牢屋の中に入らないように忠告しておく。
「うちのエルフが寄生を確認した。おそらく喉奥に潜伏している。早く排除してやれ」
『まだ寄生を解いていないでしょうね。イバラ、轡を外して。耳の詰め物も。尋問を開始します』
騎士と灰色髪女に続いて牢屋内に入る。
繋がれた男は寄生されているだけ。罪のない仲間だろうに、処置してやらないとはこいつ等、Sだな。
灰色髪女が噛まれないよう慎重に轡を外すと、寄生された男の自嘲が聞こえてきた。
「あはっ、失敗して囚われて、自爆もできないなんて可笑しい」
自爆した男と同じく女口調だ。寄生ダニはすべてメスなのだろうか。
耳障りの悪い声が気に入らなかったのか。騎士は一歩近づいて男の喉をガントレットで握り締める。喉の気管が収縮し、隠れている寄生虫がもだえる。
『手口で大方予想できているけれど、聞いてあげる。お前の主は誰だ?』
「あはっ、苦しいわ」
『人間族に寄生する下等生物。答えろ』
「そんなに、力を込めちゃうと、この男が、死ぬわよ?」
騎士はいったん手を離した。寄生された男に配慮したのだろう。
『そうね、ごり押しは趣味ではないわ。……イバラ、殺虫液』
傍に控えていた灰色髪女に水差しを持ってこさせると、細い管から口へと中身を注ぎ始める。
味を確かめた男は暴れ始めたが、顎を固定させて無理やり注入は続く。
『農業用だけど安心しなさい。トウガラシとニンニクとか、臭いがきつい食材を聖水で煮詰めただけだから。人間族に対して味以外に害はないわ』
「げふぉ、なば、あばフォっ」
『これを噴霧すると、害虫がポロポロと落ちて死んでいくの』
「オボぉ、おぼォ!!」
『これでも新婚だから味は最高でしょう! ほーら、喉奥から脚が見えてきた、けど、駄目ねっ』
飲ませるために押さえ付けていた口を、今度は顎を押し上げて塞いでしまう。
唇の内側から触覚が出てきた。が、宿主にしている男が暴れて歯で噛み千切ってしまった所為で床に落下してしまった。
『出て行く前に、さっさと質問に答える。お前の主は誰だ?』
「んんーッ、んぶんーーッ」
自爆したぐらいなので、寄生ダニは個としての命に執着がないはずだ。ただし、それとこれとは別のようで、苦痛から逃れようと必死だ。
押さえつけられた手を押し返して、口を大きく開け放つ。
本体である節足動物の姿を口内から晒しつつも、最後に宿主の口で声を上げた。
「寄生魔王様こそがッ、我等の救世主だッ!!」
スプリングショットのごとく、脚部をバネにしてダニ虫は男から飛び出す。向かう先には騎士がいたが、兜を装備した相手に寄生はできないだろう。
いや、兜に取り付く前に、空中にいる間に左右から伸びてきた刀により串刺しにされて終わった。警護の覆面と、灰色髪女の刀だ。複数ある脚を丸めて小さくなっていく。
『確証は得られたわ。魔王連合の一柱が首謀者よ』
用済みになったダニ虫から刀は抜かれていき、ゴミのように床に落ちていく。
『それにしても救世主と言ったか。変なのが多いわね』
俺の耳にも吸血魔王の名前は届いた。とうとう、魔王連合の奴等と地上で戦う日がきたらしい。
『待たせちゃったわね、貴方。さあ、次はクリーム王の所にいきますわよ』
「忙しないな……」
騎士は俺がついてくる事を前提に、先に進んでしまう。
置いていかれるのも癪なので付いていくが――。
「まあ、拾っておくか」
――死ぬ前までは敵であったが、死ねば皆が仲間である。丸まって転がっている屍骸の下に黒い海を生み出し、沈ませておいた。