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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第九章 そこはナキナ国
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9-15 悩めるカルテの気付き

「……はぁぁっ、どうしましょ。この現状」

 王宮の最奥にある作戦室にて、カルテは大きな溜息をらした。

「…………はぁぁぁぁっ、本当、どうしましょ」

 まだ吐き足りないのか、溜息を連続で漏らした。

 カルテがいる作戦室は、玉座への直通路が存在するナキナの中枢だ。

 いや、中枢と呼ぶには狭苦しく、長机一つしか存在しない。また、法律を決める議会、軍略を決める司令部は正式なものが存在する。ただし、ここでは、しばしばナキナ上位陣が集い、非公式オフレコな話し合いが行われる。やはり中枢と呼ぶには相応しい対魔法作戦室シールド・ルームなのである。


「カルテよ。こんな夜遅くに呼び出して、何か重要案件か……ぇ?」


 夕食も何もかも終えた深夜、カルテが召集した人物はナキナの王様、クリーム・カールド・ナキナである。

「あっ、兄上ご無沙汰しております」

「あッ、アニッシュっ!?」

「恥ずかしながら、戻って参りました」

「アニィィィッシュ!! よくぞ、よくぞ無事に戻ったァ!!」

 そして、クリーム王よりも早く席に着いていたのは、事情聴取と魔法的鑑定により本人と認められたアニッシュ・カールド・ナキナ、クリーム王の実弟である。

 昼時、崩壊した関所でたたずんでいたアニッシュは巡回の兵士に拘束され、一時は関を襲った犯人として尋問されていた。血を取られる、催眠術をかけられる、自白剤を投与される、と様々な方法が十時間ほど試されたため疲労が顔に浮かんでいる。

 それでも、兄弟の感動の再会は、やつれたアニッシュと寝起きのクリームを満面の笑みに上書いた。

「兄上、うぅ、兄上ッ」

「アニッシュ、おお、アニッシュッ」

 長身だが痩せ気味なクリーム王と、困難によりたくましさを増したアニッシュが抱擁し合う。

「あー、そこの甥共。嬉しくて抱き合うのは私が就寝した後にして。もっと大切な話し合いがあるし、他国の姫君もいるんだから」

 ちなみに、作戦室の長机にはウェーブがかった銀髪の女性も同席していた。アニッシュと共に本人確認が行われた教国の姫、リセリ・リリ・リテリその人だ。

 更にちなみに……部屋の片隅には正座をしたまま微動だにしていない灰色髪女も存在するが、カルテは呼び出しておいて無視し続けている。

「まずはアニッシュ坊。奇跡の生還を果たし、よくぞ戻りました。正直、私は諦めていたのだけど、身内だからとあなどっていたのね。アニッシュ坊、見上げたわ」

「叔母上っ、とうとう余をお認めにっ」

「まあ、色々と国家規模の厄介事と一緒に戻ってくるなんて、私が素直な性格をしていないからって、素直に喜べない状況を作り出す必要はなかったのに」

「……う、うむ。叔母上はこういう人でした」

 魔族があふれ出た地下迷宮からの生還は、身内の吉報という局所的な話に止まらない。

 不穏な動きを見せる魔族共。複数同時に動く魔王共。

 生き延びたアニッシュは地下迷宮で起きた真実をたずさえて王都へと帰還したのである。


「兄上、叔母上。複数の魔王が連合し、人類生存圏への侵攻を企てております。即刻の対処を!」


 ナキナは魔王連合の実存を知った最初の国となった。

 協力し合うはずがない魔王共が協力している。名だたる魔王共が一緒に人類圏へと侵攻しようとしている。最前線のナキナが巻き込まれるのは確定的であるため、人類国家の中で最初に知り得た意味は大きい。

 普通は予兆があったとしても信じない。カルテも、身内のアニッシュと巫女職のリセリを別々の部屋で尋問し、証言が一致したから仕方なく信じているに過ぎない。

「それ、信じなきゃ駄目?」

「叔母上ッ、冗談を言っている場合ではありません」

「分かっているわよ。もう、地下迷宮行く前はもう少し大人しい子だったのに。成長をやっぱり素直に喜べないわ」

 地下迷宮内の出来事について知りたがっていたカルテであるが、魔王が連合を組んでいるなど知りたくなかった事だろう。事前に知らなければ対処できない事案であるが、知ったからといって対処できるものでもない。

 しかも、本件のスケールは、ナキナ一国に収まりきらない。


「ナキナの皆様方、話を聞いてください。世界は滅亡します」


 室内唯一の異邦人、リセリは発言する。


==========

“『神託オラクル(強)』、高次元の存在より助言を得るスキル。


 根本的には神頼りなスキルであり、いつも都合の良い助言が得られる訳ではない。そもそも、言語的な解読が困難な助言も多い。ただし意味が分かれば役立つ事も半分ぐらいある。

 神便りというよりは、アンテナの向きや天候、波長の合わせ方次第とも言える。

 結局は、スキル所持者の判断が求められる”

==========


 リセリは胸の前で両手を握って、虚空を眺める。己だけに繰り返し聞こえる神託を言葉にして皆に伝え始めた。

「――世界は滅びる窮地にあり。最大級の窮地に、抗う術なし。人類は滅びる。世界は終わる。生きとし生けるもの、皆等しく死滅する運命にあり――」

 意味が理解できる程に情報量の多い神託を得るには、本来、深いトランス状態に入るための聖域や特殊な香料を必要とする。

 ただし、リセリの場合は高まった『神託』スキルがある。多少のリラックスのみで、高次元よりの声を傾聴できていた。

「――この言葉が繰り返し『神託』されています。おそらく、魔王連合が原因で人類は滅びてしまうのです。この私は、魔王連合にはそれだけの力があると見ています」

 巫女職は役職柄、虚偽を口にできない事になっている。巫女がカラスを白と言えば、実際に白いカラスが本当にいる訳である。だから、巫女が人類滅亡を宣言すれば、人類は滅亡するのだ。

「諦めろとおっしゃりたいので、教国の姫君」

「いえ、絶望的な神託ですが、希望がない訳ではありません。――救世主は既に現れた。顔のない救世主は、そこにいる。世界にはまだ救われる可能性が残っている。神託にはこの一文も必ず添えられます」

「救世主。そんな御伽噺おとぎばなしにしか出てこない職業、頼りになれば良いけれど」

「顔のない救世主。この神託で最も抽象的な箇所のため、まだ解読できておりません」

 救世主職とは、数千年前、人類が魔族に追いやられた際に現れた究極職である。

 文献として残されておらず、かつては伝承としてのみ語られていた。そのため救世主職は誰でも知っている職業の癖に、具体的な能力が欠如して広まっている。

 親が子供に聞かせる話の中でよくあるのは、全職業のスキルを自由に使えた、などという荒唐無稽なものである。神話でよくある全能設定が過ぎるので、後の世で広まった誤解、後付け設定であるというのが通説だ。

 唯一確定しているのは、人類を救った、という実績のみだろう。だが、それすらもたった一人の人間の偉業とは思われていない。スキルと同じく拡大解釈と言われている。

 ようするに、救世主職などという希望は実に曖昧あいまいなのである。

 嫌疑的な顔を崩さないカルテに、クリーム王が語りかける。

「余も別のルートより救世主の事は聞かされていた。ただし顔が見えなかったため、誰が救世主職であるか手がかりがないそうだが」

「あら、クリーム坊が情報通なんて珍しい。私の母方関係かしら」

「カルテ。神託に従って救世主を探し出す必要がある。魔王連合なる魔族共が動き始めている以上、猶予はない」

「そうしたいのは山々ですけれど、顔も分からない人間をどうやって探せというのです?」

 カルテの悩みどころは多岐におよぶ。

 人類を滅亡させる魔王連合への対処。

 人類滅亡を回避する唯一策らしき、救世主職の実力。

 顔の分からない救世主職の捜索手段。


「…………はぁぁ、これだけでも肩の荷が重いのに、どこかの愚か者が問題を増やした所為で溜息が止らないわ」


 カルテは更に、もう一つの案件を抱えている。実は、ナキナとしては現状最も優先順位が高い。

「も、申し訳ございませんッ。このイバラ、せめて腹を斬って――」

「あー、はいはい。イバラの処遇は後回し。とてもそんな些事さじにキャパを振っていられる状況じゃないの」

 魔王連合も早期対策が必要であるのは間違いないものの、まだ国境を突破された訳ではない。既に王都へ侵入してしまっている魔王の方がより緊急性は高い。

「カルテよ、これ以上何があるというのだ」

「はい、クリーム王。現在、王都に魔王が侵入しております」

「兄上、それは間違いです。あの者は魔王みたいな力を持っておりますが、魔王ではありません!」

「ど、どっちなのだ??」

 人間族に擬態していた魔王が関所を破壊した、とカルテはイバラや関所の兵士から報告を受けていた。

「アニッシュ坊……いえ、アニッシュ。口を挟む事を許しません。人間に化けていたとはいえ魔王を王都に連れ込んだ罪、重いと自覚しなさい」

「ですから、それが間違いなのです。キョウチョウは確かに恐ろしい面もありますが、余はあの者に悪意を感じておりません。魔王などでは決してありません」

「イバラが先走ったとはいえ、それだけで関を破壊した者なのですよ。しかも、アンデッドを呼び寄せたという報告も上がっている。人間族か魔族かの区別など関係なく、危険な男を放置できますか。騎士団を動かします」

「そんな事をすれば、ますますキョウチョウの逆鱗に触れてしまうっ?!」

 アニッシュは必死に食らい付いているが、カルテは手をゆるめるつもりはない。

 クリーム王もまだ断片的にしか理解していないが、危険な人物が王都に入り込んでいるのであれば拘束する必要があると思っている。兄として弟は可愛いが、騎士団出動の許可を出すだろう。

 ただし、騎士団を出動させる前にカルテは気が付く。拘束しようにも、キョウチョウという名前らしい魔王の顔を知らないのだ。

「イバラ。その者の顔を覚えていますか?」

「もちろんです。死者を操り、闇の世界を作り出すあの恐ろしき魔王には、顔がありませんでした!」

 顔の分からない相手を、探し出す事はできない。


「そう、顔がなかったの。それは発見し辛いのかし易いのか分からない特徴ね。まあ、騎士団がどうにかしてくれるでしょう…………ん、んんっ、顔がない?」


 カルテはまた気付く。

 キョウチョウなる人物の特徴、つい先程聞いたばかりではなかっただろうか。


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