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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第九章 そこはナキナ国
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9-5 地下牢講習その二、生物

 パラメーターもスキルも奴隷の焼印を使われて強制的に言わされた事がある。今更、アニッシュに隠す事はない。

 アニッシュに最新のパラメーターを教えてやると、何とも言えないうなり声を上げ始めた。

「う、うーむ。ふーむ? これは真か? 『速』を除けばレベル72だったグウマより優秀ではないか」

「老人と比べられてもなぁ」

「グウマは年老いてなお、忍者衆のトップに立てる程に際立ったパラメーターを誇っておったぞ」

 レベル40だったスズナと比較しても、俺のパラメーターは異常に高いそうだ。

 確かにレベルアップ時に厳選しなくても、最近はかなり良い成長率を見せていたので無邪気に喜んでいたのだ。大学生にして、やや遅い成長期がきたのだろうと思っていたが違うのだろうか。

「高いのは嬉しいが、所詮は他人の二倍か三倍だろ? 集団には勝てない」

「学説的に、個人と複数でパラメーターの値の合計が同じであれば、複数は絶対に個人に勝てないと言われておる。だから人間族は魔王を恐れて、唯一対抗可能な勇者を求めて止まないのだ」

「言いたい事は分かるが、その学説は絶対じゃない。俺が吸血魔王に勝てたのはパラメーターのお陰じゃないぞ」

 異世界の学説がすべて間違っているとは言わない。レースで軽自動車十台とレーシングカー一台が勝負して、軽自動車が勝てる可能性は万に一つしかないだろう。

 だが、レース場がサーキットではなく、入り組んだ市街地ならば話は別だ。軽自動車は最低限のスペックがあれば良い。テクニックを持ったドライバーが搭乗していればなおの事。

「それこそ無謀無茶な空論と断じられるものであるのだが……事実、魔王は敗れた。キョウチョウの常識外れを論じても今更か」

 パラメーターの成長率には先天的な理由と後天的な理由があるらしい。

 先天的な理由は、親が優秀だと子供も優秀になり易いようだ。遺伝性があるのだろう。アニッシュの『魔』や『運』が平均値を上回っているのも、ご先祖ががんばったからである。

 後天的な理由は、職業だ。『戦士』職ならば『力』の成長で優れ、『魔法使い』職ならば『魔』ばかりが成長していく。

 記憶喪失のため己の出自は忘れてしまっているが、たぶん、俺はサラリーマンの直系だろう。それにダンジョンに到着するまでパラメーター成長率は平凡だった。俺に先天的な理由は当てはまらない。

「まさか、キョウチョウの職業は『勇者』であるのか?」

「そんなはずあるか。今は『死霊使い』職だ」

 ただし、後天的理由にも疑問符が付く。『死霊使い』職という陰湿な職業柄に、成長補正があるとは思えない。


==========

“職業詳細

 ●死霊使い(Dランク)

 ●救世主(初心者)(非表示)

 ×アサシン(?ランク)(封印中)”

==========


 封印中となっている『アサシン』職は気になるが……どうして俺、こんなに暗部の職ばかりに就いてしまっているのだろう。顔に穴があるだけの善良な市民だというのに。

「もしかして、兼業していると両方の職業の成長率が加算されている?」

「兼業は止めておいた方が無難であるぞ。職業ランクの上昇がいちじるしく悪くなり、どっち付かずな状態となる」

 『戦士』『格闘家』『魔法使い』の三職兼業による擬似勇者ビルドは不可能という事らしい。そればかりか職業ランクが上がり難くなり、BやCランク止まりになってしまうようだ。

「よほどの才能があるか、一つの職業をSランクまで高めてからであれば別であるが。ただ、職業をSランクにするだけでも人生一つでは足りぬのが実情だ。兼業は止めておくのだ」

 そのアドバイス、もう遅いです。

 まあ、俺のパラメーターが他人よりも優れているか否かなど、世界情勢と見比べるまでもない。己の『力』や『魔』の値を知って一喜一憂していると、敵の強大さを知って絶望してしまう。


「アニッシュ、勇者に頼るのはもう止めておけ。魔界から現れようとしている敵は魔王単体ではない。魔王の連合だ」


 先程聞かされた異世界の学説いわく、個と複数のパラメーターが同値の場合は個が必ず勝利する。

 ならば、たった一人しかいない勇者と複数の魔王が争った場合、勇者に勝ち目はない。学説に従って、人類は滅亡する。

「俺達はダンジョン内で複数の魔王を目撃した。魔王連合は実在し、魔王が協力し合っているのは疑いようがない」

 人間が人間同士で戦争するように、魔族も魔族を敵と見なして殺し合うのがこれまでの常識であった。が、魔王連合はその常識を崩した。人類圏侵攻のために停戦し、手を取り合っている。

 魔王連合の構成は、現在判明しているだけでも六体。

「潜伏場所を貸していた『ダンジョン』が魔王連合に加担しているのは確定だ」

 『ダンジョン』迷宮魔王。未だ正体が知れぬ魔王であるが、魔王連合として積極的に行動している。魔王連合は、地下のダンジョンから侵攻を開始したのである。

「『永遠の比翼』は討伐済み。『淫らな夜の怪女』には見逃された」

 『永遠の比翼』吸血魔王。

 『淫らな夜の怪女』淫魔王。

 俺をバッドスキルで呪った張本人達だ。魔王連合として暴れ始める前に吸血魔王を仕留められたのは上々であったものの、複数の大型モンスターに守られる淫魔王は手出しが難しい。早期討伐は困難だろう。

「『毒頭ポイズン・ヘッド』の人類寄生ダニも目撃したよな?」

「――ああっ、そうだ。あやつは余の敵だ」

 『毒頭』寄生魔王を挙げた瞬間から、アニッシュは奥歯を噛み締めて両手を強く握り込む。

「何かあったのか??」

「…………スズナが、魔王に乗っ取られた」

 アニッシュは悔しみを込めながら、寄生魔王とエンカウントした際の状況を語る。

 どうやら、寄生魔王は人間族に乗り移る特殊なスキルを有しているようだ。将来性やレベルアップ余地のある若人の体目当てに現れた寄生魔王は、苦もなくスズナを乗っ取った。

 聞いただけでも危険な魔王だと分かる。

 魔王討伐可能な人材を集めたとしても、寄生手段が分からない状況で寄生魔王と戦えば討伐する寸前に体を乗っ取られてしまう。乗っ取った体で悪事を続けて、飽きれば別の体へと寄生してしまうのだろう。しかも体を奪えるのであれば、整形して逃亡を続ける凶悪犯よりも楽に逃げられる。

 俺の体が乗っ取られるのであればまだマシな状況だろう。だが、例えばアイサの体が奪われた場合、俺は手出しできるだろうか。

 吸血魔王とも異なった方向で討伐困難な魔王だ。寄生手段が分かるまでは放置せざるをえない。

「残りは確か、全身ずりけた異形の『泣き叫び狂う』怨嗟えんさ魔王と、山向こうに少し見えた『行軍する重破壊』墓石魔王だったか。……数が多いから整理するぞ」


『本文:

○『ダンジョン』迷宮魔王(?)

三騎士:○オルドボ(オーガ) ×メイズナー(ミノタウロス) ○エクスペリオ(?)


×『永遠の比翼』吸血魔王(吸血鬼)


○『淫らな夜の怪女』淫魔王(?)


○『毒頭ポイズン・ヘッド』寄生魔王(?)

  体:スズナ


○『泣き叫び狂う』怨嗟えんさ魔王(?)


○『行軍する重破壊』墓石魔王(?)』


 手荷物は牢屋に入る前に取り上げられていたのでペンも紙も持ち合わせていない。ただし、『暗器』で隠していた物体は別である。

 手の内に携帯電話を出現させて、メールの下書き機能で書きとめていく。画面が小さいので全体を表示できなくて、こういう時はスマートフォンに憧れてしまう。異世界では買い替えようもないのだが。

 横からアニッシュが液晶画面を覗き込んできた。日本語で書かれているため読めないだろうに。

「この箱は文字も書いてくれるのか。便利であるが、中の箱精霊カミュータは書いたり消したりと大変だろうに。その頭の○と×は討伐を示しているのか?」

「え? えーと、そうだが読めるのか??」

 アニッシュは普通に読んでしまった。『異世界渡り』の実績達成済携帯だからだろうか。紙屋優太郎とも連絡を取ったらしいし、ありえる話だ。

「あの後、怨嗟魔王はどこに消えたのだ」

「あの気色悪いモンスターは色々やって倒した」

「あれの種族はナックラヴィーというのだが、吸血魔王のみならず怨嗟魔王も倒してしまったのか!?」

「ナックラヴィー? 討伐のポップアップにはケンタウロスと表示されたが。そのナックラヴィーとやらは怨嗟魔王自身ではない。本体は別にいる」

「それが分かっただけでも大発見であるとキョウチョウは理解しているのか。あと、墓石魔王の種族はゴーレムである。カッコ内に書き加えると良い」

 現在判明しているだけでも六体の魔王が魔王連合に参加している。総数はもっと多いのだろう。

 ナキナは魔王連合に襲われる前から風前の灯のような国だ。魔王連合の大軍勢に襲われればひとたまりもない。


「キョウチョウ。魔王を書き連ねてよりはっきりと不安が増した。余はこれからどうナキナを守れば良いと思う?」


 アニッシュにとっては故郷であるが、俺にとっては馴染みない異世界の小国。だからという訳ではないが、具体的な国防案が即座に浮かぶはずがない。

「……と言われても、俺、戦略や軍事系のゲーム苦手なんだよな。いっつも兵站へいたん集めている内にターン制限でゲームオーバーしていたから」

 そもそも、俺に軍師的思考を求める事が間違っている。人には向き、不向きがあるのだ。

 俺に国家規模の危機を救う力はない。

「吸血魔王を倒した実績あるキョウチョウしか頼りがいないのだっ!」

「まあ、当てがない訳でも――」





 大学生の夜は遅い。

 特別、ある地方都市に住む一般的な大学生たる紙屋優太郎は、一週間ごとに睡眠不足の夜を過ごしている。胃はカリカリとねじれて痛む、精神疲労の所為だ。決して、友人の安否を気にしての寝不足ではない。

 しかし、今日は意外と早く眠れそうである。いつもは遅く、一日ぐらい平気でズレてやってくる異世界よりの定期連絡が深夜零時前にメール送信されてきたのである。


『件名:目指せ、名軍師!

 本文:

 拝啓、紙屋優太郎様

 

 凶鳥です、お陰様で元気です

 少し前にダンジョンから脱出しました


 それはそうと、今ナキナって国にいるんだけどマジやばい!

 魔王六体以上から襲われそうなのに兵力一万でどう守る?


●条件

 国は山脈に囲まれている。中央に少し平野

 東に魔界。西に人類国家

 魔王連合は魔界より侵攻。兵力不明


●魔王連合

○『ダンジョン』迷宮魔王(?)

 三騎士:○オルドボ(オーガ) ×メイズナー(ミノタウロス) ○エクスペリオ(?)

×『永遠の比翼』吸血魔王(吸血鬼)

○『淫らな夜の怪女』淫魔王(?)

○『毒頭ポイズン・ヘッド』寄生魔王(?)

○『泣き叫び狂う』怨嗟えんさ魔王(?)

○『行軍する重破壊』墓石魔王ゴーレム


「…………あの馬鹿が。俺を何だと思っているんだ? 内容ほぼ無いに等しいのに、解決法は丸投げだろ、これ」

 大学生の夜は遅い。パソコンを使い、軍略の歴史について検索を開始する。

 結局、本日も優太郎の夜は長くなりそうだ。


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