9-2 王都への道中
王都に近づいているというのに、人里らしき場所は発見できない。結果、本日は平原真っ只中にある枯れた大樹の傍で野営となった。
俺が聞いていない所為もあるのだが、出身や階級の良く分からないメンバーで構成されたパーティにチームプレイは要求できない。そのため、野営準備はあえて協力を怠り、各自の力量が試すようにしていた。
アイサは食べられる草と薪木の回収へと出かける。
リセリは『神楽舞』スキルで舞ってモンスター避けの陣確保。
月桂花は空へと浮かんで周囲の偵察。
アニッシュは長ったらしい呪文で火種作成。
「おお、意外な程に様になっているな。このパーティ」
『キョウチョウさんも何か食材を確保してみてはいかがです?』
「……うぃっす」
リセリに促されたので、俺も夕食探しに出かける。アイサが野菜なら、俺は肉が良いか。
スキルの数には自信がある。魔界でサバイバルしていた経験もある。ハンティングぐらい造作もない。
暗くなりつつある平原を見渡すために『暗視』スキルを使用し、野生生物に気配を悟られぬように『暗躍』スキルを発動させた。
どこかに食べられそうな生物がいないか探っていると、げっ、という濁音を口から漏らしてしまった。
何故かと言うと、視界内にゴブリンがいるからである。プレーリードックのように可愛くない癖に、地面の穴から頭だけ出して外を覗っている。
ゴブリンは食べ物ではないが、見つけてしまったものは仕方がない。
闇に紛れながら接近していく。低級の最下層たるゴブリンは俺に気づかぬまま明後日の方向を監視し続けている。
無防備な背中からゆっくり近づくと、ゴブリンの首根っこを掴んで穴から引っ張り上げた。本当はナイフで仕留めるつもりであったが、力加減を誤って首の骨を砕いてしまう。
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“●ゴブリンを一体討伐しました。経験値を一入手しました”
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「いかん、一気にレベルアップした所為で力の入れ具合が分からない」
穴はゴブリンの巣へと通じているに違いない。穴のサイズ的に侵入は困難。となれば、火炎魔法を撃ち込んで蒸し焼きにしてしまうのが良いか、穴を埋めて窒息させてしまうのが良いか。
「他に出口があるかもしれないから確実性が薄い……なら、このスキルを使おう」
首が直角に曲がったゴブリンを降ろしてから、仮面の奥へと念じるようにスキルを発動させる。
「『動け死体』スキル発動。巣穴を掃討せよ」
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“『動け死体』、死霊を使う魂の冒涜者の悪行。
死者の魂を冥府より帰還させ、死体に戻し、生きる屍として蘇らせる。大前提として、生前の体が必要である。
断片化された魂が体に戻ったところで、生前の理性は取り戻せない。
冥府でも個を失わなかった悪霊が体に戻ったところで、生者の大敵にしかならない。
本スキルだけでは生きる屍を調伏できないので要注意。本スキル所持者よりもレベルが低ければ、自由に操作できる。複数の屍を操る場合、屍のレベルは合算して計算するべし”
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今しがた死んだばかりのゴブリンが、体調悪そうにゆっくりと立ち上がる。そのまま俺の命令を実行するために穴の内部へと入っていった。
三分待たずして、小モンスターの悲鳴が穴から響く。
ニ、三匹がまとまって穴から脱出してきたのを背後から襲って討伐。無慈悲にそいつ等の死体もスキルで操ってまた穴へと戻した。
「屍のレベルの合算が、俺のレベルより低ければ操作可能だったはず。ゴブリンはレベル1で俺の今のレベルが17だから、十六体まではいけるか」
結果的には十六体も操る必要はなく、掃討は完了する。九体の屍ゴブリンを送り込んだ後、もう悲鳴は聞こえてこなくなった。
やはり、『動け死体』スキルは弱者相手であればかなり有効だ。倒す事で、敵を自戦力化できるところが特別気に入っている。毎回、ゴブリン相手にしか使う機会がないため実データが足りないものの、今後は使う機会が増えるだろう。
「おーい終わったなら戻ってこい」
穴に問い掛けたところ、血みどろの屍ゴブリンがよろよろと姿を現す。そんなに大きな群れではなかったようだ。
「ナキナ国の首都近くに巣がある事自体が問題だと思うが。そうだ、ゴブリンだって生物。何か食べるはずだ、……屍ゴブリンよ、巣の中に食い物はないのか。できれば肉が良いんだが?」
頷いた屍ゴブリンは一度穴へと戻ってから、また顔を出す。
その手には引き千切った仲間の片腕が握られており、俺へと献上するように差し出された。ポタポタと血が滴っており、まだ新鮮だ。
「……遠慮する。掃討ご苦労、内側からすべて穴を埋めた後、永眠を許可する」
頷いたゴブリンは無感情に穴へと消えていった。
『ねえ、キョウチョウ。血臭がしているけど、どうしたの?』
本日の楽しい夕食はアイサお手製の雑草盛り合わせである。可愛いエルフの手料理が食えるのだから楽しくないはずがない。
『狩りには失敗したのですね』
アニッシュが起した焚き火を囲んで、皆で楽しく草や茎をかじる。
……まずい、今夜は俺だけ役立っていないぞ。
夜を越え朝を越え、山を幾度か越えた先にようやく見えてきたのが、ナキナ国の王都だ。
周辺で最も高い山に寄り添い、街が扇状に広がっている。石垣に囲まれた城らしき建造物が街中と、山頂の二箇所に建てられているのが見受けられた。
王都だけあって作りが立派である。
というか、無骨なまでに頑丈な街作りが成されている。これでは都市ではなく山城だ。
山の麓にある建物は日常生活用で、敵が攻め込んできた際には山の上に逃げ込んで防御を固める。街の周囲には天然の城壁たる山脈。防御に徹すれば十倍の兵力に攻め込まれても耐え切れそうだ。
明らかに大軍に攻められる事を想定した街作りであり、ナキナの実状を憶測できる。
「景色は良いが、平地が少ない。王都にするには不向きな場所のはずだが」
『余が生まれる前と生まれた後の二度、遷都した結果がここだと聞いておる。魔王の軍勢に襲われても耐え抜いた実績のある素晴らしい王都であるぞ』
「……それって国が陥落直前だったって事じゃないか?」
誇らしそうにしているアニッシュに一度ツッこんだ後、皆に提案する。
「さて、王都にもう直到着するが、その前にやっておく事がある」
大事な要件だ。これまでのように、ダンジョンの内部で魔族相手に戦っていたようにはいかない。密林で迷彩服を着用するように、人口密集地に赴くのであればTPOを意識するべきなのだ。
空気を一新する言葉に、全員が傾注する。
俺はパーティの中から、女性メンバーの顔を順に見回した。
「アイサ、植物魔法の出番だ」
「次の者、王都は現在警戒態勢中である。身分を検めさせてもら――」
城下町へと続く関所にて、俺達一行は兵士に止められる。槍を持つ兵士に、行く手を遮られた。
だが何の不都合もない。ナキナ国の王族たるアニッシュがいるのであれば顔パスで通過できる。
「――ナ、なんだ、お前達は!? どうしてほぼ全員仮面を付けている!」