2025.4.2
ここまで見た目ではわからないJoy-ConやProコントローラーの変化を教えてもらいましたが、見た目でわかる変化もあるようです。コントローラーに新しく追加された「Cボタン」が気になるのですが、これは一体どういったものでしょうか。
これはNintendo Switch 2 の新しい特長である「ゲームチャット」※18を使用するときに押すボタンです。Nintendo SwitchでもNintendo Switch Onlineアプリを使ったボイスチャット機能がありますが、本来は本体機能として搭載したかったものなんです。
ただ、Switchの処理性能ではゲームに影響を与えず実現するのが難しかったので、スマートデバイスを使ったのですが、Switch 2 では本体機能として標準搭載することができました。
子どもの頃、友だちの家や部室で、みんなでゲーム機を持ち寄って遊んだ経験がある方も多いと思うんですが、あの感覚をオンラインで再現したかったんです。
そんな時、みんなで同じゲームを遊ぶこともありましたが、バラバラのゲームをしているのになぜかみんなで集まって遊んでいることもありましたよね。
※18ゲームチャットの利用には、インターネット接続環境とNintendo Switch Onlineに加入中のニンテンドーアカウントなどが必要です。そのほかの利用条件などについてはこちらをご覧ください。
確かにゲームボーイのポケモンを公園で集まって遊んでいる、みたいな光景はよくありましたね。
今回は本体機能で、みんなでしゃべりながら同じソフトを一緒に遊ぶことも、バラバラのソフトを遊ぶこともできます。
また、コロナ禍で一時期ソフトの開発がリモートで行われていたことをきっかけに、今回追加された新しい機能がありまして。
当時ビデオ会議システムで、開発中のソフトを開発スタッフと確認していたのですが、ビデオ会議システムに備わっている画面共有の機能ではゲームプレイ画面をひとつしか共有できなかったんです。
そこで、みんなの顔が映っているところにそれぞれのゲームプレイ画面を映してみたところ、「みんなでゲーム機を持ち寄って遊ぶ」感じが出て嬉しかったんですよね。
その経験から、みんなのゲームプレイ画面を共有する機能も、Switch 2 の本体機能に入れるというのはどうでしょうか、という提案をしました。
やっぱりゲーム開発者は、ゲーム機自体の性能をゲームで最大限に活かしたくなりますので、システム側で使える性能は最低限に絞るのですが、ゲーム画面の共有の実現が今回重要で、それが「器」を大きくした価値だとも思ったので、やってみましょうということになりました。
新しいチャットの話を聞いた時、ソフト開発の皆さんは可能性を感じたのでしょうか。
ゲームソフト開発側が何か特別に追加しなくても、本体機能によって新しいチャット機能が実現できてお客さまに新しい価値を提案できるうえに、もしかしたらまったく違ったゲームの遊び方が見つかるきっかけになるかもしれないという可能性を感じました。
例えば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は最初、据置型のWii U用につくっていましたが、それをSwitchで動かすことで「どこでも遊べるようになる」という価値が生まれたんです。
今となっては当たり前に感じられるかもしれませんが、「それまでずっとテレビの前で遊ぶしかなかったゲーム」が突然「どこでも遊べるようになった」というのは、ソフト開発者側が何かを追加をしたわけでもないのに、つくったソフトの価値が上がったような感覚があったんです。これはすごいなと思いました。
今回のゲームチャットも同様に、Switch 2 で動くすべてのソフトに自動的についてくる付加価値になっています。「オンラインゲームをみんなで楽しむ」みたいな使い方はもちろんですが、一人用のソフトでも、みんなに画面を見てもらって攻略法を考えたり、わからないところを教えてもらったり。あるいは、自分が知らないソフトを遊んでいる人がいれば、「なにそれ?」と、興味を持つキッカケにもなると思います。
そういった形で、ソフト開発者が特別な工夫をしなくてもSwitch 2 向けソフトとして出せばソフトとしての価値を勝手に上げてくれる。これはつくったソフトに「持ち歩ける」価値を加えてくれたSwitchの正統な進化と言えますし、後継機種としてひと味違うものでもある。Switch 2 に搭載する価値があるのではないかと思いました。
ソフト開発者の皆さんが何もしなくても恩恵を受けられるというのはすごく大事なことだと私たちも思っています。ただ、コロナ禍で世の中にビデオ会議が普及したために、今はビデオ会議システムのようなものに対する要求や期待がより多様化しています。
ゲームチャットの仕様もどこまで要求に応えるのかによって、ゲームに使える処理性能が影響を受けてしまうので気をつけなければいけません。
ですが、幸か不幸か、隣に良い意味でものすごく口うるさいソフト開発者の人たちがいてくれたおかげで良いバランスに整えることができました。いろいろなことをはっきり言ってもらえるので、任天堂らしいものづくりをする環境が整っていると思っています(笑)。
ソフト側とシステム側で使える処理性能を巡って、予算交渉みたいな相談が始まるんですよね(笑)。
そうそう(笑)。ソフト担当者に「機能はこれだけ欲しいんですけど、システムが使う処理やメモリーの予算はゼロでお願いします」と言われて、システム側としては「その予算でこの機能の実現はちょっと難しいですね・・・」みたいな話になったり(笑)。
お互いがやりたいことを実現するために、ソフトとシステムで綱引きがあったわけですね。
でもやっぱり実際に試作を動かしてみたり、お互いにコミュニケーションを取ってみたりする中で「これくらいの機能だとこれくらいの処理やメモリーが必要だよね。じゃあもう少し予算をそちらに割こうか」とわかってくるんです。
そういう積み重ねによって、「これくらいの影響で実現できるならやる価値がある」といった共通認識も取れるようになっていきました。
そんな交渉と綱引きを経て実現したものは、河本さんが望まれていたとおりのものでしたか。
いろいろなプロフェッショナルが一番いい形を目指して試行錯誤をしているので、私が最初に出した案よりもずっと良いものになったと思います。
面白かったのは、Switch 2 の周辺機器として別売されるNintendo Switch 2 カメラをつなぐと自分の顔を見せることもできるんですが、ゲーム画面上に自分の姿を重ねて映すことによって、「ゲーム実況ごっこ」ができるんです。こういう嬉しさは、開発初期には予想できていなかったことです。
ゲーム実況者のような体験ができてしまうのは楽しそうですね。ただ、実況するにしても、普通に会話するにしても、マイクが大事になってきそうですが。
そうですね、特にマイクをつける位置には本当にいろいろな紆余曲折がありました。Joy-Con 2 につけるのか、本体につけるのか。お客さまのドックの置き方を考慮したり、冷却ファンの位置を考えたり。最終的に本体上部に搭載することになりました。
さらに、音声処理をする高性能なチップが入っており、いろいろなノイズを消せるようになっています。例えばボタンを操作する音や、本体の冷却ファンが回っている音など、マイクの向こう側の相手にはそうしたノイズが聞こえないようになっています。
掃除機の音もほとんど聞こえませんよ。
なんと!
家でゲームをしている横で、親御さんとかがガーッと掃除機をかけていたとしてもほとんど聞こえません。最初に聞いた時は結構びっくりしました。え? 今、掃除機かけてたの?って。
このノイズキャンセル機能について、ソフト開発の皆さんからの要求も面白くて。掃除機の音は拾いたくないけど、遊んでいる人が盛り上がっている様子は伝えたいから、拍手とかキャーといった歓声は消したくないって言うんです。
さまざまな音を、どれを通してどれを通さないという判断をして、さらにそれを実現する開発はすごく難しかったです。そのほかにも本当にたくさんリクエストがあって・・・(笑)。
(笑)。
もちろんやり取りしている情報も大事なのですが、感情というかその場の盛り上がった空気が相手に伝わることもすごく大切なので・・・そういう無茶なリクエストをしてしまいました(笑)。
いや、面白かったなと思いますよ。
それに、Switch 2 に入っているノイズを消しているチップには「オートゲインコントロール」という、音量を自動で調整する機能が備わっているので、プレイヤーと本体の距離が近い携帯モードで遊んでも、離れているTVモードで遊んでも、声が同じようなボリュームになるよう調整されるんです。さまざまな環境でゲームチャットを楽しく使えるようになっています。
複数人の声もマイクで拾ってくれるのでしょうか。
複数人でしゃべっても大丈夫です。それぞれの声の大きさの違いも認識して、自動で同じ音量に調整されるようになっています。
Switch 2 にとって大きな特長となるゲームチャットですが、折角ですので、ゲームチャットの開発に深くたずさわった方にもお話を伺う機会を設けようと思います。さて、それ以外にも多人数の盛り上がりという話でいうと、Switchの大きな特長としてJoy-Conを「おすそわけ」※19する機能がありました。その機能は、今回どのように変化したのでしょうか。
※19片方のJoy-Conを相手に渡し、"おすそわけ"して同じゲームを一緒に楽しめる機能「おすそわけプレイ」。
今回もSwitchと同じようにJoy-Con 2 を「おすそわけ」できます。ただ、もともとは、Joy-Conをおすそわけするだけでなくほかの本体にゲームプレイ自体をおすそわけしたいと考えていました。
過去にはゲームボーイアドバンスやニンテンドーDSなどでダウンロードプレイという、1本のソフトから遊ぶ人にソフトの一部を送って一緒に遊べる仕組みがあり、Switchでもこの機能を搭載できないか、検討したんです。
ただ、Switchのゲームはソフトのデータ容量が大きすぎて転送にすごく時間がかかってしまい、断念しました。
確かに一緒に遊ぶのに何十分も待つのは現実的ではないですよね。
そこで、Switch 2 の処理能力を使ってWii Uが本体から手元のWii U GamePad※20に映像を送っていたストリーミング技術と同じものを使えば、時間をかけてソフト自体を転送する必要なく一瞬でゲームプレイをおすそわけできるのではないかと考えたんです。
パッとおすそわけして、対戦や協力をして一緒に遊べたら嬉しいな、と。これもまた佐々木さんにお願いしたんですが・・・実現は大変だったと思います(笑)。
※20アナログスティックやボタンの他に、タッチ操作が可能な画面を搭載した「Wii U」専用のコントローラー。GamePadの画面には、Wii U本体で動いているゲームの映像が転送されて映されていた。
いえ、こんなこともあろうかと・・・。
(笑)。
もしや、先手を打っていたんですか。
はい、技術開発部って「こんなこともあろうかと」って言いたいんで、いろんなことを先行で研究開発してるんですよね(笑)。
ここで使った無線ストリーミング通信という、ストリーミングをしながらゲームをシェアするという遊びはずっと研究していました。
その最新の技術を使えば実現できるということでこの無線ストリーミング通信で新しいおすそわけを実現する提案をさせてもらいました。
この新しいおすそわけを「おすそわけ通信」と呼んでいるんですけど、この機能では最終的に最大3人までおすそわけ・・・つまり4人まで一緒に遊べるものになりました。
ローカル通信でのおすそわけ通信は、まさに昔のダウンロードプレイと同じようなものですが、パッと素早く遊び始められるのが大きな特長ですね。
おすそわけ通信はSwitch 2 用の機能なんですよね?
それが面白いところで、ローカル通信だとSwitch 2 同士だけでなくSwitch 2 からSwitchにもおすそわけすることができるソフトもあるんです。
となると、おすそわけ通信を使えば、SwitchでSwitch 2 のゲームが一緒に体験できることに?
そうなんです。Switch 2 に買い替えていただいた後でもNintendo Switchが活躍できます。
さらに、ゲームチャットを介して、インターネット経由でもおすそわけが可能です。ボイスチャットをしながら誰かが持っている1本のゲームで、最大4人で遊べるようになっています。
ゲームチャット自体はSwitch 2 専用の機能なので、インターネットを使ったおすそわけはSwitch 2 同士のみでの体験になるんですけどね。
ここまでのお話を聞いていると、割とすんなりといろんなことが実現できたようにも聞こえるのですが、実際はどうだったのでしょうか。
すんなりは・・・できてないですね(笑)。やっぱり、研究していることと製品化することとの間にはギャップがあります。技術として可能性があって、製品化できそうというところまで見極められても、その後に「どのような体験にするのか」ということも含めて開発する必要がありますし。
簡単なことではないですよね。ストリーミング技術では、ソフトの映像を転送するときに画質が下がるので、なるべく画質が下がらないような方法を試行錯誤してもらいました。
あと、おすそわけをしても、全員が同じ画面を見ない方がよいゲームもありますので、1本のソフトで全員が違う画面を出せるようにもしました。例えば『世界のアソビ大全51』のトランプや麻雀では、全員が同じ画面では勝負になりませんから、それぞれのプレイヤーが別々の画面を見て遊ぶことができます。
そんな感じでおすそわけ通信を使えば、近くの人とも、ゲームチャットでつながった相手とも、すぐに一緒にトランプや麻雀で遊べるんですよ。
おすそわけ通信は一部のソフトだけが対応するのでしょうか。
はい。ゲームチャットはNintendo Switch 2 の本体機能なので、すべてのソフトに対応していますが、おすそわけ通信はプログラムが組み込まれた対応ソフトだけで使えます。
レスポンスなどの点でソフトごとに向き不向きがあるんです。例えば音楽ゲームのようにタイミングの正確さが必要なソフトとかはあまり向いていなかったりします。任天堂のソフトは、この機能を活かせるソフトを選んで対応していくことになると思います。
なるほど、わかりました。でも、ここまでお話を聞いていると、いろんなことに先手を打っている佐々木さんたちの懐の深さは評判になっているのでは・・・。
(笑)。
いや、チームのみんながそうやって日頃から幅広く研究してくれているんです。