2025.4.3
任天堂のものづくりに対する考えやこだわりを、開発者みずからの言葉でお伝えする「開発者に訊きました」の第17回として、Nintendo Switch 2 の「ゲームチャット」を開発したみなさんに話を訊いてみました。
まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。
企画制作部の小野です。Nintendo Switch 2 では、ゲーム機本体に始めから入っているソフトウェアである本体機能全体のディレクターとして開発にかかわりました。
任天堂に入ってからは、ずっとハードの本体機能をつくっていて、ニンテンドー3DSの「思い出きろく帳」でプログラマーとして参加したのを最初に、徳永さんとはずっと一緒に仕事をしています。
Nintendo Switchでは本体機能のプログラムディレクターとして参加したりしましたが、今回はさらに広い範囲を見ています。
ニンテンドーシステムズ※1の徳永です。本体機能全体のテクニカルディレクターを担当しています。本体機能を動かすために必要なシステムソフトおよびサーバーの開発全般を取りまとめるポジションです。
私もニンテンドー3DSの頃からゲーム機のシステムソフト開発を担当しています。小野さんとはずっと現場で一緒にものづくりをしてきていて、今回はお互いにチームをまとめる立場になっていて、感慨深いですね。
※1ニンテンドーシステムズ株式会社。任天堂と株式会社ディー・エヌ・エーのエンジニアチームを中心に 2023年4月に設立した合弁会社。任天堂が展開するビジネスのデジタル部分に関するシステムの開発および運用を行っている。
技術開発部の田邨(たむら)です。今回は本体につながる『Nintendo Switch 2 カメラ』(別売)の開発にたずさわりました。カメラをどういった仕様にするのが適切か、ゲームチャットとセットでどうしたらよりよい体験ができるか、検討しました。
これまでは、コントローラーや周辺機器の開発でモーションIRカメラやHD振動の開発を担当したほか、『リングフィット アドベンチャー』※2ではプロジェクトリーダーをさせていただきました。
※22019年10月発売のNintendo Switchソフト。ソフトに付属する「リングコン」と「レッグバンド」にJoy-Conをセットし、全身を動かしながら遊ぶ、フィットネスアドベンチャーゲーム。
ありがとうございます。それではまず、小野さんからNintendo Switch 2 のゲームチャットがどのようなものか、ご紹介いただけますか。
ゲームチャットというのは、Switch 2 の内蔵マイクなどを用いて使うことができるボイスチャットとビデオチャットの機能のことです。みんながそれぞれのゲーム画面を共有できる、というところに特長があります。
ゲームチャットは本体機能の一部ですから、Switch 2 の開発とともに進んできたプロジェクトだと思いますが、いつごろから開発がスタートしたのでしょうか。
2020年頃、「次のハードの本体機能でどんなことができそうか?」を考え始めたのがきっかけだと思います。そのころはまだ次のハードがどのようなものになるかわからない状態でしたけど、「Switchの後継機になるものとして考えている」ということだけは聞いていました。
そこに、「本体機能で特長になりそうな機能のアイデアはない?」って、河本さん※3からお題が出まして。チームでアイデア出しをしていく中で「本体機能としてボイスチャットがあったほうがよい」といった案が出てきました。
※3河本浩一。Nintendo Switch 2 のプロデューサー。「開発者に訊きました Nintendo Switch 2」参照。
ボイスチャットの機能ですが、SwitchではスマートフォンのNintendo Switch Onlineアプリを使って、ソフトごとに対応していましたよね。それを本体機能に入れてしまおうと考えたのはなぜでしょうか。
実は、河本さんからお題と同時に「部室(ぶしつ)」というキーワードをもらっていました。部室というのは、学校の部活動でみんなが集まってくる部屋のことですけど、その部室に集まって、ゲームをやるだけに限らずだらだらと過ごしているような雰囲気を出せたらいいんだけどね、というような話でした。そのイメージが、チームで考えていた本体機能としてのボイスチャットの案と合致していたように思ったんです。
これまでの任天堂のゲームのオンラインプレイは「同じゲームを遊ぶために集まろう」という感じでみんなが目的をもって示し合わせて集まっていました。でも、そうじゃなくて、まず「集まれる場所」があって、そこに自然に人が集まって、同じゲームをやるもよし、観戦するだけでもよしっていう空間があればなあって。
そうすればこれまでの任天堂のボイスチャットとは違うチャットの世界をつくれるんじゃないかというのがチームからの提案で。それが「部室」のテーマにも合致するということで試作してみることになったんです。
私たちの方でも、やっぱり次のゲーム機ではコミュニケーションの技術がキーになるんじゃないかと思っていました。
しかも、こちらのチームでも同じようなことを考えていた人たちが複数いて、ある人はボイスチャットを研究していて、ある人はゲーム映像の配信を、ある人たちはマイクのノイズ除去を・・・と、みんなが個別にさまざまな研究をしていました。
そんな時、ちょうど小野さんから「コミュニケーションができる機能をつくれないだろうか」という相談があって、「実はこちらも同じような研究をしているんで、一緒にデモをつくってみましょうか」ということになったんです。
そこから最初のデモ完成まではとんとん拍子で組み上げていって、割と早い段階で「これはいいものになる」という実感がありました。
同じような研究をしている、というのは本当に驚いた部分で(笑)。それで、試作をつくることになったんですが、当時はまだSwitch 2 は形すらなかったので、研究自体は研究用にメモリーとCPUを増強したSwitch上でやっていました。お互いに前もって研究を重ねていたこともあって、試作はわずか半年くらいで完成しました。
半年で動くものができたというのは、かなり早かったということですよね。そこにハード開発のチームはどのように参加していったのでしょうか。
ハードウェア開発チームとしても、以前から常にカメラの最新技術を追いかけ続けていました。そこに、「Switchの後継機種にコミュニケーション機能を設けるかも。ボイスチャットだけでなくビデオチャットのニーズもありそうだ」という話があり、それに伴ってカメラの仕様を検討していくことになったんです。
先ほど「部室」っていうキーワードが出たんですけど、大事なのは、その場の雰囲気をいかにうまく相手に伝えられるかというところだと思いましたので、カメラが重要な役割を担うんじゃないかと考えました。なので、そこから本格的にカメラの仕様を検討し始めました。
なるほど。本来であれば試作が完成するまで、もっと時間がかかるはずが、お互い別々に似たような目的の技術研究をしていて、ある時に一気に合流することになったんですね。
そうなります。私たちもこんなに早く試作ができあがるのは初めて、といったスピード感でしたね。ただ・・・そこから製品化するまでがすっごく長かったんですけどね(笑)。
(笑)。
そんなゲームチャットが、最終的にはNintendo Switch 2 の本体機能として、大きな柱になったわけですが、開発の最初から「これが柱になる」という意識だったのでしょうか。
私たちとしてはゲームチャットをNintendo Switch 2 にとって「大きな特長になる機能」と思って開発していました。
そんな中、役員にもゲームチャットを体験してもらう機会があったんですが、初めての方にもゲームをプレイしながらビデオチャットやゲーム画面の共有を手軽に試してもらえているのが見られて、手ごたえを感じました。
みなさん、スーパーファミコン※4やNINTENDO 64※5のゲーム画面を共有しながら当時の開発の思い出を楽しそうに話されていてこの機能の可能性を感じました。
※41990年11月発売の据置型ゲーム機。コントローラーの赤、黄、青、緑に色分けされたA、B、X、Yボタンが特長だった。
※51996年6月発売の据置型ゲーム機。初めて本格的に3Dゲームが表現できる機能を持ち、3D空間を自由自在に動き回ることを可能にする3Dスティックがコントローラーに搭載された。
ただ、お互いのゲーム画面を共有して遊ぶことで生まれる効果をもっと深掘りして十分に試してみないと、これが本当にSwitch 2 の大きな特長になるか?というのは確信がもてないと思っていました。
なので毎日2時間ぐらい、いろいろなゲームをゲームチャットで共有しながら遊んで、どういうシーンで使えば楽しいのかという研究をずっと続けていましたね。
なるほど。実際にいろいろなソフトを試遊してみて、どんな発見があったのでしょう。
そのころはまだSwitchで試作していたので、Switchの発売済みのゲームをゲームチャットと組み合わせて遊んでいたんですけど、『Baba Is You』※6っていうパズルゲームをあるメンバーが遊んでいたのを、「それってどんなゲーム?」ってほかの人が注目し始めて。
すると、動画その人が「これはこういうルールで遊ぶゲームだよ」ってゲーム画面を共有して教えてあげていたんです。そしたら「そんな面白いパズルゲームあったんだ!」って。
次の日にはチームの全員が買ってましたね(笑)。ゲーム画面の共有が活きるシーンが見つかった瞬間です。
※6Hempuliが発売した、プレイするルールを自由に変更できるパズルゲーム。ステージ内にはルール自体が触れるブロックとして配置されていて、ブロックを操作することでステージのルールが変わり、予想できない効果を引き起こす。2019年12月にNintendo Switch版が発売。
私が面白いなと思ったのは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』※7を遊んだときでしたね。オンラインゲームじゃないのに、オンラインゲームをやっている感覚になるんです。
※72017年発売のNintendo Switch・Wii Uソフト。100年の眠りから覚めた主人公リンクとなり、広大で危険なハイラルの大地を駆けて生き抜き、記憶を取り戻していく。
オンラインゲームじゃないのにオンラインゲーム? それはどういう感覚なのでしょうか。
例えば、友だち同士がそれぞれ別々にゼルダを自由に遊んでいたとします。そこで一人が「この謎どうやって解くかわかんないよ」と言い出したら、もう一人が「ちょっと、そこに行くから待ってて」と動画ゲームの中の同じ場所に行って、画面を共有しながら手本を見せることができるんです。
「そこに行くから待ってて」っていう言葉は、オフラインのゲームを遊んでいるときは出ない言葉ですよね。今までにあるゲームに「新しい価値」を外から加えることができるんだな、っていうのをそのときにすごく感じましたね。
自分が遊んでいるゲーム画面を共有できることがわかりやすさにつながりますよね。
はじめてのゲームを遊ぶときって、途中でわからなくなってしまうことも多いので友だちにいろいろ教えてもらいながら遊べる、というのは価値を感じてもらえるところではないかと思います。
そうやっていろんなソフトを試して、少しずつ遊びを見つけていくことで、ああ、自分たちだけでもこれだけ面白いケースが見つかるんだったら、Switch 2 の大きな特長としてやっていけるんじゃないかと思えてきました。
今までにあるゲームに新しい価値を付け加えることができるということですが、ゲームチャットを利用するには、何か条件がありますか?
ゲームチャットを利用するにはNintendo Switch Online※8への加入が必要ですが、2026年3月末まではNintendo Switch Onlineに加入していなくてもゲームチャットをお使いいただけます。
Nintendo Switch Onlineに加入していると、ファミリーコンピュータ※9やスーパーファミコンなどのソフトも遊べますので、ゲームチャットとクラシックゲームの組み合わせでいろんな面白い遊び方ができるんじゃないかなと思います。
※8ゲームチャットの利用にはほかにも条件があります。詳細については、こちらをご確認ください。
※91983年7月発売の据置型ゲーム機。2つのコントローラーに十字ボタンとA、Bボタンを搭載し、カセットを交換することでさまざまなゲームソフトで遊べる。
ゲームチャットがあることでゲームの楽しみ方の幅が広がることは自分たちなりに実感することができたんですけど、一方でこの機能を使うときの手軽さも大事だなと思いました。ゲームをしている相手とボイスチャットやビデオチャットをするときって機材とかを準備するのがちょっと面倒なイメージがありますよね。
でも、Switch 2 だと、本体にマイクがあるのでそのままボイスチャットができますし、別売のカメラは複雑な設定が不要で簡単に使えるようにしました。
ハードの処理性能が上がって、ネットワークの機材や環境も年々よくなっているので、ようやくここまで簡単にできるようになったのかなと思います。
確かに、ボイスチャットしながらゲームを遊ぶときはヘッドホンも別に用意しないと・・・といったことは考えますね。それを考えなくても始められるなら、ハードルはグッと下がるように思います。
ゲームチャットがあることで、初めてボイスチャットを使ってゲームをプレイしたというお客さまが増えるんじゃないかなと思っています。
友だちや家族と遊ぶときも余計な手続きなく、すぐに遊べるように、ということにすごく気をつかいました。
わかりやすく使えるものでないと、いずれ使っていただけなくなるだろうと思ったので。
手軽さは、ゲームチャットの大きな特長ですよね。
今回、Joy-Con 2 に「Cボタン」というボタンを搭載しています。このCボタンは、「チャットをしよう」って思ったときにすぐに使えるように、ということで搭載してもらいました。
ゲーム中に毎回HOMEメニューを出してチャットの設定をして、またゲームに戻って・・・という流れになるとちょっと面倒だなあと思ったんです。
だから、なんとか専用のボタンをつけられるようにハードの設計時に自分たちからお願いしました。もうコントローラーの金型をつくるっていう、ギリギリのタイミングでしたけど・・・。
でも、Cボタンは絶対あって正解だと思います。チャットを始めたり、カメラを起動したり、設定を調整したりというのがCボタンを押すことで直感的に操作できて本当にわかりやすいですし、お客さまの体験も全然違うものになったと思います。
ゲームプレイ中であっても、とりあえずCボタンを押せばパッとゲームチャットがすぐに起動できるっていうすごくシンプルな操作が実現できました。