私立小学校の卒業生の方に話を聞くと、親御さんの学歴マウンティングや経済的格差に悩む家庭があるーーー。

 前回、「私立小学校の闇」というタイトルでそのような内容の記事を公開したところ、「もっと詳しく知りたい」という読者様からのご意見を多く頂戴いたしました。

 今回は、追加取材ということで、藤原さん(仮名)にもう少し詳しいお話を伺いました。

 なお、藤原さんのお子さんが通っていたのは少し前の時期(2010年代)のことなので、現在でも同様なのかに関しての真偽は不明です。また、藤原さん個人が体験したことであるという点にご留意ください。

 また、現在私立小学校に通っていらっしゃる親御さんで、取材に協力してくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひお伺いさせてください。

私立小学校に行った理由は?

ーーー今日はよろしくお願いします。前回、『私立小学校の闇』という記事がかなり多くの反響を呼んだので、早いですが再度お話を伺うことになりました。立て続けにすいません。

「いえいえ、よろしくお願いします。」

ーーー前回の記事では、かなりショッキングな内容が多かったためか、『これ本当?』といった反応も多かったです。

「仮名だし、学校名も出していなかったので、そう言われても仕方がない面があるのかもしれません。私自身の名前を明かすのは、自分の子供のことも考えて、控えさせてください。でも、学校名は出そうと思います。聖徳学園小学校です。自分の子供はそこに6年間通っていました。」

ーーーなるほど。なぜお子さんを、その小学校に通わせたのですか?

「これに関しては2点の理由があります。

まず1点目は、教育の水準の高さに惹かれたからです。これは夫の推薦も強かったですが、この学校は英才教育・知能訓練に力を入れており、先生たちも非常に力のある人たちが多かったです。後でお話ししますが、ここの点に関しては間違いはなかったと思っています。子供の能力開発という点で言えば、非常にクオリティの高い教育を行ってくれていたので、この点に後悔はありません。

2点目は、子供がアレルギーだったからです。息子は公立小学校でも給食の対応の難しいアレルギーでした。公立小学校で、1人だけアレルギーの子供がいて、みんな給食なのに1人だけお弁当、みたいな状況だったら、いじめられちゃったりするんじゃないかな、という不安があり、家からバスで3-40分程度かかるものの、ここに通わせることに決めました」

ーーー実際に通わせてみて、どうでしたか?

「先ほども言いましたが、教育の質は非常に良かったと思います。知能訓練と呼ばれる英才教育がカリキュラムにしっかり組み込まれていて、ここではパズル形式のものやクイズ形式の遊びながら学べるツールなど、楽しんで学べるものが多く、息子も非常に楽しそうに勉強をしていました。また、国語の授業が非常にいいんですよね。『素読読本』って本を使って、声に出して漢文を読む授業があったり、1年生からずっと作文を書く訓練があったり。1年生から6年生までの作文を毎年『ぴっぱら』という文集で発行して配られるんです。息子はここに作文が掲載されるのが嬉しかったみたいで、息子は中学に上がってからも、国語や記述力は非常に評価されることが多かったです」

ーーー作文の訓練が早い段階からできるのはいいことですね。

「そうなんです。だから、誤解しないでほしいのは、本当に教育の水準は高いんです。先生も本当に親身になってくれる人が多かったです。でも、……でも!親がやばいんですよ!」

私立小学校の親御さんたち

ーーーお、親がやばい、ですか。

「前回の記事でもお話ししましたが、私は北の方の田舎の、短大出身です。英才教育なんて受けたこともないし、勉強も全然頑張ったことはなかったです。でも夫と結婚して、夫の仕事の関係で東京に来た、いわゆる『田舎者』です。そうするとやっぱり、いじめられるんですよ、ママさんから」

ーーーいじめ、ですか。

「やっぱり、お母さんたちはみんな、すっごいお金持ちだったり、お母さん自身もすごく学歴が高い人ばっかりでした。東大理Ⅲのママさんもいましたね。そういうお母さんの中にも、すごく優しい人もいたりするんですけど、でも変なお母さんも多くって」

ーーー変、というのは。

「まずは成績とか、子供の頭の良さとか、すっごい噂するんですよね。兄弟で通っている家庭もいましたけど、『〇〇さんのところのお兄ちゃんは開成受かったらしいわよ』とか話してたり、『うちの子は絶対桜蔭だから〜』みたいなトークをしたり。親御さんが本当に勉強を完全に管理している家庭も多くて……、『毎朝お母さんの出す勉強の課題をやらないと家から出してもらえない』って子供が言ってて、毎回遅刻してくる家庭がありましたね。そういう家庭の親御さんから、バカにされたり、陰口を叩かれたりしました」

ーーー最近は「エクセルパパ」なんて言葉も出てきましたが、そういう管理は、お母さんがやっているんですか?

「私の周りは基本的にみんな、お母さんでしたね。お父さんはあんまりそういうのには口出ししていなかったように思います。」

ーーー『毎朝お母さんの出す勉強の課題をやらないと家から出してもらえない』というのは、男の子ですか?

「いえ、女の子です。その家はたしか、3人姉妹だったんですよ。で、お姉ちゃんが桜蔭合格確実!って言われていたのに、落ちちゃって。周りのお母さんから色々それを揶揄されたりしたからなのか、妹さんの方に『あなたは絶対に失敗しちゃダメよ』ってことで、プレッシャーをかけられていたみたいですね。2番目の妹さんが私の息子と同じ学年だったんですが、教育に関しては強烈でしたね。お風呂でも英語の音声を流して教育していたみたいでしたね。」

ーーーそういう、変な家庭ばっかり、というわけではないんですよね……?

「あの小学校は、中学高校もあるんですよ。だから行きたければそのまま中学にも上がれるんです。でも、教育熱心で英才教育を求めて来ている家庭の親御さんはみんな中学受験をするんです。だいたい自分の息子の時は、ざっくり、1/3が中学にそのまま進んで、2/3が中学受験、みたいな感じでしたかね。で、1/3の方のお母さんはすごく穏やかな家庭が多かったですね。やばいのは中学受験組。」

ーーーなるほど。

授業参観の事件

「ああ、そういえば思い出しましたけど、小学2年生くらいの時に授業参観があったんですよ。そこで、数学の授業があって」

ーーー小学2年生は算数では?

「あ、この小学校では『算数』ではなく『数学』なんです。」

ーーーそうなんですね。それもなんだかすごいですが……。

「で、数学の授業で、先生が漢字の書き順を間違えていたんですよ。で、『漢字の書き順が違うなんて、なんてダメな先生なんだ。先生を変えてくれ』って学校に訴えに行ったお母さんがいましたね。私も見てましたけど、全然気付かなかったです。漢字の書き順とか、どうでもいいと思ってました。そもそも国語の授業じゃなくて数学だし。」

意識的なマウンティング・無意識のマウンティング

ーーーお医者さんの息子さんとか、娘さんとかも多かったんですか?

「そうですね。さっき言ってた東大理3のお母さんの家庭とかも含めて、かなりそういう家庭は多かったです。その家庭じゃなかったですけど、あなたは絶対東大理3に行って、この病院を継ぐのよ!って言われている家庭もありましたね」

ーーーそんなドラマみたいなセリフ言ってる家庭、本当にあるんですね。

「あるんですよ。だから本当、驚きました。前回の記事も今回の記事も、『それは流石に嘘だろ』って言うようなことを私が言っているのは自分でもわかっているんです。でも、本当にあった話なんですよ

ーーーそうなんですね……。

「ちなみに、その東大理3のお母さんとはあまり交流はなかったんですけど、一度何かの回で一緒になった時に、『大学はどちら?』って聞かれて、『ああ、自分は地方の短大です』って言ったら、『あら、じゃあお子さんは東大は無理ね』って言われて。私、咄嗟に、『はあ?』って言っちゃったんですよ。何を言われているのか、本当にわからなくて。でも、冗談を言っているんでもなければ、こっちをいじめようと思って言っているわけでもなく、シンプルにそう思ったから、そう言ったみたいで。他のお母さんに聞いたら、『あの人、そういう人なのよ』って言ってて……『私みたいな田舎者のママがいる学校じゃないんだな』って心の底から思いました

ーーーそういう無意識のマウンティングが多かった感じなんですかね?

「無意識的なのも意識的なのも、両方ありましたね。私の息子、あんまり成績的には振るわなくて。勉強よりゲームしたりサッカーしたりしたい、ってタイプだったんで、中学受験は諦め気味で挑んだんですよ。まあ最悪公立に行ってもいいし、と私は考えていて。でも、やっぱりお母さんたちはそれに対してマウンティングしてきましたね。」

ーーーそれはどのような……。

「陰口と、あとは直接色々言われたり、です。あそこの家庭はこの前のテスト悪かったらしいわよ、とか、この前学校のクラス落ちちゃったらしいわよ、とか。あとは、『結局3月生まれはダメなのね』ってよく言われましたね。3月生まれは可哀想、4月にすればよかったのに、って。」

ーーーえ、小学校なのに成績別でクラス分けがあるんですか?

「はい、高学年からは授業でありましたね。だから小学校のクラスと、SAPIXのクラスで、マウンティングがお母さんの間でずっと行われてましたね。子供にAくんのクラスを聞いて、あの子は今度のテストで何点でクラスはどうだった、みたいなことを報告させている家庭とかありましたよ」

ーーーそれ、子供に報告させるんですか。

「ええ、普通にさせてましたよ。SAPIXの座席表とかクラス分け表を写真で撮って送りなさい、みたいな家庭もありましたね。」

ーーーSAPIXといえば、成績表の掲示の前で、あなたが一番じゃないなんてどうしたの!ってクラスが同じお母さんが泣き崩れていた、とこの前のインタビューでお話しされていましたが。

「ああ。その家庭の息子さんは一人っ子で、お母さんが本当に過保護でしたね。溺愛しているけれど、期待も高い、みたいな。『あなたが1番じゃないなんてあり得ないわ!』ってタイプでしたね。親のそういう束縛にすごく嫌気がさしていたみたいで、自分の息子が『なんか〇〇くんが貸してくれた小説、すごく束縛の強いお母さんから逃げて異世界を旅するって内容だったんだよね』って教えてくれました。確か、『ウィズ・ドラゴン』って小説です。あれには笑いましたね」

子供たちの様子は?

ーーー子供達はどういう子が多かったですか?

「利発で頭のいい子が多かったと思いますよ。発表の時間とか、ディベートとか、そういうのも活発だったし。でも、なんというか、選民思想みたいなものを持っている子が多くて、それが私は個人的に気持ち悪くて嫌でしたね。『自分は開成に行って、東大に行って、お医者さんになるんだ!』みたいなことを、小学2年生が言ってるわけです。息子も『大学とかって、今から決めなきゃダメなの?』って聞いてきて、『そんなことないよ』って言い聞かせていました。」

ーーーそんな早くから、東大とか言ってるんですね。

「親がずっと言い聞かせているんでしょうね。で、『あなたは東大に行くんだから、〇〇くんのところとは付き合っちゃダメよ』とかそういうことも言われてたみたいで。」

ーーーちなみに、そこまで束縛した過保護な家庭って、中学受験うまく行くんですかね?

「まあ、うまく行く家庭もそうでない家庭もありましたね。でも、中学に上がってから燃え尽きちゃって、開成に行ったけど辞めちゃった、って子は聞きましたね。」

ーーー息子さんにとっては、私立小学校はいい環境だったのでしょうか。

「勉強は楽しかったみたいですし、授業参観に行くとすごく楽しそうにしてたので、悪くはなかったんでしょうけど、友達とはあまり馴染めなかったみたいですね。これは私が悪いのかもしれませんが。まあ、短大出の私の子供と、東大ママの子供で『自分は東大に行くんだ〜』って言ってる子供とが合うわけはないですよね。もちろんそんな家庭ばっかりじゃないわけですが、でも結局、合わなかったんでしょうね」

息子さんがショックだった出来事

「中学受験の時に、クラスの女の子から『あいつ、〇〇中学目指しているんだって〜!偏差値低い、バカみたいな中学!』って言われたのが相当ショックだったみたいで、泣いて帰ってきたことがありましたね。小学生がそんなトークで盛り上がっているのって、私の地元だったら有り得なかったので、『都会って怖いところなんだな』って感じたものです。あとになって考えるとあの環境がおかしかっただけだったわけですが。」

ーーー最後に、私立小学校、どういう人におすすめですか?また、どういう人におすすめしませんか?

少なくとも、私みたいな田舎者の短大出の家庭が行くところではなかったのだと思います。それは私のリサーチが足りていなかったのが悪いのかもしれませんが。

 前の記事でもいいましたけど、好物がキャビアだとかフカヒレだとかウニだとか、本当にそんなことを言っていた家庭もあったくらいなんですよ。家のホームパーティーにお呼ばれしていっても、まずそもそもこんなところに家あるの!?って位置に家があったりして。原宿のど真ん中に住んでる家庭とかあったんですよ笑。

 そんな人たちの子供と、自分の子供は、そりゃあ話は合わないのは当たり前で。そもそも経済水準が高い人たちが行くところなんだなって。そういう意味で、息子には悪いことしたなと思っています。

 ただ、本当に、素晴らしい教育ではありました。息子は中学受験で結局そんなに偏差値上いいところには行きませんでしたけど、あの時の教育は中学になってからすごく活きていたみたいだし。教育の質が高かったということだけは、強調させて欲しいです。先生にはお世話になったし、教育水準は申し分なかった。けど、田舎者が行くところじゃなかったです。

 以上、藤原さんの体験談を交えた私立小学校の話でした。藤原さんが体験したのは、私立小学校の中でも特異な事例なのかもしれません。でも、藤原さんの『田舎者が行くところじゃなかった』という感想は、多くの人が知っておくべき感想なのかもしれませんね