次期学習指導要領における学習評価について、文部科学省は7月4日に開かれた中教審の教育課程企画特別部会第10回会合で、評価の観点の一つである「主体的に学習に取り組む態度」の目標準拠評価をやめ、評定に入れずに個人内評価とする方針を示した。「思考・判断・表現」のプロセスで、学びの主体的な調整や他者との対話や協働が特に表出した場合には観点別評価に「〇」を付けることや、評価を行う頻度・タイミングの見直しなども進める。
現行の学習指導要領では「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の資質・能力の3つの柱に評価の観点を対応させているが、「学びに向かう力、人間性等」については、感性や思いやりといった観点別評価や、評定になじまないものを除いた「主体的に学習に取り組む態度」を評価の観点として設定し、「粘り強さ」や学習の「自己調整」の観点から評価を行うとされていた。
学校現場では、教科ごとに「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の観点別に、学習指導要領の目標・内容に照らして達成度をA、B、Cの3段階で評価する目標準拠評価が行われ、それらを総括して評定を出している。
しかし、「主体的に学習に取り組む態度」の評価を巡っては、提出物の状況などの形式的な勤勉さが用いられたり、教師の期待する振る舞いを子どもが過度に意識してしまったりすることや、評価の状況によっては学ぶ意欲の低下につながってしまうことが指摘されていた。
そこで、次期学習指導要領での学習評価では、「主体的に学習に取り組む態度」を含む「学びに向かう力、人間性等」に対応する評価は観点として残しつつ、目標準拠評価ではなく、教育課程全体を通じた個人内評価とする(=図)。
ただし、「学びに向かう力、人間性等」の4つの要素である「初発の思考や行動を起こす力・好奇心」「学びの主体的な調整」「他者との対話や協働」「学びを方向付ける人間性」は、「思考・判断・表現」の評価の過程で見取ることができる場合もある。そのため、こうした4要素が「特に表出した場合」には、「思考・判断・表現」の観点別評価に「〇」を付記することも提案された。この「特に表出した場合」とは、基本的にはポジティブな側面のみ評価することを念頭に入れている。
これにより、「思考・判断・表現」の評価でテストに偏重した評価が改善され、多面的・多角的な評価の取り組みが促されることや、「主体的に学習に取り組む態度」の評価が困難で評定が低くなったり、付けられなかったりしていた不登校児童生徒の実態の改善に寄与することが期待される。
また、現状では学習の途中で振り返りながら学びの改善に生かす評価(形成的評価)と、事後に記録に残すための評価(総括的評価)が十分に区別されないまま、毎回の授業で複数の観点による総括的評価が行われ、教員の負担となっていることから、評定への総括は学年末にのみ行うことが可能であることを明確化。学期中は形成的評価を中心に行うなど、形成的評価の充実とともに単元を通して総括的評価を行う場面の精選を進める考えを示した。
この日の特別部会では、おおむねどの委員からも賛同する発言が相次いだ。
石井英真委員(京都大学大学院教育学研究科准教授)は「柔軟な教育課程とも関係するが、不登校児童生徒への対応も含めて多様な場での学びの評価を考えていく上では、出席や積極性を必ずしも前提としない修得主義的なシステムへ移行する必要性が増している。情意領域は評価しても評定せずという考え方を基本に置いて、人間性の評定につながらないように、感性や思いやりと同様に主体的に学習に取り組む態度も所見欄などで個人内評価を行う方向性は妥当だ」と話した。
一方で、秋田喜代美主査代理(学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授)は「(主体的に学習に取り組む態度を)個人内評価にしていくのは賛成だ。ただ、初発の思考や行動、好奇心などの言葉でいいのか。例えば『こだわる』『好き』『達成感』のようなことまで含むと、初発という言葉が良いのかといったことは検討する必要がある」と今後の検討課題を挙げた。
さらに、髙島崚輔委員(兵庫県芦屋市長)は「教育委員会側の努力が必要だと思われるのは高校入試だ。結局、どれだけ本当に必要な評価をしても、内申点という形で差をつける材料として位置付けられている状況が残る限り、評価の本質から外れるのではないか」と、高校入試の見直しの必要性に言及した。
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評定 学習指導要領に定める目標に準拠した評価には、教科ごとに学習状況を分析的に捉える観点別評価と、それらを総括的に捉えた評定がある。多くの学校では通知表などで学期ごとに評定が示されているが、指導要録上は学年ごとに一つの評定欄となっており、課程の修了認定を行う学年末だけに行えばよい。