日本のヤクザは今

座間9人遺体事件の「モンスター」を生んだ歌舞伎町の闇

社会

アパートの一室から次々と見つかった9つの頭部は、犯人の巧みな話術で引き寄せられた被害者たちのものだった。世を震撼させた神奈川県座間市の猟奇殺人事件で逮捕された白石隆浩容疑者(27)は、新宿・歌舞伎町で女性たちに声をかける風俗スカウトマンの一人だった。ツイッターや無料トークアプリを使い分け、「自殺願望」がある少女たちの心の隙間に入り込んでいくその技術は、夜の街で培われたものだ。稀代の“モンスター”を生んだ歌舞伎町で何が起きているのか。そして、この街に巣くうスカウトの実態とは——。
21 Shares
facebook sharing button Share
twitter sharing button Tweet
print sharing button Print
sharethis sharing button Share

「怖いほどに温厚で優しかった」。座間9人遺体事件で逮捕された白石隆浩容疑者(27)と交際していた女性たちは、その印象を口々にこう証言している。

白石容疑者は、かつて風俗店に女性をあっせんするスカウトマンとして新宿・歌舞伎町の路上に立っていた。メディアでは、風俗店関係者や同業のスカウトマンら“夜の住人”たちの証言が報じられ、付き合ったり同棲したりしていた女性たちの証言も次々と紹介された。しかし、彼女たちから語られる「温厚で優しい」印象と、常軌を逸した残虐な犯行とのギャップはなんなのか。

「彼がめちゃめちゃ優しかったという証言が付き合った女性たちから出ていますが、ものすごく納得できます」と語るのは、都内のスカウト会社の現役幹部だ。

「スカウトマンは女の子をお店に紹介したら終わりではなく、その子の待遇をお店と交渉したり、客からの貢がせ方を指導したりと、『マネージャー兼コンサルタント』的存在としてその子が業界を卒業するまで面倒を見続けます。特に最近の女の子はドライで、常に『条件がいい店があれば移りたい』と考えており、お店のスタッフよりもスカウトマンが信頼されて、プライベートでも相談に乗っているうちに恋愛関係に発展することが少なくないのです」

つまり、商売のタネである女性に対して“優しく”振舞うのは、スカウトの生態を考えれば当たり前のことなのである。

「買取制」と「永久バック制」

神奈川県座間市のアパートの一室で、15~26歳の男女9人の切断遺体が見つかったのは、昨年10月30日のことだ。その翌日、警視庁は、部屋に住んでいた白石容疑者を死体遺棄の疑いで逮捕した。その後も殺人容疑などで再逮捕が繰り返され、今年2月13日には埼玉県所沢市の女子大生に対する殺人容疑などで7回目の逮捕となった。これで立件された被害者は6人。警視庁は残る3人についても捜査を続けている。

座間9人遺体事件で東京地検立川支部に送検される白石隆浩容疑者=2017年11月1日午前、東京都八王子市の警視庁高尾署(時事)

白石容疑者は20代半ばごろから池袋に住み、主に歌舞伎町でスカウトの仕事をしていた。スカウトマンとしての腕は、「女の子に寄り添って、なかなかの話術だった」という声もあれば、「いい加減な仕事ぶりで評判が悪かった」などと賛否ある。ただ、実際にトラブルは絶えなかったようで、ネット上では「極悪スカウト」として名指しで糾弾されていた。

事件発覚8カ月前の昨年2月には、茨城県内の風俗店が売春をさせていることを知りながら女性を紹介したとして職業安定法違反容疑で逮捕。5月に懲役1年2月(執行猶予3年)の有罪判決が言い渡されていた。この事件を機に地元の座間市内に戻っていた白石容疑者が、世を震撼させる猟奇殺人の舞台となるアパートを借りるのはその直後、8月のことだ。

スカウトマンには、①無所属のフリー、②キャバクラや性風俗などの店舗専属、③スカウト専門会社に所属する従業員――の3種類がある。JR新宿駅から歌舞伎町に向かう通称「スカウト通り」などで女性に声をかけてくるのは③が大半で、白石容疑者もこれにあたる。会社ごとに「ここのポストからここの電柱まで」などと縄張りが細かく定められていて、その範囲で声をかけるのが業界のルールだ。スカウトマンの給料は完全歩合制で、キャバクラやソープランド、ファッションヘルスなどあっせんする業種によって「紹介料」が異なる。

たとえば、キャバクラへの紹介は「買取制」で、紹介した際に店側から一定額が支払われる。女性のルックス、業界歴や人気によって「S」「A」「B」「C」——とランクが決められ、5万~20万円がスカウト会社に支払われるという。紹介したスカウトマンの取り分はその60~70%程度。これを通称スカウトバックといい、業界の慣習として「紹介した女の子が10日間働いた時点で発生する」という取り決めがあるため、やる気のない女性を無理矢理働かせても、すぐに辞めてしまって商売にならない場合が多い。

一方、主に性的サービスのある風俗店への紹介は「永久バック」と呼ばれ、その女性が店で働いている限り、会社およびスカウトマンに給料の10~15%が自動的に入ってくる仕組みだ。AV女優の場合も永久バック制で、所属させたプロダクションから給料の40~50%がスカウト会社に入ってくる。紹介した女性がその後人気女優になれば、「それまで稼げなかったスカウトマンが、一発逆転で一獲千金」となることも珍しくないという。

ただ、いまの世の中、スカウトマンたちは月30万円も稼げれば上々で、20万円でもマシ、というのが現実だ。月1~2人しか紹介できずに10万円少々しかもらえないのもゴロゴロいるという。しかも、女性を説得したり、打ち合わせをしたりするときの喫茶店代や食事代などは自腹で、収入によって自分の身なりにも差がついてくるため、「稼げるスカウトはどんどん稼げるし、稼げないスカウトはどんどん負のループにはまって稼げなくなる世界」(スカウト会社幹部)だという。実際、白石容疑者も稼ぐために危ない案件に手を出し、身を落としていった節がある。

次ページ: 「浄化作戦」で変わった歌舞伎町

この記事につけられたキーワード

暴力団

21 Shares
facebook sharing button Share
twitter sharing button Tweet
print sharing button Print
sharethis sharing button Share

このシリーズの他の記事

シリーズ記事一覧へ

関連記事

21 Shares
facebook sharing button Share
twitter sharing button Tweet
print sharing button Print
email sharing button Email
sharethis sharing button Share
arrow_left sharing button
arrow_right sharing button