自社本の魅力を語る柏書房読書会 『まじめに動物の言語を考えてみた』(前編)

◎ ポピュラーサイエンスを読みつけない営業部員が“動物本”をまじめに読んでみた
◎ 「人類例外主義」から離れて動物の世界をフラットに見るのって面白い
◎ そもそも私たちのコミュニケーションだって言語だけじゃない
◎ 動物はみんなそれぞれの環境や社会に適応してきただけなんだ


営業IM では、“自社本の魅力を語る柏書房読書会”第2回、今回取り上げるのは『まじめに動物の言語を考えてみた』です。
 ちなみにこの中で普段から理系の本、ポピュラーサイエンスをよく読んでる方っていらっしゃいますか。

全員 (沈黙)

営業IM やっぱり、そうですよね……。まぁしかし、ポピュラーサイエンスを読みつけない人、動物にそんなに興味がない人にもこの本の魅力を伝えるんだというつもりで、喋っていきましょう。まずは順番に読んで思ったことなどを、ではSSさんから。

営業SS 私はそれぞれの動物の話ももちろん面白かったんですけど、本書のまとめとなる終章がいちばん面白かったです。中でも、私たちが動物の行動を理解できないというのは、私たちが人間の振る舞いを前提にして見てしまってるからじゃないか、っていう話がすごく面白くて。最終的には「人類例外主義から離れれば離れるほど」(p.308)なんて表現も出てくるんですけど、けっきょく他の動物とヒトを比較して見るときに優劣をつけることはできない、イルカもオオカミも、動物たちにはそれぞれの個性があって、それぞれの環境で最適に生きるために自身の能力を発達させてきたんだから、っていう見方が自分はすごく刺さりました。だからこそ、各動物を理解したいのであれば、私たちの環境下ではなく、それぞれの野生環境下で捉えていきましょう、というスタンスはとても大事だな、と。本書を読んで、弊社から今年2月に刊行した『動物には何が見え、聞こえ、感じられるのか』で登場する概念「環世界」の話とも通ずるものを感じました。
 あと、動物のエピソードとして個人的にいちばん面白かったのは、オオカミが遠吠えをする理由のところです。なわばりの主張やメンバーとの連絡といった意味を持つ理由は想定しやすかったのですが、3つめの理由が、「ただ遠吠えが好きだからそうしていることもあるようだ」(p.57)だったのが、読んだ瞬間、動物の行為はイコール意味があるものだと自分が強く思い込んでたのが浮き彫りになって、いちばん心に残っています。

営業IS 私はこの著者の前著『まじめにエイリアンの姿を想像してみた』がすごく好きなんですけど、好きな理由が、宇宙やエイリアンというものに対する人間目線のロマンみたいなものをそぎ落として、あまりにも真摯に、人間という一生命体としてエイリアンなる存在に対峙しようとする姿勢にありました。ずっと文系で生きてきた自分からすると、「わー、眩しいなぁ」っていう気持ちで好きだったんです。今回は特に、後半に霊長類の事例が登場し出してから、人間と近い動物だからか著者の熱が上がってきてるからかわからないですけど、やっぱり誠実で面白いと思えて、満を持しての新作なんだなってすごい納得しました。
 冒頭にあったように、ポピュラーサイエンスって私は趣味の読書ではあんまり選ばないジャンルで、普段は人文書を読むことが多いんですけど、この本も人文書的な読み方をしたかなという読後感があります。ひとつは、私たちってけっこう結論を急いでしまいがちで、しかも望んだ結論が提示されなかった場合に勝手に失望したりする。そんな中で、この本って、今は結論が出せないとか、まだ定義できないとか、本当にわからない、みたいなことを随所ではっきり言ってる。そういうのがすごい誠実で好きだなって思ってます。わからないものはわからないっていうのを抱えたままにしづらいところが人間にはあるなっていう気がしてて、でもわからないなりに考えることは無限にできるし、考えるための手がかりは今もたくさんありますよ、っていうのを教えてくれるような書きぶりが、すごくいいなって思いました。
 それからチンパンジーの章で「彼女たちが自分の意図や願望をヒトに伝えることができていたという事実は、やはりきわめて重要な知見なのだ」(p.239)っていうところがあります。ここで言われているのが、実際にチンパンジーが言語を持っているかどうかは別として、人間とのコミュニケーション、意志の疎通はある程度できていたっていうことで、最近って、言語化っていうものがとても良いものとされている流れがあると思うんですけど、そもそもコミュニケーションって言語だけじゃないよねっていうのを改めて思わされて……。

営業MN 確かに、それはそうですよね。

営業IS そういうのがいいなって思いました。言語化優位な世界ってちょっとどうなんだろうとも思うので……。

営業MN 確かにそれガチでそうですよ!(笑)

営業IM 私は人生の半分くらいの期間家に猫がいて、今も3匹飼ってるんですけど、ぜったい自信を持って猫とは喋れてるって思ってたんです。でもこの本を読むと、猫とはコミュニケーションは取れてる、信頼関係もあるし、お互い情動的なもののやりとりはあるんだけど、あっ、これって喋れてはいないんだってことがすごくわかりました。言語とコミュニケーションって別のことだっていうのが、すごく面白かったです。

営業IS そう、なんかそういうのを人間同士の関係に持ってきたときに、言語のコミュニケーションが優劣の劣の方にされかねない風潮が……。

営業IM それでいうとすごい好きなのが、すごく長い歌を歌うハイラックスっていう動物の話で。ハイラックスの歌は、要素の順番がすごく大事で、どの要素の次にどれを持ってくるか、言語学で単語の順番や組合せを統語っていうそうなんですけど、ハイラックスはまるで統語があるかのような複雑な歌を歌う。たくさんの異なる歌を歌う能力がある。でも言語があるのかっていうと、その長い歌全体の複雑さそのものがその歌の意味であり、その歌は統語があっても言語とは言えない、っていうのがすごい面白かったです。

営業IS 言語とは言えないけど、でも間違いなくコミュニケーションをとってる、という。そこでぜひ引用したいところがあって。2章の最後で「僕たちの祖先でさえ、現代人になろうと必死だったわけではなく、単に当時の自分たちにもっとも都合がよかった変化を積み重ね、適応していっただけだ」(p.110)っていうくだりがあるんです。そもそも人間だって進化の過程で、自分たちの環境に合うように言語を持つ生き物になっていっただけであって、言語を持たないから、コミュニケ―ションに言語を用いないからという理由で、他の生き物が人間より劣っているって認識しそうになるのは危ないなって思います。
 あともうひとつ、ちょっと面白いなと思ったのが、この著者ってどの動物に対しても敬意があるというか、フラットな視線で描写してるなって思ってたんですけど、ハイラックスを紹介するときに「ハイラックスは風変わりでぱっとしない動物で」(p.148)って言い出して、主観?!いきなりすごいな(笑)って思ったら、博士課程でハイラックスの研究を4年間してた話があとで出てきて、愛着があるからこういう表現になったのかなって、人間味というか、味を感じました。

営業IM じゃあ次はSZさん。

営業SZ 私は、まず全体的に読んでみた感じだと、人間の言語能力が確かに特異って思ってたけど、でも決して絶対的じゃないっていうのが、いちばん印象的でした。だから、人間だけが特別に進化した存在であるみたいな「人類例外主義」的な考えをすごい揺さぶるような内容だったと思っています。
 特に私は、インコの章、ヒトとインコの共通点みたいなのをいちばん書いてあるところがすごい面白かったんですけど、インコが人間とまったく異なる進化の道すじを辿っていって、なのに似たような高度な認知や発声能力を獲得したっていうその過程が、すっごい面白いです。言語的な柔軟性だったり社会的な適応力みたいなものが、人間固有のものじゃなくて、進化の偶然とか環境の圧力によって他の動物にも現れうる資質だっていうのが、インコの章がいちばんわかり易かったなって思っています。
 だから、いろいろな動物にとって、言語そのものよりもなんでそれが必要だったのかとか、どうやってそういう能力が培われていったのかっていうのが、進化的な背景、それぞれの動物がそれぞれの環境に適応していった状態として、進化の結果としてそういう能力を持ってるんだなっていう捉え方ができたんじゃないかなって思いました。

営業IM そうですよね。私はその話でいうとすごい面白かったのがテナガザルの話で、ヒトが猿から分かれていきますっていうとき、テナガザルはかなり前から分かれていて、そのあと、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーって順番に分かれていくんだけど、テナガザルとヒトだけが複雑な歌を歌える。あそこはすごく面白かったです。もっと近いチンパンジーとかは、言語を持つ必要がない、というか複雑な音声を発する必要がない。賢かったから言語を獲得したとかじゃなくて、社会的な要請があったから言語的なものを獲得した。インコの発声能力もまさにそうですよね。それは、この本の中で繰り返し出てくる、単なる進化の結果ですよねっていう捉え方で、とても印象に残りました。
 

(後編につづく)

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