第7回「日本人が生きている」 犯人はさらに3発撃ち込んだ
中村哲さんを殺害した犯行グループの中心人物とみられる容疑者アミール・ナワズ・メスードは、今年1月に死亡する前、知人に「ドクター・ナカムラを殺してしまった」と打ち明けていた。また、アミールは知人に「自分は誘拐するつもりだったが、共犯者が撃ってしまった」「共犯者はパキスタンから来た男だ」とも語っていた。
連載「実行犯の『遺言』 ~中村哲さん殺害事件を追う~」
アフガニスタンで2019年12月に起きた医師の中村哲さん殺害事件の実行犯に迫る連載です。7回目は、一部始終を目撃していた男性料理人の証言を伝えます。
アミールが語る「共犯者」は、実在するのか。本当に中村さんを撃っていたのか。事件当日、中村さんを撃った男を、わずか数メートルの距離で目撃していた住民がいた。
住民は、アフガニスタン東部ナンガルハル州ジャララバードの料理人イスマトゥラー・クナーリ(40)。事件翌日と事件1カ月半後、今年2月の計3回、対面や電話でインタビューした。インタビューでは、現地の助手に通訳を頼んだ。
目撃者「不審な白いカローラが」
私:事件が起きた日の朝は、何をしていましたか?
クナーリ:事件があった道路沿いの料理店で、米を炒めていました。店先に調理場があるので、人や車の往来を見ながら料理をするのです。
私:道路の様子は?
クナーリ:いつもと同じように、通勤の車やトラックの往来が激しい日でした。警察の車は見かけませんでしたね。特に変わった様子はありませんでした。朝8時ごろまでは。
私:朝8時に何が?
クナーリ:1台の白い車が、店の脇の路地に停車しました。そこから男3人が順番に降りてきました。店に入るのかと思ったのですが、店の前で立ち止まり、道路を見渡していました。
私:3人の特徴は?
クナーリ:1人目は、自動小銃を持っていました。30代後半から40歳くらいに見えました。中背で筋肉質でした。帽子はかぶらず、あごひげはそっていました。白っぽい民族服を着ていて、肩にはクリーム色のスカーフをかけていました。スカーフの端から自動小銃の銃身がのぞいていました。
私:銃を持ち歩く人は多いのですか?
クナーリ:一般市民が銃を持ち歩くことは、ほとんどありません。ただ、男はとても落ち着いた様子で、道路を眺めていましたので、私は私服警官なのだろうと思いました。男は道路を見渡した後、向こう側に渡って、誰かと携帯電話で話をしていました。話を終えた後、また店の前に戻ってきたのですが、そこでカチッと音がしました。男が銃の安全装置を解除した音でした。何が始まるのだろうかと、少し不安になりました。
私:2人目は?
クナーリ:自動小銃の男の横には、若い男が立っていました。若い男は20歳くらいで、長身のやせ形でした。きれいにひげをそり、上等な民族服を着ていました。結婚式に行くような格好だなと思ったのを覚えています。
私:若い男も銃を持っていたのですか?
クナーリ:はい。右の腰からピストルを抜くのが見えました。いよいよ恐ろしくなりました。
私:3人目は?
クナーリ:中年の男でした。ひげは短く、白髪が交じっていました。背が高くて、かっぷくのいい男でした。茶色っぽい民族服を着ていたように記憶していますが、色が違っているかもしれません。やはり手にはピストルを握っていました。
私:事件の何分前のことですか?
クナーリ:だいたい2分くらい前でした。
私:そこにドクター・ナカムラや警備員が乗った四輪駆動車2台が通りかかったわけですね。
クナーリ:そうです。ドクター・ナカムラの四駆2台が、ちょうど私の目の前に差し掛かろうとしたときでした。突然、不審な白いカローラが現れ、進路を妨害したんです。
私:どんな風に妨害を?
待ち伏せしていた若い男たちが中村さんの乗った車に銃撃を始めます。目撃者がすぐ近くで見た中村さんの様子や犯行グループの明確な殺意が明らかになります。主犯格のアミールが言う「共犯者」とは。事件の核心に迫ります。
クナーリ:白いカローラが、四駆2台を後ろから追い越し、前に割り込んで急停止しました。ドクター・ナカムラが乗った四駆は、ハンドルを右に切りながら急ブレーキをかけ、私の目の前で止まりました。6メートルくらいの距離でした。
私:そこで銃撃が?…
【はじめるなら今】記事読み放題のスタンダードコース1カ月間無料+さらに5カ月間月額200円!詳しくはこちら