それは突然の血尿で始まりました。
2021年2月のある日、朝、仕事に向かう前のことでした。
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サンドウィッチマン 伊達みきおさん 突然 痛みのない血尿が…
人気お笑いコンビ「サンドウィッチマン」の伊達みきおさん(50)は4年前、膀胱(ぼうこう)がんと診断されました。
相方の富澤たけしさんとの軽妙なコントや漫才で独自の笑いを作り上げてきた伊達さん。
病気を経験して、どうしても伝えたいことがあるといいます。
伊達さんの「膀胱がん」体験を井上二郎アナウンサーが聞きました。
(「伝えたい 病気のこと」取材班)
痛みは全く無かった
伊達みきおさん
「朝一番におしっこをした時、血尿だったんです。ちょっと赤いとかではなく、もう真っ赤。でも、全く痛くもなんともないんです。あれ、おかしいな、寝不足かなと思ったんです。その日は仕事があったので、仕事をしながら、何回かトイレ行くじゃないですか。どんどん赤みが消えていったんですね。何だったんだろうと思いました」
血尿は次第に治まりましたが、やはり気になったため、伊達さんはマネージャーに相談しました。
「一応、病院に行ってみましょうか」
そう言われ、仕事を終えたその足で、夜、病院を受診しました。
伊達さん
「ひととおり検査をすることになり、初めは尿路結石じゃないかと言われたんですよ。相方(富澤さん)がしょっちゅう尿路結石になっていたので、これかと思ったんですけど、検査では結石はまったく写っていない。そうなると『膀胱』かとなって、『膀胱鏡』というカメラを入れて調べました。2センチの腫瘍でしたね。もしかしたらがんかもしれないから取り除きましょうと」
46歳で初めてのがん告知
見つかった腫瘍が「がん」かどうかは、その時点では分かりませんでした。
ただ、医師からはがんの疑いが強いと言われ、腫瘍を取り除く手術を受けることになりました。
簡単な手術だということでしたが、全身麻酔の手術です。
伊達さん
「麻酔をするときに点滴を打つんですよ。『今から全身麻酔の点滴を落としますね』って言われて、点滴が落ちるのを見ているわけです。『これ体に入ったら勝手に寝ますから』って言われたのですが、そのときは全然眠くなくて。『たぶん、寝ないと思いますよ』と言いながら、ポチョン、ポチョン、で、もう記憶が無かったです。それから伊達さん(手術が)終わりましたよ、でした。え?!もう終わったんですか?!って」
手術は40分で終わりました。
「医師からはきれいに取り除きました」と言われ、安心したといいます。摘出した腫瘍は、詳しい検査でがんかどうかが調べられました。
そして後日、結果が告げられました。
伊達さん
「紙が置いてあって、見えちゃったんですよ。『膀胱がん』って。こちらから先生に『膀胱がんと書いていますけど』と言ったら、先生の方が『そうなんですよ…』って。ですからドラマで見るようながん告知とは違いましたね。僕が見つけて、やっぱりがんだったんですか?って僕から聞いた形でした」
膀胱がんのステージは1。かなりの早期発見だと伝えられたため、冷静に受け止めることができたといいます。
井上アナ
「それでも、がんとわかってショックを受けることはなかったのでしょうか?」
伊達さん
「2人に1人ががんになる時代と言うけれど、にしてもまだ早いなとは思いましたね。実は膀胱がんになる半年ぐらい前に、同級生ががんで亡くなっているんですよ。仙台の友達だったんですが、ちょこちょこお見舞いにも行っていて、最後に会ってから3日後に亡くなったんです。彼は早期発見ではなく、がんの種類は大腸がんでした。ずっと『痔(じ)』だと言われていたそうで、治療しても全然治らないのでセカンドオピニオンに行ったら『がんですよ』と。そういう経験をしていたので、(こういう状況には)ちょっと免疫があったというか。その友達のほかにも、がんで亡くなった方は身内にもいました。でも、(自分の場合は)本当に早期発見というのがでかかったですね」
※膀胱がんについては記事後半で詳しくお伝えします。
お笑い界のトップランナーとして活躍
伊達さんは1998年、宮城県の高校の同級生、富澤たけしさんとお笑いコンビ「サンドウィッチマン」を結成します。
長い下積みを経て、2007年、漫才の賞レースでチャンピオンに輝くと、漫才、コント界で絶対的な実力を見せてきました。
伊達さんは、富澤さんの「ちょっと何言ってるか分からない」などのシュールなボケに、切れ味鋭いツッコミを入れたかと思えば、「カロリーゼロ」などの独自の世界観でボケ役もこなしてきました。
そして2011年の東日本大震災では気仙沼で被災。その体験からチャリティー活動にも数多く参加してきました。
NHKでは、サンドウィッチマンの2人が病院で出張ラジオ局を開設し、患者や家族の日ごろ言えない気持ちをリクエスト曲とともに聞いていく番組「病院ラジオ」でも親しまれています。
入院中考えたことは
伊達さんの入院は5日間でした。
伊達さん
「入院中は何を食べてもいい状況で、車いすにもならないし、点滴を持って、できるだけ歩いてくださいと言われて。それで病院の1階のコンビニに行ってコロッケ買ったりしました(笑)。不思議なんですよ。5日間入院して1キロ太ったんですよね(笑)。こんなことあまりありませんよって言われましたけど、僕は病院食に1品増やしていたんですよ。コンビニでお惣菜を買って太ったんですね」
井上アナ
「5日間の入院生活中、どんなことを考えながら過ごしていましたか?」
伊達さん
「やはり家族のことですよね。子どもも小さいですし、当時は、まだ今くたばるわけにはいかないなっていう気持ちはありました。でも、家族は頑張ってきてね、ぐらいの感じで送り出してくれたので、入院中もすごく気は楽でしたね」
井上アナ
「富澤さんにはどういうふうに伝えたのですか?」
伊達さん
「いや、血尿が出たという話は、その日に仕事で会った時からしていて、『やばいんじゃないの?』みたいな。で、病院に行ったら腫瘍があった。がんかどうかは調べてみないと分からないけど、おそらくがんっぽいなというと。(富澤さんは)そもそもリアクションが激しい方じゃないので『ああ、そうなんだ』くらいでしたね。そういうやつなんですよ。『あぁー』くらいの。でも僕ら2人でやっている仕事なので、僕が休んでも富澤が1人で番組で出てたりして完全に穴をあけるわけではないので頼もしかったです。後に富澤しか出ていない番組を見たらふだんの5倍しゃべっていました。いや、ふだんからしゃべってくれるんですけど、でも頑張っていました」
大変なのは退院後だった
退院して仕事に復帰した伊達さんですが、大変なのはそれからでした。
3か月に1度のペースで、がんが再発していないかを調べる定期検査が必要だと言われたのです。
伊達さん
「検査のために膀胱にカメラを入れるんですが、これが痛い。次の日に検査があると嫌で、前日の夜は眠れないほどなんです。(局部に)麻酔をするんですが、この注射がまた痛い。カメラを入れたら、先生と一緒にモニターで膀胱の中を見ながら、きれいになってますねという感じで、じゃあカメラを抜きますねと、抜く時がまた激痛で、もう憂うつでした」
それでも検査を続けられているのは、同じ膀胱がんを患い、去年亡くなったタレントの小倉智昭さんから言われたことばがあったからだと言います。
伊達さん
「小倉さんに生前、自分の病気のことを報告したら『大変なのは検査だよ』と言われたんです。小倉さんはその検査が嫌で行かなかったそうなんですよね。『恥ずかしいし、痛いし、ちょっと耐えられなかった。でも伊達君は必ず行くように』と言われ、分かりましたと。これはすごく大きかったですね。すごい恥ずかしいんですよ。特殊ないすに座って、全部脱いで、全部丸見えになる。丸出しになるわけです。その寸前まで『伊達さんのYouTube見てます!』とか『ラジオを聴いています!』って言ってくれていて、次に見るのが僕のこういう状況なんですよ(笑)」
がんを経験して ライブにも変化が
がんを経験して、自分たちのライブにも変化がありました。
病気を題材にしたコントを披露したり、トークの中でも検査の大事さに触れたりするようになったのです。
伊達さん
「自分を診てくれたお医者さんに聞くと、血尿が出ても、病院に来ない人がほとんどなんだそうです。もうあとは何も症状が出ないので、次に症状が出たときには、手遅れの状況ということもあるから、異変を感じたらすぐ病院に行くこと。病院に行って、何もなかったら何もなかったでいいじゃない。それを多くの人に伝えてくださいとお医者さんには言われています。僕が舞台でこうした話をしていると、血尿が出たからと検査に来たという人が増えたそうで、それを聞いてうれしかったですね。伝えたいのは、自分の病気のサインを見逃さないようにすることです」
井上アナ
「この世代になると、仕事もあるし、家族もいるし、いろいろなつながりが広がっている中で、健康ってやっぱり大事にしなくちゃいけないと思いますよね。(※井上アナウンサーと伊達さんは同じ年の生まれ)」
伊達さん
「そうですね。人に心配されるの嫌ですもんね。僕なんかずっとこの体型なので、ちょっと頑張ってダイエットなんかした日にはみんな心配するんですよ。『あれ、サンドウィッチマン伊達は、ずいぶんやせたけど大丈夫か』『そういえば前にがんになってたよな』となったら、もう笑えないじゃないですか。だから(体型を)維持しているんですよ。(心配させないように?)実は大変です。やせたいです、はっきり言って。やせられるんです(笑)」
井上アナ
「カロリーが低いものを食べれば?」
伊達さん
「ここ数年、僕はカロリー摂取していない、カロリーゼロだって言い張っているので。そしたら栄養士さんからクレームのお手紙をいただいたことあります。便せん7枚に『カロリーゼロなんてありません。あなたは何を言っているんですか?』と。そういう場合、どうしたらいいんでしょうね。すみませんと言うのもおかしいじゃないですか(笑)」
命との向き合い方
井上アナ
「自分自身ががんという病気になり、命との向き合い方や、心境に変化はありましたか?」
伊達さん
「東日本大震災では多くの人たちが一瞬で亡くなりました。がんは告知されてから時間がある病気で、やりたいことができたりとか、会いたい人に会える病気なんですって。よく『いつか会いたいね、またみんなで集まりたいね』ということが、あるじゃないですか。それって動かないと絶対に起こらないことなんですよ。だから、そう思った時にもう予定を組むんですよ。絶対に実行する。そうしないとたぶん二度と会わないんですよね。病気になってから、あと震災もあってだと思いますが、あの人の声を聞きたいな、今度、電話してみようかな、じゃなくて、思ったらすぐに電話するとか、僕はそういう風になりました。会いたいと思ったら会いに行く。今までは、またいつか会おうねなんて口だけで言ってましたけどそこは変わりましたね」
井上アナ
「いま、あらためてどんなことを伝えたいですか?」
伊達さん
「僕は血尿でしたけれど、まったく痛くなかったので、病院に行かないという選択肢もあったんですよ。でも、行って良かったなと思いました。本当に自分のサインを見逃すことがないようにしてほしいですね。それがすべてだと思います」
膀胱がんについて専門家に聞きました
膀胱がんについて、日本泌尿器腫瘍学会の理事長で、大阪大学医学部附属病院の野々村祝夫病院長に聞きました。
膀胱がんとは?
膀胱がんは、膀胱にできるがんの総称です。
腎臓で作られた尿は膀胱にたまり、尿道を通って体外に排出されます。この尿の通り道を尿路といいます。膀胱がんのほとんどは、膀胱の内部を覆う粘膜、「尿路上皮」にできるがんです。
膀胱がんの罹患者数は、年間2万人以上にのぼります。がんの統計2025によると、男性がおよそ1万8000人、女性がおよそ6000人で、男性が3倍ほど多いとされています。
膀胱がんになりやすい人は?
膀胱がんになるリスクを高める代表的なものとしては喫煙が挙げられます。普段から残尿感がある人もなりやすいとされています。
また病気のため特殊な薬を使用している人や仕事である種の化学物質を扱う人などもリスクが高まるとされています。
特徴的な予兆や初期症状は?
痛みや他の症状を伴わない血尿は膀胱がんに特徴的な症状です。まれに改善しない排尿時の痛み・残尿感などの症状を示す場合もあります。
いつも血尿になるわけではなく、一度、血尿が出たあとに出なくなることもあります。がんが進行すると、尿が出にくくなったり、わき腹や腰、背中が痛んだり、足がむくんだりすることもあります。
痛みがないのに目に見える血尿が出たら、すぐに泌尿器科の医療機関を受診してください。
どのように膀胱がんと診断される?
血尿はしばしば1日から2日で一旦止まりますが、また出ることが多く、その際に医療施設を受診して、尿検査や尿道から内視鏡を入れて膀胱内を観察する膀胱鏡検査などを行い診断されることが多いです。
その後行われるのが内視鏡手術です。がんがどれくらい深くまで進行しているかを調べながら腫瘍を取り除きます。
麻酔をしながら、尿道からがんを切除するための電気メスがついた内視鏡を挿入して切除します。切除した組織を顕微鏡で調べることにより、がんの深さや悪性の度合いなど正確な病理診断を行うことができるため、ほぼすべての膀胱がんで行います。
数日~1週間程度の入院が必要です。
進行すると膀胱摘出も
膀胱がんで問題となるのは、大きさではなく深さです。
がんが粘膜やその下の粘膜下層までで止まっている場合は「早期がん」とされ、内視鏡手術で削り取り、膀胱を温存する治療が可能です。
さらにその奥にまで達している場合は膀胱をすべて摘出する手術が標準治療となっています。
膀胱がんに向き合う上で大切なことは?
非常に大切なことは早期発見と再発防止です。
早期発見できれば、病気が治る可能性や病状が改善する可能性が高くなります。早ければ早いほど、体の負担が少なく膀胱も温存できる治療を選択できるからです。
再発については、およそ半数が膀胱内に再発すると患者さんには説明していて、定期的な検査には必ず通ってもらうよう伝えています。再発しても早期に発見できれば、いい結果につながる可能性も高くなるからです。
ただ放置するなどして、再発したがんが進行してしまうケースも少なくありません。最初の2年間で再発が多いため、特にフォローアップが大事になってきます。嫌がらずに検査を続けてほしいです。
血尿が出たらすぐに受診を!
膀胱がんが増え始める中高年になったら、トイレで血尿が出ていないか確認しましょう。
尿の色に変わりがなくても、健康診断などの尿検査で尿に血が混じる「尿潜血」があれば、泌尿器科を受診するようにしましょう。血尿が治まっても放置しないこと、これが大切です。
(7月6日 おはよう日本で放送予定)
野町かずみ
1998年入局
北九州・高知などを経て現所属
演劇・伝統芸能など文化ニュース担当
市毛裕史
2015年入局
釜石支局などを経て現所属
伊達さんの命との向き合い方が深く印象に残りました
藤田日向子
2010年入局
仙台局や社会部などを経て現所属
女性の健康や防災などを継続取材
山野弘明
ニュース7や東日本大震災関連の番組などを経て2021年から現在まで「おはよう日本」を担当