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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第八章 生きては帰さぬ地下迷宮
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8-22 シャドウ

 背中を刺されたダメージにより、メイズナーの距離感を狂わせるスキルが解除されていく。

 縮小されていくメイズナーの体は、アニッシュよりも低い。最終的には人間族の子供並の大きさだ。凶悪な牛頭の顔付きや、鋭利な形状の角こそ変わらないが、酷くダウンサイズが成されていた。

「ミノタウロス族でありがならの矮躯わいく。皆は、その齟齬にだまされていたからこれまでお前を倒せなかったのだ!」

「どうして、ここにいる。階段から第九層に下りたのではなかったのか??」

「余が持つ炸裂玉にはそこまでの威力はなかった。玉の数が圧倒的に足りなかった。だから、階段入口の表層だけを二度爆破した。余が階段を使った後に破壊したと、そなたに誤解させて新しい道を掘らせるためだっ! 下に置いてきてしまった、仲間を助けるために!」

 刺したクナイを押し込みながら、アニッシュはメイズナーに対して策のすべてを明かした。

 メイズナーの真の姿に気付いていた事。

 メイズナーを騙して、第九層へと続く道を作らせた事。

「見事だ、少年。よくぞ私の計略に気付いた。そればかりか、少年の計略に私をはめるとは恐怖さえ感じよう。なるほど、少年は強敵だ」

 アニッシュの策は想像以上にはまり、メイズナーに会心の一撃を加える程に至った。クナイの刃を伝い、アニッシュの手が血でにじむ。


「だが……惜しむべきは知恵に劣る力か。いや、過小評価はせん。ここで倒さねば、少年は魔王連合を阻む人類の希望となってしまう。そんな未来の障害、人類の芽を摘むのが、私の使命」


 しかし、クナイはメイズナーの内臓に到達していない。分厚い筋肉の層に受け止められて停止を余儀なくされている。

 メイズナーは背中に力を込める。すると、筋肉の束に押し上げられたクナイの刃がゆっくりと排出されていく。

 アニッシュは確かに知でメイズナーを上回った。が、所詮は形なきもの。真正面からではなく背中側から襲い掛かったとしても、暴力の塊たるモンスターを倒すには足りない。

 メイズナーは本当に小さなミノタウロスだ。大柄で知られるミノタウロス族の中でどのような扱いを受けていたかは想像しかできないが、迷宮魔王の幹部となるまでに頭角を現したメイズナーの力量は見誤ってはならない。

「少年、名前を聞いておこう」

「……アニッシュ・カールド・ナキナ」

「アニッシュ少年よ。聞くが、この次の策を考えてはいるのか? 階段を破壊した炸裂玉とやらの残りはあるのか? 階段を私に作らせた後、どう仲間を救うつもりだ?」

 アニッシュは答えられない。くやしさで硬く口を閉ざすのみ。

 メイズナーを上回るだけで、アニッシュはすべてを出し切っている。無言は無策の肯定でしかない。

 そして、とうとう、クナイは完全に抜けてしまう。振り向いてくるメイズナーから、アニッシュは一歩、二歩と後退してしまう。

「ないというのならば、ここで終わりだ。アニッシュ少年」

 小さくなった斧をメイズナーは振り上げる。

 振り上げてようやく、アニッシュの目線を超える程度でしかないが、そんな小さな体に凝縮された『力』の威力は絶大。アニッシュでは受け止めきれないだろう。

 アニッシュは脳みそをフル回転させて生きるための最善策を探すが、まだ発見できない。


「では、さらばだ!」


 メイズナーは、非情に斧を振り下ろし――、


「ああ、じゃあな。化物。お前はここで死ね――『暗殺』発動」


 ――ている最中、またしても背中に不意討ちの一撃を受けた。

 そんなに重い一撃ではなかった。軽いとさえ言える。

 アニッシュが用いたクナイと同じ刃渡りのナイフを背中の中心に刺されているだけであり、やはり、筋肉が防御壁として機能していた。致命傷に至るダメージとは言い難い。

「なっ、お、お前……はッ」

「よう、メイズナー。どうした? 死ぬ寸前だから死人の顔が見えたのか?」

「お前ッ、はッ!?」


「残念ながら魔王連合を狙うアサシン、御影は健在だ。呪いなんて回りくどい手を使っていないで、物理的に始末しておくべきだったな。……もう聞こえていないか」


 それでも、心理的には十分に致命傷だったのだろう。

 メイズナーはび付いたかのようにぎこちなく首を動かして、背後を襲った者の顔を目撃した途端、口から泡を吐きながら絶命する。

 瞳孔は色を失う。けれども、手足は力を失う暇もなくそのままだ。立ったまま死後硬直を開始した。

 メイズナーの死亡は、人為的な突然死であった。


御影みかげ。せっかく合流できたのに一人で跳び出さないで」

「一人歩き、禁止、です!」

「ごめんって。丁度、隙だらけなミノタウロスがいたから、サクって討伐しておこうとな」


 メイズナーの背中から、犯人がひょっこりと姿を現す。

 事態を飲み込めず呆然としたアニッシュが目撃したその人物は、顔の上半分を黒いマスクで隠した男。見た目通りの怪しい怪人である。地下迷宮と言えどここまで怪しい人物はそうは……いない事もなかったが。

 怪しい怪人は、怪人の割に口調は明るい。魔王の幹部を倒したばかりなのに、倒したばかりだからか、口元は歪んでしまっている。

 マスクの男には仲間がいるようだった。

 通路の向こう側から二人の女性が走り寄ってくる。この地方では珍しい黒髪の女性二人であり、特に、背の高い女性は目を見開いてしまう程の美人だ。黒髪黒目の所為で実年齢よりも若く見えるはずなのに、女性的な凛々しさを強く感じてしまった。

「そこの少年。ダンジョンから脱出するのなら一緒にどうだ?」

「よ、余の事か」

「お前以外に誰がいる」

 アニッシュは仮面の男に迷宮脱出を誘われたのだと後から気付いた。この時点になって、仮面の男が敵ではないとようやく理解する。

 メイズナーが作った新しい階段を見てから、アニッシュは首を横に振る。

「余にはまだやるべき事が残っている」

「手伝いが必要か? 自惚うぬぼれているつもりはないが、少なくともお前よりも俺達は強いぞ」

 怪しい仮面の癖に、奇妙な程に親切な男であった。

 後ろの二人の女性も異論を挟まない。現状、地下迷宮の危険度は跳ね上がっていると知っていながら、他人を助けるのをいさめない。強い信頼関係で結ばれている関係なのだろう。

 不意討ちしたぐらいで、メイズナーを仕留めた仮面の男の実力に疑いはない。

 しかし、アニッシュはまた首を横に振った。

「いや、そなた等の生命はそなた等のものだ。大事にして、余の事よりも脱出を優先するがよい」

「……良いんだな?」

「見栄を張ってはいるが、余に生還する意思がない訳ではない」

「分かった。無事生き残れよ、少年」

 少年ではない。アニッシュと呼ぶが良い、と言葉を返した。


「俺の名前は御影みかげ……いや、ここでは御影シャドウという名前で有名か。魔王連合と敵対しているのなら、その内、再会する事もあるだろう。じゃあな、アニッシュ」


 御影シャドウと名乗った仮面の男と女性二人は去っていく。再会できるか分からないが、三人の無事をアニッシュは祈った。

「……では戻ろう。キョウチョウが下で待っている」

 アニッシュは第九層へと続く深い階段を下っていく。

 下からは、何の音も聞こえてこない。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
さて、NTRみたいな流れになったけども、本格的にNTRはやはりできないのではないかね? まず桂さんがわかるように天竜も主従の契約があるように、簡単に見破ることが可能だ。 関係性の軽い二人が分からなくと…
[一言]  NTRは嫌いなんですが……
[一言] 急なNTRに脳が破壊されました。 続きは法廷で立ち会いましょう
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