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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第八章 生きては帰さぬ地下迷宮
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8-13 発覚


『死なせてくださいッ。パーティの皆を死なせただけでも罪深いのに、吸血鬼になってしまった私に、生きる資格なんてないんです!』

「ヒステリックになりたい気持ちは分かるが少し落ち着け。ナイフを振り回すな」

『何言っているのか分かりません! ナイフが駄目なら、舌を噛んでッ』

「って、口の中で何しているッ! たく、アイサ、俺が指突っ込んでいるから布とロープを用意!」

『うぐんっ、んん!? んん、んーっ!』

「レベルが違い過ぎるから指を噛んでも無駄だ。甘噛みにしかなってない。舌触りが心地良いぐらいだ」

『んんんッ!』

『……キョウチョウ、僕以外の人に変態行為をしないで欲しい』


 リセリに布を噛ませて、手足をロープで縛り上げてようやく落ち着く。

 ……かと思いきや、縛られたリセリは崩れ込むと盛大に泣き始めたため、ダンジョンのダウナーな雰囲気が更に落ち込んだ。涙だけでなく鼻水も流して綺麗な顔が台無しだが、リセリに容姿を気にする余裕は既にない。

 リセリの心は、粉々に砕けてしまったのだ。

 命の危険を伴うダンジョンに潜れるだけの勇気を持った女性であり、目を輝かせる程に意志の強い女性でもあったリセリ。今の彼女にそんな輝かしい面影は残っていない。

『この人をどうするの、キョウチョウ?』

 くぐもった泣き声と鼻をすする音が嫌に響く。遠くからモンスターを呼び寄せてしまいそうで気が気ではない。

 泣いているリセリを見ているだけだというのに、背中から流れる冷や汗が止らない。

 かゆくもない後頭部をかきながら、膝を折ってリセリと視線を合わせる。

「どうするにしても、泣かれたままだと話もできない」

 比較的汚れていない布でリセリの目と鼻をぬぐってやりつつ、リセリに語りかけた。

「泣いているばかりでどうする。仲間達を冷たい床に座らせておくつもりか?」

『だがら、言葉が、分がらない』

「お別れを言ってやれ」

 リセリに諭した後、俺はある死体へと近づいていく。

 タル型体形の体の足下に転がっている髭面を発見すると、瞼と閉じてやってから黙祷した。

「短過ぎる付き合いだった。魂はもう海の底だろうが、心安らかに」

 俺の行動見て、リセリは再び泣き始めた。



 一箇所に集められた亡骸に向けて、手をかざす。

「――炎上、炭化、火炎撃」

 限りある『魔』を消費して、俺は炎の魔法を撃ち出した。レンガや石で固められたダンジョン内で死体をモンスターに荒らされない方法は、火葬以外に思い付かない。

『皆、皆っ、ごめんなさい。こんな私の我侭で、皆ぁっ』

 火葬前に、彼等の所持品の中で使えそうな物は回収してある。水と食料は半分以上駄目になっていたが、第九層の地図は入手できた。道を戻った目的は十分に果たせたと言える。

 ただしリセリ達の地図には、第八層へと続く階段は一つしか描かれていない。

 道を引き返した道は、あまりなかった。

『キョウチョウ。そろそろ移動しないと。臭いでモンスターがやってくる』

「そうだな。どこかで体を休めて頭を働かせたい」

『皆ぁああっ』

「リセリも来い。生き残った俺達には義務がある」

 リセリの手を引いて、顔の仮面を直視させる。

「凶鳥はすべてを汚す鳥だ。俺と対峙しておいて、勝利などありえない。勝利さえもドス黒く汚し尽くす。……『吸血魔王に』『復讐する』」

 醜い鳥の仮面は、気付け薬としては最良だろう。




 休むのに丁度良い場所をダンジョンで探すのは難しい。第九層には、低層にあったような小さな円形スペースは存在しない。

 こういった隠れる場所が発見できない場合、曲がり角に身を潜めるのが冒険者の定番となっている。壁に体を密着させて気配を消しながら、二方向に監視するのだ。モンスターがやってきたなら別方向に逃げるか、隠れて奇襲するかを選択できるという訳である。

「水を飲みながら聞いてくれ」

 体を休める場所を確保できたので、ようやく二人と作戦会議を行える。

『分かった。キョウチョウ』

『……あの、エルフさん。キョウチョウさんは禁忌の土地出身らしいですのに、どうして言葉が分かるの?』

『慣れとフィーリング??』

 若干一名、意思疎通に問題あるが、話を進めよう。

「急造パーティのため、俺が仕切らせてもらう。いちおう紹介するが、俺の名前は凶鳥。最近まで奴隷をしていたが、めでたく解雇されて自由の身だ」

『僕はキョウチョウを追って里を出たエルフです。僕をたたってくれたキョウチョウを、今度は僕が助けたいと思ってダンジョンまで追ってきました』

『……複雑な関係のようですね。この私はリセリです。教国の巫女職をしています。いちおう、王族の一人ですが気にする必要はもうありません』

 初対面同士のアイサとリセリも紹介を済ませたところで、本題に入った。

 俺達が無事にダンジョンから脱出する方法について、意思を統一し、知恵を出し合い、解決策を模索するのが作戦会議の目的である。


「俺達は生きてダンジョンから脱出する。それが大前提だ」


 生きるという当たり前の事さえ、今の俺達には難しい。魔王が闊歩かっぽする危険地帯から少ない戦力で逃げ出す。生存確率を高めるため、足りないパラメーターを知恵で補うしかないのだ。

「だが、第九層からの唯一の脱出路は崩落して使用不能。リセリも他の道は知らない。これが問題その一だ」

 懐かしい気分になる。

 記憶は不完全なのに強い印象が残っている。

 俺は過去にも、大難題を解決しようと奔走ほんそうしたはずなのだ。詐欺師のように策をでっち上げ、失敗と成功の境目ぎりぎりで達成したはずなのだ。相手は巨大オークだったりスキュラだったり色々だが、俺はいつも解決してきた。今回もそうでありたい。

「次に、リセリについてはバッドスキルの影響がある。これを解決しない限り、リセリは地上に戻れてもいずれ人を襲う吸血鬼と化す。これが問題その二だ」

 ただし、俺一人で得られた結果ではないだろう。残念ながら俺の大学入試の成績は悪かったのだ。

 だが悲観する事はない。俺一人で不可能なのなら、他人を頼れば良い。

「問題のハードルは高い。正直に言うと問題その一についてはお手上げだ。だから先に問題その二を解決したいと思う。うまくいけば問題その一も解決可能だ」

 目の前にはアイサとリセリ、二人も人員がいる。異世界住民たる彼女等の知識を借りない手はない。


「吸血魔王を討伐するぞ」


 二人は俺の言葉を聞き、驚愕を顔に浮かべた。

『……不可能です。吸血魔王は不滅の魔王でした』

 他人に頼れば良いと言ったが、彼女等に過大な期待をするのは間違いだ。三人寄ったぐらいで文殊の知恵が浮かぶはずがないというのが現実だ。吸血魔王と戦ったリセリは否定の言葉を返すぐらいである。

「確かに奴は不滅の魔王だったが、本当に不滅なはずがない。スキルか魔法かで不滅を装っている。攻略法はきっとある。種さえ分かれば討伐できる。吸血魔王と戦った俺達でなければ気付けないヒントがあるはずだ」

『キョウチョウさんは何か気付いたというのですか?』

「いいや、まだ。さっぱり」

『では何を根拠にっ!』

「大丈夫だ。断片的な情報を集めるだけでも問題ない。きっと、アイツなら電話越しの無茶振りにも解決方法を示してくれる」

 俺は別に目前の彼女達に責任を丸投げして、知恵を絞った気になろうとしている訳ではない。


「優太郎なら、優太郎ならきっと吸血魔王の不滅の秘密に気付く」


 俺は最初から、親友という最も身近な他人のみに全幅の信頼を置いていた。


「実は、俺には相談役兼参謀役兼雑用がいる。一週間経過しているし電話も可能だ。『暗器』解放。俺達の希望はこの手にある黒い携帯電話の先に……? 『暗器』解放………? 『暗器』解放……………??」


 …………俺の手の平は、いつまで経っても空っぽだ。『暗器』スキルを解放して隠している黒い携帯電話を取り出そうとしているのに、いつまで経っても現れてくれない。

 怪訝な顔付きになっていく女二人。先程まで自信満々だった俺が急速に意気消沈していく様を目撃しているのだから仕方がない。

「『暗器』解放! どうして、出ない? あれ?? どうして。スキルで隠して携帯しているから落とすはずがないし、最近の戦闘で『暗器』を使った覚えもな――」

 ダンジョン脱出に関する問題は、その一とその二の二つだけではないと、俺は気付く。


「――アニッシュに、預けたままだった」


 問題その三。グレーテル戦闘前にアニッシュに預けた携帯の回収。

 なお、第八層に逃げたアニッシュから携帯電話を返してもらうには、問題その一を解決しなければならないため、現段階では絶対に解決不可能である。


「……まあ、優太郎ごとき男の事は横に置いておいて、と」


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