7-29 モンスタードロップというご都合主義
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“ステータス詳細
●運:150 = 5 + 145”
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『運』の増加が止らない。カウントダウンならぬカウントアップ。いったいどこまで増えていく。行き着く所まで至った瞬間、何が起きてしまう。
いやまあ、モンスターがうろつくダンジョン内部だというのに、両手首を縛られている所為かもしれないが。
「アニッシュめ。奴隷の身分を再認させてくれる」
『反省するのだ! よりにもよってリセリ様の持ち物まで壊そうとしたのだからな』
『この私は気にしていませんよ。それよりもキョウチョウが言う、記憶武装がモンスターの罠という話も気になります』
『罠だとしても、危険な地下迷宮内で壊す必要はなかったはず。キョウチョウは思いっきりが良過ぎる。やるにしても、行動する前に余に言えば良かったのだ!』
アニッシュに散々説教されたにもかかわらず、反論を繰り返す俺を反省の色なしと判断されたため、手首を縛られてしまった訳だ。
傍観しがちな者達が多い中、ほとんど他人なリセリだけは同情的に俺を弁護してくれている。何だかな。
「『慢心だ』『モンスターを』『侮っている』」
『記憶武装は惜しい武器だったと言っている』
「『貧乏性も』『大概だ』」
『余計な言葉ばかり覚えおって! 余は教えていないぞ!』
「『パン耳』『王子』!」
『醜い鳥仮面!』
精神年齢が極端に下がった口論では良い結果は得られない。ギギギ、と歯軋りしながら、アニッシュは呼吸を整える。
『記憶武装は絶対に壊すべきではなかったのだ。リセリ様にも見せたかったぞ。キョウチョウの武器はそれはそれは恐ろしいもので、あのメイズナーさえ退けた程の品物だ。それを壊してしまうとは愚かしい』
俺にとっても重機関銃は惜しい武器だった。が、アニッシュは俺以上に重機関銃に魅せられてしまった様子である。
悪い傾向だと思う。純真な少年が、刃物に憧れるように道を踏みはずそうとしている。
原因は、アニッシュが支え続けているスズナだろう。信頼している従者の傷付いた姿に、現実的な恐怖感を煽られてしまったのか。
アニッシュの頭を冷まさせる一言はないだろうかと思案してみたものの、正直、状況証拠以上のものは思い付かない。俺にとってのモンスターとは、知恵の働く恐ろしい強敵であって野性生物ではないのだが、異世界の常識からは反してしまっているため共感を得られない。
化物は予想のニ倍は強いと思え、とは誰の言葉だったか。
侮るなという意味を含んだ助言だったと思うが、リセリとアニッシュ達はモンスター共の知能を見下している。
『ナキナの弟さんの言う事は最もですが。ただ、改めて思えば、記憶武装は確かに都合が良過ぎます』
『リセリ様に神託はないのですか?』
『具体的な内容は直近にならないと分かりません。危険の知らせはたびたびありますが、地下迷宮自体が危険な場所なので』
リセリの持つ錫杖も記憶武装だという。モンスター共がどんな策を弄しているかは分からない。分からないから、早々に捨て去るべきだと思うのだ。トロイの木馬をいつまでも城内に置いておく訳にはいかない。
ちなみに、俺を縛り上げても人材豊富なリセリパーティが働いてくれるので問題ないようだ。インプの三節魔法の魔弾を壁役の騎士が盾で防ぎ、土属性の魔法使いが岩を放って反撃、グウマが斬り込んで制圧している。縛られたお陰で楽できているというのは少々、納得できない。
「『リセリ』『捨てろ』」
『そうですねぇ……この錫杖は対魔族の切り札ですので。キョウチョウさんが切り札を捨てても良いと思えるぐらいにこの私を納得させられたなら良いですよ』
そう優しく言われても何もない。
『キョウチョウよ。ただのモンスターがドロップアイテムという遠回りな方法で罠を張るはずがないだろう。心配し過ぎなのだ』
アニッシュの言い分も最もである。
敵はただのモンスターではないかもしれないが、俺達はただの冒険者でしかない。ダンジョンで宝探しに励むしがない冒険者を罠に嵌めてもモンスター共に戦略的な利点はない。リセリパーティはともかく、アニッシュは貧乏だし。
俺は杞憂が過ぎたのだろうか。
『余達を勇者候補と知って挑むにしても、モンスターらしくはないではないか』
『そうですよ。迷宮魔王は討伐不能王と違って何もしない事で有名です。勇者候補の集まる土地として人気なのもそれが理由です』
「……さっきから『勇者候補』って単語が頻発している。二人ともその『勇者候補』なのか。どういう意味なんだ?」
アニッシュとリセリは顔を見合わせる。
『ナキナの弟さん。まだ教えていなかったのです?』
『キョウチョウはもう知っているものとばかり。不思議な男なので既に察していると』
前からアニッシュが冒険者をしている理由を訊ねようと思っていたのに、忙しくて忘れていた。貧乏だから一攫千金を狙ってと想像していたが、裕福そうなリセリを見るに違うように思える。
「『勇ましく』『戦う』『者』」
「『強く』『魔族』『倒す』『者になる』『未来』」
二人は簡単な単語で『勇者候補』とやらの説明をしてくれる。雰囲気は何となく分かるが、そんな特別な感じはしない。
「『前の』『勇者は』『レオナルド』」
……ちょっと待て、聞いた事のある人名をアニッシュは口走ったぞ。
「おい、レオナルドって『野蛮な』『赤い髪の』『男』か?」
『なんだ。キョウチョウは勇者を知っているではないか』
「レオナルドの奴が前の『勇者』で、お前達は『未来』の『勇者』なんだな!?」
『その通りです』
なかなか発見できなかったパズルのピースが見付かる。
長年外れなかった知恵の輪が外れる。
俺が『勇者』という異世界単語を理解した瞬間にそんな爽快感はなかった。
粘っこい発汗により、背筋が一気に冷たくなる。ただの冒険者ならば罠に嵌める必要性はなかったというのに、勇者候補ならば話は全然違ってくる。
「勇者候補の癖に、どうして狙われないと思っていられるんだ!?」
「――グレーテル二一号は負傷してしまいましたか。まあ、無事に記憶武装をドロップしたようですし、回復させるのも手間なので廃棄で良いでしょう」
料理の途中、使う調味料の量を間違ってしまった。その程度の悔しさを滲ませながら鼻の長い化物は語った。
実際は、感情移入の度合いはもっと小さい。緑色に輝く液体が入った試験管を振る片手間に、鼻の長い化物は実験動物の処分を決定しただけだ。
「私が救ったグレーテルも先程、死んだ。三騎士を名乗っておいて情けない限りだ」
「いえいえ。その場で即死させなければ十分ですよ、メイズナー。むしろ良くやってくれました。我等の脅威となりえる有望な人物に記憶武装を使わせる、それこそが我等の狙いではないですか」
暗い施設に半身だけ入室しながら語りかけたのは、牛頭の化物、迷宮魔王の三騎士たるメイズナーだった。
第四層で受けた傷が思った以上に深いのか、胴体に包帯を巻いている。
「それにしても、メイズナーを傷付ける程の武器がまだ低層にあったとは、どれ――」
三騎士のメイズナーとの会話は、流石に片手間とはいかず、鼻の長い化物は試験管を台座に置く。
室内中央には、緑色の液体で満たされたシャフトがでかでかと備わっている。
鼻の長い化物、エクスペリオはシャフトへと鼻を伸ばして匂いを嗅ぎ、息を呑む。電流が流れた訳でもないのに鼻が痺れた。
エクスペリオの内心は、新元素を発見した科学者のそれを酷似しているだろう。
「――これはっ、完全に未知の武器ではないですか。これはすごい。ぜひ研究しなければ!」
シャフトの側部に備え付けられた蛇口から、エクスペリオは中身の液体を少量取り出す。
空気に触れた緑色の液体は球状に固まっていき、ビー玉の形態となっていく。その形と色は記憶武装そのものだ。
迷宮魔王の三騎士の最後の一体たるエクスペリオには、他のモンスターにはない稀有な探究心がある。経験値という未知なる物質の研究に傾倒するエクスペリオでなければ、記憶武装という奇跡のアイテムは生み出せなかっただろう。
しかし、記憶武装の変化はまだ続いている。球状から長く無骨に姿を変えていき、重量も増加した。
未知なる技術。
大量消費社会でのみ製造可能な造形。
マスプロダクションに適した黒いボディと内部のスプリングと、ベルト式給弾装置。
エクスペリオがいくら研究熱心とはいえ畑違いにも程があるだろうに、異世界の技術の結晶たるブローニングM2重機関銃が生成された。
どういう構造かも分からない未知なる物だからこそ、エクスペリオは新しい玩具を扱うように重機関銃の銃身を撫でる。
「人類圏侵攻を前に良い物が得られました。これを量産できれば、魔王連合内での『ダンジョン』様の発言力は更に高まるでしょう」