第508話 死神になる前に無人島でバカンス!?
メサイアの提案は悪くない。
しかし、一歩でも花の都ネオフリージアを出れば、魔人サリエリに狙われる可能性が。
……非常に悩ましいところだが、気分転換は必要だと俺は結論に至った。
みんなにも聞いてみるか。
「フォルはどうだ?」
「海でも山でも川でも地獄でもついていきますっ」
早口でいいながら俺に抱きついてくるフォル。聞くまでもなかった。
そのまま視線をリースに向ける。
「あ、あたしも遊びたいです! で、でもぉ……」
「どうした?」
「海なら水着ですよね」
「そうなるな」
「最近、胸がきつくて……」
――つまり、アレか。リースの胸はまだまだ成長期にある――と。
とんでもねぇ情報を得た。
エルフ族にしては成長が著しいな!
普段のスケスケ民族衣装でも十分に分かるけどね。
となると、あとはステ・スキル振りしまくっているベルだ。
「おい、ベル。作業は終わったか?」
「あ、うん。今丁度終わったよ。かなり変わった」
妙にドヤ顔のベル。コイツの表情が少しでも変化するとなると、マジらしいな。てか、やっと終わったのかよ。数日は要したような気がする。
だが、これでベルも戦力になった。新しくなった彼女の力を見せてもらわねばな。
「そうか。メサイアがバカンスを希望しているが、どうだ?」
「いいんじゃない。わたしは――ホラ、いつでも準備できてるし」
ビキニアーマーだからと言いたいらしい。その装備のまま海へ入るつもりなのか……溺れるだろ。
「というわけだ、ミクトラン」
「こんな時に遊びに行くとは……」
大げさに呆れるミクトラン。当然の反応だろうな――と思ったが、言葉を続けてこう言いやがった。
「私もぜひ同行したいッ!」
お前もかよっ!
「王様も同行かよ」
「たまにはいいではありませんか! 娘と遊びたいんです!」
わがままな王様だなっ!
だが……まてよ。
ミクトランを同行させれば、最強の結界スキル『ミレニアム』で守ってくれるよな。なら、あの魔人でも近寄れない――というわけだ。
いいね!
「分かったよ。海はいつもの海底洞窟ダンジョン付近でいいか?」
と、俺が提案するとメサイアは光の速さで否定した。
「却下。却下よ、サトル!」
「なんでだよ」
「海底洞窟ダンジョンのバテンカイトスの辺りでしょ。あそこ、もう行き飽きたわ! 変なタコとかイカもいるし」
そういえば、邪悪なレイドモンスターに襲われたことが何度かあったな。
危険なボスが棲息しているという意味では正しい。
また触手で絡まれたりしたら大変だ。絵的な意味でもな! ……俺は嬉しいんだが。
「どこの海なら行きたいんだ?」
「ナーストレンドの付近に無人島があるの。そこにしましょ!」
「なーすとれんどぉ? どこかで聞いた覚えがあるな」
ほんの一瞬だが、誰かが言っていたような……誰だっけ。
つーか、どこだよ、そこ!
「ほら、世界地図をよく見なさいよ」
懐から地図を取り出すメサイアは、テーブルに広げた。そんなモン持っていたのかよ。
地図にはいくつかの大陸と国々が記載されていた。
世界とはこんな広かったのか。知らなかったぜ。
「姉様のおっしゃっている無人島はここですね」
そこを指さすフォル。
我がパラドックス大陸とネーブル大陸の間にある無人島。ここか
付近には、最近まで滞在していた『神聖国ネポムセイノ』があった。こんな近くなのか。結構危うい場所だな。
とはいえ、無人島。問題なかろう。
「誰か座標とか持ってるのか?」
ミクトラン以外、首を横に振った。こりゃ、船が必要だな――って、王様!
「私が転移してさしあげましょう」
「さすが元神様。座標をもっていたか」
「もちろんです。大陸間にある無人島は、かつてフォーチュンの為に差し上げた島なのですよ」
「あのフォーチュンの!?」
「ええ。ですが、ほとんど使うことなく放置していたようですけどね」
フォルを見つめるミクトラン。そんなフォルはオロオロしていた。……フォーチュンは気まぐれだ。たまに表に出てくるが、ほとんどフォルの魂の中。最近は顔を出さないな。
「じゃあ、ミクトラン。無人島への転移をお願い」
「ええ、メサイア。あなたと話したいこともありますからね」
「……私はないわよ」
いちいち素っ気ないが、珍しく会話が成立しているような気がする。少しは打ち解けてきたか?
「では、みなさん。このまま転移します」
「え」
◆
――気づけば、コタツおよび畳セットごと転移していた。
マジかよ!!
周辺は浜辺になっていたし、透明度抜群の海が。波の音が心地よすぎる。
「ひゃっほー!!」
すでに黒ビキニのメサイアは、浜辺を掛けていた。早ぇよ!!
こんなあっさり無人島に到着するとはな。
まあいいか、これはメサイアが望んだことだ。
死神になってもらう為だからな!