米国は日本に何を求めているのか?
では、米国が自国の安全保障上、戦略物質のネオジム磁石とそのサプライチェーンの「脱中国」を進めるなかで、日本がなぜ注目されるのだろう。
日本には半導体部品に使われるファインセラミックスなど、「やきもの」に強い会社が多い。そうしたハイテク企業を訪れて強く感じるのは、それが伝統工芸の「巧の技」に通じる熟練工の職人芸の世界であることだ。競合企業が設備やマニュアルを手にしても、なかなか同じように歩留まりを上げることはできない。
ネオジム磁石も、金属粉末を型に入れて圧縮し、高温で焼き固める焼結磁石という「やきもの」だ。ナノ単位で磁石の結晶粒一つ一つの大きさや密度、その配置や方向までコントロールするために圧力を加えたり、熱処理を行ったりする生産工程には、「巧」の知見がモノを言う。
米国にもMPマテリアルズなどネオジム磁石の企業はあるが、ハイグレード分野の技術力では日本にかなわない。そこで米国は日本の技術や生産能力に非常に強い感心を持っていると言うわけだ。
では具体的に米国は日本に何を求めているのだろう。もちろん交渉の中身は明らかではないが、米国が、高度な技術を持つ日本のネオジム磁石関連メーカーによる米国での現地生産や、米企業との合弁事業の促進、研究開発の共有などを望んでいると考えることは合理的だ。
特に注目されるのは「脱レアアース」技術だ。
ネオジム磁石では、プロテリアル以外にも、信越化学、TDK、大同特殊鋼などの日本企業が技術IPを持っている。信越化学は2000年代に日立金属とクロスライセンスを結んでいるが、ジスプロシウムやテルビウムを磁石表面から拡散させ、使用量を減らす技術を持つ。
TDKも「ボンド磁石」と呼ばれる樹脂と磁性粉末の混合体を作ることにかけては実績があり、ジスプロシウムやテルビウムを使わなくても耐熱性のあるネオジム磁石を作る技術を開発している。
さらには、ネオジム磁石そのものを代替する技術として、プロテリアルの「高性能フェライト磁石」、デンソーの「鉄ニッケル超格子磁石」など、レアアースを使わない次世代磁石の素材開発に多くの企業がしのぎを削っている。