米国の高関税に、中国がレアアースとネオジム磁石で報復
さて、今の米中関税戦争と日米交渉の中で、そのネオジム磁石がひときわ注目されている。
今年4月2日に、米国が中国に対する相互関税率84%、それまでに発動されていた追加関税と合わせて中国輸入品に対する関税を140%にまで引き上げるというえぐい内容を発表した直後、中国が対抗して切ったカードがレアアースだった。4月4日、中国はレアアース17種類のうち、7品目を対象に輸出規制を発動した。
このリストにはネオジムは含まれなかったのだが、補助剤として使われるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)が対象となった。関連企業サイトによると、ジスプロシウムでも2~10%、テルビウムは0.1~数%とわずかに添加されるだけだが、200度の高温でも安定して磁性を保つためには欠かせない。そのテルビウムやジスプロジウムの世界生産のほぼ全量が中国なのだ。
米国はレアアース調達の7割以上を中国に頼っている。トランプ政権は半導体を戦略物資として、その最先端のサプライチェーンから中国企業を外したが(関連記事:「米中半導体戦争」のカギを握る台湾TSMC、その「したたかな戦略」と日本への影響)、中国優位のレアアースという別の戦略物資でカウンターパンチを喰らった格好だ。
特にネオジム磁石の将来の調達が懸念される理由が、電気自動車(EV)の拡大だ。
複数の産業レポートによれば、EV駆動モーター一基あたりに、高性能ネオジム磁石が300グラムから600グラムは必要だと言われる。昨年の世界のEV販売台数は約1700万台(うち中国が6割)だったから、掛け算すればEVモーターだけでもネオジム磁石が5000トンから1万トン程度使われたことになる。
今年の世界のEV販売台数は2000万台、2035年頃には5000万台になると推定されているから、その時にはEVモーターで1.5から3万トンのネオジム磁石が必要という計算になる。現在20万トン強の総生産量も今後増えるだろうが、需給がひっ迫することは十分に予想できる。中国が原材料から最終製品まで囲い込んでいるため、米国など西側諸国から見たら、サプライチェーンの地政学リスクは非常に高い。
ちなみに「レアアース (希土類)」の誤解は、ジスプロシウムやテルビウムを除けば、埋蔵量が必ずしも「希少」ではないこと。セリウムは、銅より埋蔵量が多いらしい。でも大きな鉱脈として一か所に集まっているわけではなく、他の鉱物に混じって分散して存在するので、精製に多くの工程が必要になる。先進国では採算が合わなかったのだ。
また、精製過程で強酸や有害な廃液が発生する。電気自動車は環境にやさしいはずだが、その原料となるレアアース生産は、環境への負担がとても大きい。
尖閣問題で中国依存の危うさが浮き彫りになってからは、カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山の操業が再開されたり、オーストラリアのライナス社が生産を拡大しているが、西側サプライチェーンはまだ中国から抜け出せずにいる。