ダイソーで買える日本発の「小さな磁石」が「米中貿易戦争」の大きなカギを握っていた!いま日本に求められる役割

米中貿易戦争が激化する中、日本発の「ネオジム磁石」に注目が集まっている。米国の高関税に対し中国はレアアース輸出規制で反撃。EVや工業用ロボットにも使われるネオジム磁石のサプライチェーンの「脱中国化」を進める米国が、日本に求める役割とは何か。100円ショップでも買える小さな磁石が秘める経済的インパクトを、『マネーの代理人たち』の著者で、経済ジャーナリストの小出・フィッシャー・美奈氏が解説する。

「世界最強の永久磁石」ネオジム磁石は日本発

筆者が投資会社で働いていた時のひとつの楽しみは、小さな日本企業でも世界でここしか作れないという製品を持ち、その分野で世界をリードするグローバルニッチ企業に出会うことだった。2000年代にそんな企業の1つ、ネオマックス(NEOMAX)と言う上場企業を取材したことがある。時価総額300億円程度の小ぶりな会社だったが、「ネオジム磁石」で当時、4割近い世界シェアを誇っていた。

ネオジム磁石は身近なところでは、ダイソーやセリアなどの100円ショップでホビーや収納用に売られている中国製のものがある。小さな粒のような磁石でも、バチッと強力に冷蔵庫の壁面などに引っ付く。一方、間違って飲み込んだりしたら、大変。子供の誤飲事故が相次いで玩具のマグネットセット販売が停止されたが、強力な磁石同士が腸壁をはさんでしまい、手術が必要になった事例もあるそうだ。

ハイエンドでは、電気自動車(EV)や工業用ロボット、航空宇宙・軍事まで広範囲に使われる。

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モーターに使われる磁石は、磁力が強いほど同じ電流でもより大きな力がトルクにかかって回転力が高まる。EVの駆動モーターはじめ、エネルギー効率の高さや小型軽量・高出力が求められる分野では、ネオジム磁石は不可欠だ。

ネオジム磁石は、1982年に住友特殊金属に在籍していた佐川眞人博士が、ネオジムと鉄とホウ素を組み合わせて非常に強力な磁石を作ることを発明したもので、日本発の技術だ。2004年に住友特殊金属の磁石材料部門と住友電工、住友金属の関連部門を統合して株式を上場したのがネオマックスだった。

ところが、その後ネオジム磁石をめぐる環境は激変。ネオマックスの磁石事業も様々な変遷をたどることになる。

その背景にあったのが中国の台頭。中国は磁石の原料になるネオジムなどのレアアース(17種類の希少な元素を指す)の生産で、今も世界生産の約7割を占めて圧倒的だ。中国はこの資源を武器に、2000年代後半から国策としてネオジム磁石メーカーを後押しし、それらの中国企業はダンピングと非難されるほど価格を下げて世界シェアを急拡大した。

今では完成品のネオジム磁石は、金力永磁(JLマグ)などの中国企業が世界シェアの8割以上を占める。

2010年には、尖閣諸島問題をめぐって中国がレアアースの輸出を突如として大幅カットしたため、供給危機が起きた。価格は数倍に高騰し、調達難に陥った関連メーカーが生産縮小を余儀なくされるなど、ネオジム磁石やレアアース関連事業は、地政学的リスクに振り回された。

そうした中、ネオマックスは2007年に親会社の日立金属による株式公開買い付け(TOB)によって完全子会社化になり、上場廃止。会社も日立金属の磁石材料部門に吸収されて、消滅してしまった。2022年には、その日立金属が日立グループの構造改革の一環で売却されて投資ファンドの傘下に移行。現在は「プロテリアル株式会社」と社名変更している。

でも、どっこい。会社は消えても、NEOMAX(ネオマックス)という名前は、今でも製品ブランド名として残り、世界中で活躍している。

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