海水浴場での“タトゥー・入れ墨露出”禁止…「自由を制約している」ものの「憲法規範に逸脱」しない理由とは?【弁護士が解説】
配信
今年も梅雨が明け始め、夏の海水浴シーズンが到来。各地で海開きが行われている。 一部自治体の海水浴場では飲酒やたき火、BBQなどが禁止されているところ。なかには、海水浴場でのタトゥー・入れ墨露出を禁止するルールや条例を定めているところもあるが…。 逗子市では6月27日に海開きが行われた
逗子市など、条例やルールでタトゥーの露出を制限
たとえば、神奈川県逗子市では「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例」第5条2項3号で「入れ墨その他これに類する外観を有するものを公然と公衆の目に触れさせることによって、他の者に不安を覚えさせ、他の者を畏怖(いふ)させ、他の者を困惑させ、又は他の者に嫌悪を覚えさせることにより、当該他の者の逗子海岸の利用を妨げること」を禁止。 同市の「逗子海水浴場事業者・利用者ルール」でも「逗子海岸での他者を畏怖させる入れ墨・タトゥーの露出を禁止とする」と明記している。 また、神奈川県鎌倉市や藤沢市などでも同様の「入れ墨・タトゥー」の規制が条例やルールによって設けられている。
銭湯や温泉などの場合は…
こうした海水浴場と同様に入れ墨・タトゥーが禁止されている場所としては、銭湯や温泉などが想起されるだろう。 しかし、銭湯におけるタトゥー規制について、政府は2017年の答弁書で、入れ墨やタトゥーを理由とした入浴拒否について「困難」との見解を明記。公衆浴場法では直接的に「入れ墨・タトゥー」のある人の入浴を禁止していない。 また、温泉やスーパー銭湯、宿泊施設の浴場等は公衆浴場法の範囲外だが、観光庁は2018年、外国人観光客を念頭に「入れ墨をしていることのみをもって、入浴を拒否することは適切ではございません」と各業界団体に対して通知している。
「表現の自由や自己決定権を制約していることにはなるが…」
こうした現状を踏まえ、行政が入れ墨やタトゥーを「他者を畏怖させる」もの等と評価し、「露出の禁止」を条例に組み込むことは正当といえるのだろうか。 行政による規制や自由権の問題に詳しい杉山大介弁護士は、逗子市の条例をもとに、次のように述べた。 「まず、条例5条2項3号は、『入れ墨』について『公衆の目に触れさせて不安を覚えさせたり畏怖させたりすること』と、不安や畏怖といった効果までも満たされて、初めて違反になる条項になっています。 この定め方は、『たき火』(同条項1号)や『飲酒』(同2号)について行為そのものを禁止しているのと異なり、限定を加えるものです。 つまり、『入れ墨』は『どれも他者を畏怖させるからダメ』とするのではなく、『他者を畏怖させるような入れ墨はダメ』という作りです。同市の『利用者ルール』でも、同様の理解から、『他者を畏怖させる入れ墨タトゥー』という限定文言が入っているのではないでしょうか」 では、そもそも条例や自治体のルールとして、海水浴場での入れ墨やタトゥーの露出を制限することは、何らかの人権の侵害にならないのだろうか。 「こうした条例やルールは、表現の自由や自己決定権といった自由を制約していることになります。 ただし、自由権の侵害はそこら中に存在します。 その制約が、過剰である、目的との関係でバランスを欠く、などといった不当性の理屈まで伴って初めて、人権侵害の問題として議論するに足ることになります」(杉山弁護士)
- 3
- 11
- 4