UFOはいなかった。「エリア51=宇宙人研究所」は米国防総省が流したウソ…機密文書が明かす情報戦の内幕
航空宇宙企業ロッキード(現ロッキード・マーティン)は、現地での労働者を募集する際、殺風景な砂漠地帯をどうにか魅力的に見せようと、「パラダイス・ランチ」のニックネームで呼んだ。存在自体が隠蔽された施設だったが、情報公開法に基づく請求を受けたCIAが2013年になってようやく、U-2計画に関連する文書の中でエリア51の存在を公式に認めた。 ■敵を欺くにはまず味方から…騙され続けた空軍関係者 それ以降も風説の流布は続いた。巧妙だったのは、「敵を欺くにはまず味方から」を地で行ったことだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の調査では、空軍内部で数十年にわたって行われた「通過儀礼」の存在が明らかになっている。空軍の最高機密計画に新たに着任した新任の指揮官たちは、就任後の説明会の一環として、奇妙な写真を見せられていたという。 彼らの前に置かれたのは、空飛ぶ円盤のような物体が写った一枚の紙だ。まるで宇宙人の技術をコピーしたかのような「反重力操縦車両」だと説明され、その技術を解析・再現する極秘プロジェクト「ヤンキーブルー(Yankee Blue)」に、彼ら新任指揮官らが抜擢されたのだと告げられた。秘密保持契約に署名させられた上、「プロジェクトを決して口外するな」ともっともらしい脅しまで加えられた。 ある元空軍将校は数十年前に受けたヤンキーブルー計画の説明を思い出しながら、目に見えて怯えた様子でAAROの調査チームに語ったという。「仮に秘密を漏らせば、投獄または処刑される可能性があると警告されました」。同じような証言は他の複数の男性からも寄せられ、彼らは配偶者にさえ決して話さなかったという。 多くの者にとって、それが壮大な嘘だったと知ったのは、数十年後の2023年になってからだった。米国防長官室が2023年春、全軍に向け、この慣行を中止するよう指示を出している。軍司令官すら騙す壮大な嘘が、エリア51宇宙人研究所説に信憑性を与えていった。 ■ロズウェル事件の正体 エリア51神話の原点ともいえるのが、1947年のロズウェル事件だ。 農場主のウィリアム・ブラゼル氏がニューメキシコ州の自分の土地で、奇妙な残骸を発見したことから始まった。金属棒、プラスチック片、銀色の紙くずが散乱していたのを見つけた彼は保安官に連絡した。すぐに軍が装甲車で現場に駆けつけ、跡形もなくすべてを回収していった。 この一件は瞬く間に全米の注目を集めた。政府がエイリアンと宇宙船を隠し、その技術を解析して恒星間航行や強力なエネルギー兵器を開発しようとしているという説が広まった。 真相が明かされるまでに、実におよそ半世紀を要した。米ワシントン・ポスト紙は2017年、空軍が公表した231ページに及ぶ報告書を取りあげている。報告書によれば、それはソ連の核実験を探知するための高高度気球の残骸だったという。 別の分析結果としては、ニューメキシコ上空で分解した核爆撃機の破片だった可能性も指摘されている。ロズウェルが1945年に広島と長崎を爆撃した第509混成部隊の本拠地だったことを考えれば、この説にも説得力がある、と同紙はみる。