新興勢力「参政党」国政政党目指す戦い 初の議席獲得
「1,2,さんせいとう―!」
季節外れの猛暑日が続いた夏空に響き渡るその声が、日に日に大きくなっていく。
18日間に及んだ今回の参議院選挙。各党がしのぎを削る中、選挙戦に入って一気に注目を集めた存在があった。
その名は「参政党」。
参議院選挙が公示された6月下旬頃から急激に勢いを増し、議席の獲得も視野に入れた新興勢力の選挙戦を追った。
(桜田拓弥)
投票したい政党がないのなら
選挙戦も終盤にさしかかった7月7日。
さいたま市のJR大宮駅前に、こんがりと日焼けした1人の男が降り立った。
神谷宗幣、44歳。
2年前にできたばかりの参政党で事務局長を務めながら、今回、比例代表で立候補した。
(神谷)
「投票したい政党がないから、自分たちでゼロから作りました」
この政治団体を立ち上げた張本人だ。
街宣車の上に姿を現すと、平日の昼間にもかかわらず、あたりを埋め尽くした数百人規模の聴衆から拍手や歓声が湧き上がる。目の前に広がった聴衆を前に、神谷はとうとうと語り始めた。
(神谷)
「明治以来の管理教育を続けて、子どもたちを型にはめようとするから、学校に行けない子がいる。人間を評価するのはテストの点数。偏差値が高い人が立派だと我々は言われてきた。でも偏差値の高い人たちが考えた政策でこの30年、日本は良くなりましたか?」
「今の日本がどういう状況にあるのかっていうことを過去の歴史から勉強して、認識すること。その上でこれからの日本の課題をどう解決するのかを考えていくこと。そしてその解決のために自分が持っている力や才能をどう生かして、社会に役立てるのか。そういったことを考えさせるのが日本人の義務教育でやることなんですよ!」
参政党は、学力よりも考える力を養い、国や地域の伝統を大事にする「教育改革」、農薬などを使わない農業を推進する「食の安全」、そして外国人の日本への投資を規制するなどの「国まもり」の3つを今回の重点政策として掲げていた。
演説はさらに続く。
「コロナになってから2年間、いまだにマスクを外せない人たちがいる。ワクチン接種もマスクも強制ではありません。だからマスクをつける自由もあればつけない自由もある。ワクチンだって、打ちたくなければ打たない自由だってあるはずなんです」
これまで足を運んだ東京・上野や池袋の演説会場でも、今、ここで演説を聞いている人たちも、その多くはマスクをしていない。特に、日本の歴史や伝統を「代々」受け継いでいくという思いを「だいだい」色で現したTシャツを身につけている運営スタッフたちはみな、ノーマスクだった。マスクをするもしないも自由。党の訴えをそのまま体現していた。
1時間以上にも及ぶ演説。しかし、途中で去って行く人の姿は見られない。一言一句に耳を傾ける聴衆に、神谷はこう熱弁を振るった。
「ここに集まってくれた皆さんは、社会を変えるために集まってくれたんですよね。もう誰がやっても一緒だとか、どうせ変わらないとかいう言い訳はもう今回の選挙では通用しません。なぜなら私たちが参政党を作ったからです。これからの日本、今のままでいいという人は自公政権に、嫌だという人は野党に、そして新しい仕組み、自分たちで参加したいという人は、参政党に入れて下さい!」
「ボトムアップ」の政治を目指して
70分間、水も飲まずに語り続け、演説を終えて街宣車から降りて来た神谷の元を訪ねると、かすれた声で、充実感をにじませた。
(神谷)
「ここまでになるとは正直、全然想像してなかったですね」
神谷は、15年前、29歳で大阪府の吹田市議会議員となり、2期務めた。議員活動のかたわら、地方議員などを集めた保守系の政治運動を開始し、このころから政治家や政治家を志す人たちのネットワーク作りに携わる。自身は2012年の衆議院選挙に自民党から立候補し落選。その後、無所属で大阪府議会議員選挙にも挑戦したがこれも落選している。この間、政治や歴史などについて語る動画を配信する会社を立ち上げて今に至る。
参政党は2020年4月に産声をあげた。3人の共同代表のもと、神谷は事務局長を務め、党の顔の1人となっている。立ち上げの段階で、神谷が運営する動画配信番組の視聴者など、3000人が党員として参加したという。
一部の幹部による上意下達ではなく、党員ひとりひとりがみずから判断する「ボトムアップ」の意思決定という理念を掲げ、2022年の参議院選挙で「選挙区5人、比例代表5人」の擁立と、議席獲得を目標に、党勢拡大を目指した。しかし、その後、思うようには進まなかった。
去年10月の衆議院選挙への挑戦も検討したが、支持の広がりに確信が持てず見送った。当初からの方針通り、参議院選挙に狙いを定め、都内に党本部を設けた去年12月からは、選挙資金に充てるための寄付も集め始めた。選挙までの半年間で党員3万人、寄付額3億円を目標にかかげたが、神谷は「見切り発車の状態だった」と振り返る。
(神谷)
「資金力のある有力者や企業がスポンサーになってくれれば、資金面では楽になる。でもそれだと、影響力まで持ってしまう。僕らはあくまで、ひとりひとりが考えて出した答えを大事する組織を目指したい。だから完全に寄付だけで選挙戦を戦うことにしたんです」
拡散のきっかけはYouTube
潮目が変わったのはことし4月に入ってからだったという。鍵になったのは“YouTube”だったと、神谷や複数のスタッフが口をそろえる。
(初期メンバー)
「2月末から、週に3日、月水金と、比例代表に出る5人の候補者が、入れ替わり立ち替わり、東京の新橋駅前で辻立ちを行っていたんだよ。定点で繰り返し実施することで認知度を高めたいという狙いだった。そしたら街頭演説を撮りに来るのが好きなそこそこのチャンネル登録者を抱えるYouTuberたちが集まり始めて、一気にネット上で拡散していったんだ」
最初に公認となった比例代表の立候補者5人は、多様な顔ぶれだ。民放のバラエティー番組にも出演し、全国的な知名度もある武田邦彦、旧大蔵省出身で日本維新の会の衆議院議員だった松田学、歯科医師ながら作家やYouTuberとしても活動する吉野敏明、数寄屋橋の辻説法でも知られた大日本愛国党の赤尾敏の姪である赤尾由美。松田、吉野、赤尾はいずれも共同代表を務めている。男4人女1人という組み合わせから「ゴレンジャー」との愛称も生まれた。
今回の選挙期間中も、街頭演説の場には、必ず最前列にスマホなどをセットしたYouTuberたちが演説の様子をライブ中継していた。そのうちの1人に声をかけると、こんな話をしてくれた。
「参政党の演説を動画にしてアップするだけで何万回も再生回数が回るんだよ。それで自分のアカウントのチャンネル登録者数も増える。こっちが好きにやらせてもらっているだけだけど、まぁウィンウィンの関係だな」
半年前、1万人にも満たなかった党員・サポーターの数は、参院選の公示日前には3万人、寄付額も、目標としていた3億円を超えた。選挙期間中、実際に街頭演説の場に足を運んだ人の多くが、YouTubeやTwitterなどのSNSで参政党を知った人たちだった。
一体何に惹かれたのか。
(茨城県・30代女性)
「YouTubeでたまたま目に止まって興味本位で見てみたら、こんなに真剣に世の中を考えてくれている人がいたんだって。気がついたら1時間も見続けていて、1回直接演説見てみたいと思ってきました」
(東京都・20代男性)
「友達から、1回でいいからYouTube見てみてって言われて。政治ってよく分からないからいいやと思っていたけど、自分から知る努力をしなきゃいけないんだって思って、今回初めて投票に行くことにしました」
神谷自身の分析はこうだ。
「僕たちが訴えているのはひと言で言うと『お任せ民主主義からの脱却』です。既存政党が有権者に甘い言葉を投げかけるのに対して、僕らは今の日本をダメにしてきたのはあなたたちですと、有権者に厳しい言葉をぶつけるんです。今までそんな政党や政治団体ってなかったと思うので、なんか今の現状に不満や違和感を感じている人たちに、訴えが刺さっているのかもしれません」
知名度がない故に
街頭演説の戦略も練った。1か所の滞在時間を数分程度にして、多くの地域を回る「スポット演説」ではなく、毎回1時間から1時間半、人の集まる大きな駅前などで、時間も昼時や夕方の帰宅ラッシュにあわせて行うことにした。政党と比べて、一般的な知名度が低いが故の戦略で、まずは多くの人の目にとまるよう場所や時間を意図的に選んでいたという。
ネットでの拡散や利便性のよい立地で長時間行われる演説には、自然と人が集まり、演説が終わると、茶封筒を握りしめた聴衆が何重にも、寄付のために列をなしていた。まだ小さい子供を連れた家族連れや、母と娘の女性2人組、制服姿の高校生、金髪でメイクもネイルもバッチリ決まった女性など、これまでの選挙取材であまり見たことのない人たちも多く目にとまった。
(茨城県・30代女性)
「1度も選挙に行ったこともないし、政治にすら興味はなかった。でも、日本をなんとかしたいという思いが演説からあふれ出ていて、自分も何かできないかと思った」
(千葉県・40代男性)
「これまではしょうがないから自民党に入れていたけど、なんとなくモヤモヤしたものがあった。参政党の演説は、ストレートにダメなものはダメだという。とても分かりやすい」
有権者の判断は
だが、中にはこんな声もあった。
(東京都・50代女性)
「夫に話しても全然理解してくれないどころか、変な宗教にでもはまっているんじゃないかって言われて。きょうはたまたま夫が出張でいなかったので内緒で来ました」
18日間にわたる選挙戦を戦い抜いた参政党。比例代表で神谷が初めての議席を獲得した。
結果を受けて、神谷は「いろいろなことを3人くらいで前に進めたいと、強い思いで訴えてきたがかなわなかった。その重責をきょうから1人で担っていくのは重たいが、約束したことをしっかり形にしていきたい。160万票もいただいたことは大きな期待を受けたと実感している。重点政策で『教育』『食と健康』『国のまもり』の3つを訴えてきたので、しっかりと継続していきたい」と述べた。
(文中敬称略)
- 政治部記者
- 桜田 拓弥
- 2012年入局。衆議院などの取材を担当。