弱者男性は非モテの問題だと言ったのは弱者男性攻撃者であった
概要
「弱者男性」問題は、非モテ問題であるという指摘があった。それに対して、弱者男性問題は福祉や社会から顧みられない男性の問題であるという反論があった。その話の一環で、Twitterで過去の弱者男性の語られ方を調査したら良いのではないか?という指摘があった。もっともな指摘だと思い、2018年に弱者男性について言及したTweetをサンプリングし、953件を調査した。
調査した結果弱者問題を非モテの問題にしているのは主に弱者男性を侮蔑する攻撃者の方であった。
調査結果をまとめると 弱者男性に言及した953件のツイートの内、弱者男性を侮蔑したツイート(276件 28%)の内、非モテと馬鹿にしたツイートは105件(侮蔑の38%)、一方それ以外のツイートで弱者男性と性愛を絡めたものは6件(評論内の0.8%)であった。弱者男性は非モテの問題であると主張しているのはもっぱら弱者男性攻撃者の方であった。弱者男性自身が自分の問題が非モテの問題だと言っているのではなく攻撃者たちがお前らは非モテだと言っていた。興味深いことに攻撃者が概念のフレームワークを決めている。
弱者男性問題の定義を巡る問題
きっかけは、小山氏の下記の投稿に対して、文芸評論家の藤田氏が反論したことから始まる。
これに対して、藤田氏が以下のように反論した。
その話の流れで、藤田氏は以下のように投稿した。
https://x.com/naoya_fujita/status/1931155823675465877
そのスレッドで次にように主張している。
「弱者男性」という言葉がどういうニュアンスで使われてきたのかは、Xで検索して、どんな単語と共起しているのかなどを統計的に解析すれば、いつの時点でどういう使われ方が増えたり変わったりしたのかはすぐわかるんじゃないかな。面倒臭いのでやらないですが……
上記の藤田氏のアイディア(「弱者男性」という言葉がどういうニュアンスで使われてきたを調べよ)は良いアイディアだと思い、過去の弱者男性に対する言及はどうであったかを調べた。
2018年弱者男性はどのように言及されていたか
かってTwitterではTweetの1%サンプリングデータを取得できた
現在は不可能であるが、Twitter社は2022年まで、投稿された全ツイートの1%サンプリングデータをAPI経由で公開していた(しかも無料)。Twitter sampled stream と呼ばれていた。個人的にそのデータを取得し、データウェアハウスに格納していた。2018年-2022年までデータを持っている。これらはリアルタイムデータのため後日消されたり凍結されたアカウントのデータも見ることができる。
今回は初期の弱者男性への言及を調査したかったので手持ちのデータの2018年の弱者男性言及ツイートを対象にした。最初は弱者男性と非モテの関係を調査しようと思ったが、調査ツイートを読んでみると、冷静に評論されているというよりは攻撃されていた。そのため、弱者男性と非モテではなく弱者男性と弱者男性攻撃者と非モテの関係を調べた。
その結果概要で述べたように、弱者男性に言及した953件のツイートの内弱者男性を侮蔑したツイート(276件 28%)。そのうち非モテと馬鹿にしたツイートは105件(侮蔑の38%)、一方それ以外のツイートで弱者男性と性愛を絡めたものは6件(評論内の0.8%)であった。円グラフを再掲する。
侮蔑と評論の分類、侮蔑の非モテやそれ以外の分類はこちらの鳥海不二夫氏の手法(「根性マイニング」)を採用した。
根性マイニングとは、「すべて人の目で見て判断を行う」という根性が必要だけど精度が高く精神が削られると評判のデータ分析手法である。
弱者男性への侮蔑を読み続けるのは精神を削られた。有料部分にどのtweetが侮蔑に当たるかのtweet_idとともに記載したGoogle Sheetを掲載している(透明性確保と再検証を誰かが行う際に必要なので)。
以下ではどのように攻撃されたか実例を見てみよう。
攻撃ツイートの例
弱者男性を侮蔑するツイートは、953件中256件見つかった。そのうち非モテや性愛に関わるツイートは、105件あった。それらは以下のようなものであった。
#弱者男性 問題を見てても、男の最終目的は、“とにかく女をゲットすること!モテること!ヤれること!エロ!”という性的なことばかり。一方、女性側は最終目的は男をゲットすることではなく、『既婚だろうが独身だろうが、差別や迫害を受けない… https://t.co/MsdEGGdwkJ
安倍政権もネトウヨも、自称弱者男性も反フェミとか言い出す輩も、表現の自由を掲げながらも自分のズリネタにしか興味ない馬鹿も、そして「いじめられるのは嫌だけど、女いじめはしたい」とネットで性加害ぶりまくオタク層も、「糞ホモソ男権主義社… https://t.co/UtKoZEGkkO
ネットにいる自称非モテ弱者男性の方々は自分がモテないことを本来得られるはずの「女性を得る権利」を貰えない弱者と捉え、「俺たちは被害者ダー!男性も差別に合っているんダー!」と吹きあがるわけですが、それならモテない女性も「女性差別だー!」と言えるわけで、結局男性差別なんてものは無い。
弱者男性の位置に置いてる男ども普通に女に暴力暴言振るってくるし女を下に見てるぞ。
まあとにかく女性が社会進出するから結婚できないとイチャモン言いたいだけなのはわかった。 https://t.co/tw5v0maSsb
私は、弱者男性とかキモカネとかに関しては、「金がない」は労働や福祉の問題だけど、「女があてがわれない」に関しては、依存性の問題だと思う。彼らはある種の恋愛依存症であり、社会が彼らに対して何かをするとすれば、女をあてがうのではなく、依存症治療というかメンタルヘルスだろうね。
昔、同様のツイートをしたけれど、敢えてもう一度。
キモカネ弱者男性を自称する向きは民主主義的価値観を敵視し、極右に迎合して、「女をあてがえ」とかよく主張してるけれど、極右が君らに分け前を渡すと思うの?
少しは冷静になれよ。
などの例だ。
攻撃者のツイートには以下の特徴がある。
1,人格攻撃が多い
2,弱者男性は非モテだと言いながら、当の弱者男性が自分たちの問題は非モテだと言っているという証拠を出さない。
女をあてがえと主張していると言いながらそう言っているスクリーンショットは出さない。
証拠を出さず彼らはこう思っているのだろうという主張は、小山氏のこのnote キャンセルカルチャーの本質は事実の歪曲と情報操作で主張した内容と近い。小山氏は上記のノートで以下のように書く、
「事実」ではなく「イメージ」を元にターゲットを攻撃する。それがキャンセルカルチャーの基本構造なのだろう。
だからこそキャンセルカルチャーの賛同者たちは「事実」を曖昧にし「イメージ」を膨らませることに注力する。
この構造は、キャンセルカルチャーだけでなく弱者男性を巡る議論でも行われる。弱者男性攻撃者が当の弱者男性の主張を証拠としてスクリーンショットを貼ったりせず完全なイメージで語っているのと同様である。
一方弱者男性はどう言っていたか?
上記で見た通り弱者男性攻撃者はイメージで弱者男性を攻撃していた。
一方弱者男性の側に立つ人たちは以下のような話をしていた。
反貧困の現場でみた、40過ぎであろう、無職で、知的にも厳しそうな人の言おうとしていることを、その場の誰も受け止めようとしないことに腹をたてたというのが、そもそもの始まりです。0.1%の弱者男性といったやつです
田比岡(一柳良悟)氏の指摘はとても示唆に富んでいる。この指摘の重要な部分は、「40過ぎであろう、無職で、知的にも厳しそうな人」の言おうとしていることを、その場の誰も受け止めようとしないことの部分にあるのではないか?つまり、単に貧困や無職の問題ではなく(誰も自分の言葉に耳を傾けないという)尊厳の欠落の部分になるのではないか?ここが共感や同情により傾聴という資源を得られやすい女性とは異なる部分になっている。
他に拠り所がない社会から孤立してしまった弱者男性が、にも拘らず世間から「弱者ポジション」を得られない現象
他に拠り所がない社会から孤立してしまった弱者男性が、にも拘らず世間から「弱者ポジション」を得られない現象が事実としてある。これは、弱者男性は非モテで苦しんでいるという主張とは相容れないだろう。
上で指摘されている内容も、単に福祉の問題ではない。A 「他に拠り所がない社会から孤立してしまった弱者男性」が、B『にも拘らず世間から「弱者ポジション」を得られない現象』と2つに分けた場合、Aは福祉の問題であるがBは福祉の問題ではない。女性であれば、「弱者ボジションが得られる」しかし男性であれば得られない。のならそれは単純な福祉の問題ではなくバイアスの問題である。
野生動物保護の世界にチャリティビューティプレミアムと言う言葉がある。チャリティビューティプレミアムとは野生動物の寄付で見た目が可愛らしい生物に人気が集まりやすいという現象を表した言葉だ。見た目美しくない生物でも絶滅の危機に瀕しているなら支援すべきだ。しかし支援対象が支援の必要性の大小ではなく見た目の美しさで選ばれる。
共感や同情は社会的・政治的有限のリソースである。そしてそのリソースが割り当てられない
弱者男性論が単なる福祉と少し異なるのは、この2階の構造、A 自分たちが困窮している。 Bにもかかわらず、声を上げても誰も聴かないし、共感や同情という資源が分配されないという点にある。
弱者男性の方は性愛よりもこの不平等な扱いを問題にしてきた。
上に挙げたように弱者男性の問題は単に福祉の問題と言うよりももう少し複雑だ。
傷ついているのもかかわらず、その支援にリソースが割かれないという問題がある。
いずれにせよ、ハッキリしているのは弱者男性、より正しくは「拒絶」によって「人扱いされなかった」(人間性の剥奪をうけた)男性の傷を癒すいかなる言説も女性からは提案されていない、ということ。
その一方で「傷ついた女性を救い癒す」というムーブメントは溢れかえっているということである。
確かに問題は支援や共感や同情(いずれも有限のリソースだ)の分配が不平等であり性別によって格差がある。ということを問題にしている。
弱者男性と非モテ(性愛)と絡めて論じている人も少数いる。
弱者男性の問題は基本的に誰の問題は社会的なリソースが提供されないか?という問題であったが、少数、性愛と絡めて主張している人もいた。
例えば以下の例だ。済州島みかん氏の例だ。
フェミニストは「救済」を社会福祉、生活保障の問題だと短絡しがちだが、弱者男性論が問題視している事態は、性愛関係からの疎外が(結婚や家庭を築けないことによる)社会的な疎外に繋がる点なので、いつまでも話が平行線のままになる。
もう一つは少子化と絡めた話。
@oninome2 @99mina_jeju なんか最近マクロ的視点に欠ける気がする
弱者男性の件だって女性が上昇婚しかしないから少子化問題な訳で
https://t.co/cUuP9ws55j
いずれにしろ弱者男性自認の人が性愛さえあれば上手く行くみたいな主張をしてるわけではなさそうだ。
「弱者男性は女をあてがえ」と言っているのは攻撃者の方である。そして攻撃者の分析は不足している。
上記の小山氏と藤田氏の論争で興味深かったのは、実際には存在しているはずの弱者男性攻撃者への言及が少なかった点である。小山氏は弱者男性はモテの問題を重視していないと言い、一方で藤田氏は弱者男性の議論ではモテの問題がよく出てきたと言っている。一見矛盾しているように見えるが、以下の補助線を引くとよく分かる。
弱者男性攻撃者が弱者男性に対して奴らは女をあてがえと言っているぞという主張を見て弱者男性問題は非モテの問題であるとみなす可能性は十分ありえる。
藤田氏が「女をあてがえ」論と言っていますが、このインフルエンサーって勝部元気氏、絢辻かなた氏、宇野ゆうか氏あたりではないだろうか?
私は弱者男性は女をあてがえと言っている弱者男性攻撃者のアカウントは20名以上挙げられるが、藤田氏は弱者男性自認者で女をあてがえと言っている人を20名以上挙げられるだろうか?
藤田氏は、インフルエンサーとして小山氏を問題視しているが実際には、弱者男性攻撃者の中にもインフルエンサーは多数いる。そしてそれらの人々は学術的に取り上げられることはない(そしてマスコミが糾弾することもほぼ考えられない)。これは誰の加害は問題視されないか、誰の被害は問題視されないか?という意味である種のバイアスである。
藤田氏はいわゆるツイフェミの研究をすればよいのではないかと思っている。
弱者男性がいかにも言ってそうというスティグマ
弱者男性がそう主張していないにもかかわらず、弱者男性攻撃者が、「女をあてがえ」と主張するのは、それがまさにスティグマ(ある個人や集団に対して、社会的にネガティブなレッテルが貼られ、偏見や差別を受ける状態)を貼る行為だろう。一柳良悟氏,旧コ口吉氏の主張が取り上げられず、「女をあてがえ」論ばかりが取り上げられる。
社会からスティグマを押し付けられている人たちへのレッテル貼りは、彼らが主張していることではなく、そのように如何にも言いそうだというイメージをもとに行われる。この構造は移民排斥と同じだ。(やつらならやりそうというイメージをもとに排斥される)。
まとめ
「弱者男性」問題は、非モテ問題であるという指摘があった。
それに対して、弱者男性問題は福祉や社会から顧みられない男性の問題であるという反論があった。
この議論の一環として、「Twitterで過去の弱者男性の語られ方を調査したら良いのではないか?」という提案があった。
この指摘はもっともだと考え、2018年に弱者男性について言及したTweetをサンプリングし、953件を調査した。
調査の結果、弱者男性問題を非モテの問題として扱っていたのは、主に弱者男性を侮蔑する攻撃者側であった。
弱者男性に言及した953件のツイートのうち、侮蔑的なツイートは276件(全体の28%)だった。
そのうち「非モテ」として馬鹿にする内容のツイートは105件(侮蔑ツイートの38%)だった。
一方で、それ以外のツイートで弱者男性と性愛を絡めたものは6件(全体の0.8%)にとどまった。
弱者男性は非モテの問題であると主張していたのは、ほとんどが攻撃者側であった。
弱者男性自身が「自分たちの問題は非モテである」と述べていたわけではなく、攻撃者が「お前らは非モテだ」と言っていた。
興味深いことに攻撃者が概念のフレームワークを決めている。
補足KKO(キモくて金のないおっさん)、かわいそうランキング、インセルは調査しないのか?
藤田氏の指摘によると、KKO(キモくて金のないおっさん)やかわいそうランキングは弱者男性とは異なるとのことだったので今回は調査しなかった。違う言葉なので。また同様のインセルに関しても調査をしていない。違う言葉だし別物だと思うので。
イメージと異なる炎上の姿
上記を調査(弱者男性を非モテの問題にしているのは、弱者男性自認者ではなくむしろ攻撃者の側である)をやっていて、思い出したのは、キズナアイが炎上したいに、キズナアイへの批判ツイートはほぼ無くむしろ擁護・反論ツイートによって、炎上が演出されるという事例だ。
社会学者の(千田有紀) 氏が、キズナアイが炎上したという記事を書いた時点で、キズナアイへの批判ツイートは、11件、批判に対する擁護・反論ツイートは320件であった。この記事の主張は、批判ではなく擁護によって炎上に見える、という点にある。弱者男性と非モテの問題も弱者男性自身ではなくむしろ攻撃者によって非モテというフレームが与えられる。
この記事の反論者がやりそうなこと
この記事への反論としてありそうなものは弱者男性自認者で性愛に言及している人のツイートを数例出して「ほらみろ彼ら自身が言っている」というものだろう。しかしその反論者たちは、一柳良悟氏,旧コ口吉氏の投稿は顧みない。私の主張は弱者男性自認者で非モテを問題にしているのは少数で弱者男性攻撃者が侮蔑の目的で非モテを取り上げているということだ。それは少数の外国人の犯罪をことさらに取り上げて外国人は犯罪者だと主張する排外主義者の振る舞いと同等のものである。
反論者がやることは
- 弱者男性自認者で性愛を問題視している人が、弱者男性という単語を用いて他の弱者男性問題者の話題者より多いことを示す。
- 弱者男性攻撃者の非モテ言及割合より、弱者男性自認者の非モテ言及割合が多いことを示す
のどちらかになるだろう。
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弱者男性への攻撃的な投稿を行う攻撃者の属性分析
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