セッテルンド大陸の中央にある陸地を大きく東西に分割する
その険しい山々の間を縫うようにして
その
護衛として
馬車の装飾は質素なものだが、実にしっかりとした作りであることを見れば、中に乗る者はそれなりに身分のある人物であることが一目瞭然だ。
「おい、馬車を止めてくれ!!」
その声がした後、すぐに馬車が停車し、護衛の
そして、その声の主が馬車から降りてくる。
彼は品良く仕立てられた高価な布地を惜しみなく使った上等な服を身に包んでいるのだが、少しばかり
身の丈は二メートルにも迫り、さらに全身くまなく鍛えられている。
まさに野生的・圧倒的といった表現がしっくりくる風体の彼は獅子の
「うまい!!オービニエの空気はやはり澄みきっているな。せせっこましいクシェペルカの城とは大違いだぜ!」
「まったくですね、
背後に控える護衛の
「はは、そうだろう!おおっ、見ろよ!懐かしき我が故郷だ!」
「殿下」と呼ばれたその大男が指差した先にはフレメヴィーラ王国の王都カンカネンとシュレベール城があった。その遥か向こうにはライヒアラ騎操士学園と学園街までもが小さく
「おお、素晴らしきかなフレメヴィーラよ。それでは殿下、目前まで来たところですし、さっさとカンカネンに入ってしまいましょう」
「そうケチケチするなよ、こっちは城と馬車の中でずっと窮屈や退屈と戦ってたんだ!ちょっとは体をほぐしとかなきゃ、街についたとき動けなくなるぞ」
「そのまま動けなくても結構ですよ。シュレベール城の中まで護衛致します!」
「おいおい、勘弁しろよ。せっかく帰ってきた故郷なんだ。一人で街の散策くらいさせてくれ」
「とりあえず、馬車に戻って下さい」
「へいへい……」
そう言ってフレメヴィーラ王国第一王子『リオタムス・ハールス・フレメヴィーラ』の次男である『エムリス・イェイエル・フレメヴィーラ』は不満そうに馬車の中へと戻っていった。
それから二ヶ月後──
そのカルディトーレはすでに十分な稼働試験を終え、すぐにでも量産態勢に入ることが出来る。
シュレベール城の護衛を任される近衛騎士団にはすでにカルディトーレを用いた訓練も実施されており、今後は他の騎士団の
そんな中、国王アンブロシウスとその息子──フレメヴィーラ王国第一王子リオタムスはシュレベール城の内城とも呼ばれている城の最奥部。中央に向けて高さを増す構造をした城の中で最も高い塔の部分。シュレベール砦と呼ばれる場所に集まっていた。
そこに彼──『エムリス・イェイエル・フレメヴィーラ』も姿を現した。
「おぉ、じいちゃん、
エムリスは肩にタオルを掛け、半裸のまま部屋へと入ってくる。
「しかし、いい機体だなカルディトーレは!やっぱ新型ってやつは男の……」
「エムリス!黙ってここに座れ!!」
そんなエムリスの言葉を遮って、アンブロシウスが叱責する。
「はいよ」
エムリスが服を着て、席に座ったのを確認したアンブロシウスはこう話し始めた。
「今回お前達を呼んだのは他でもない……」
少し間を置いてからアンブロシウスは静かにこう宣言する。
「リオタムスに国王の座を譲る」
その宣言に二人は驚きを隠せなかった……。
「……っ!」
「じいちゃん……」
西方歴一二八〇年。フレメヴィーラ王国、国王アンブロシウスは王位を退き、新王リオタムスが即位した。
同じ年、
それから程なくして──。
「え?カンカネンから呼び出し?」
シュレベール城へとやってきた
彼を呼び出したのは現王リオタムスではなく、先王アンブロシウスであるからだ。
「
「同じく団長補佐アデルトルート・オルター、参りましたっ!」
「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」
「あ、これ、俺も言わなきゃダメなの?」
「いや、三日月・オーガス、君はそれでこそだ」
「?ありがとう、チョコ」
「多分だけどよ……褒めてねぇんじゃねぇか?」
「そんなことはありませんよ?」
「こういう時だけエルネスティに戻るんじゃねぇぞ……」
その会話の途中、奥の部屋から国王アンブロシウスとその孫、エムリスが出てきた。
「うむ、よく来たな。皆、まずは楽にするがよい」
「おう、お前がエルネスティ・エチェバルリアか!以前の御前模擬試合の時に一目見たきりだったが、本当にちっこいな!」
「誰なんだよ、そいつは?」
「お目にかかれて光栄です。
「……火星の王?」
ピギュ
「すいませんでした……」
「謝ったら許さない」
「勘弁してくれよ……」
パン!パン!パン!
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「ふははははっ!やはりお前達はおもしろいな」
先王アンブロシウスは希望の花を咲かせたオルガをひとしきり笑った後、本題に入る。
「さて、エルネスティよ。おぬしに頼みがある」
「頼み、ですか?」
「うむ、一つワシの為に
「それは構いませんが……何故?」
「隠居の身とはいえ、何もないでは退屈しのぎも出来ん。そこでせっかくならばお主に
「あぁ、分かったよ!やるよ!」
「チョコの人がね」
「あ、だったらついでに俺のも作ってくれよ」
「は?」
自分にも
するとアンブロシウスはため息混じりにこう言った。
「ふうむ、二つ用意出来るか?」
「問題ございません。それでどのような機体をご所望でしょう?」
「そうだな!まず何と言っても重要なのは『
「はい!」
「そして、『
「は、はい」
「さらに『
「は、はぁ……」
「脳筋……?」
「昭弘じゃねぇか……」
その頃、オルフェシウス砦では──
「ハックション!」
「ちょっと~!大丈夫、昭弘?」
「お、おう……。どうしたんだ?エドガー?」
「何?風邪?どっちでもいいけどこっちに移さないでよね」
大きなくしゃみをする
その様子を見ていたアジーはため息をついてこう言った。
「全く……。筋トレのし過ぎなんじゃないか?
「よく分からんが、誰か噂でもしているのかもな」
「「こっち?」」
ディートリヒとヘルヴィはアジーのその言葉に首を傾げていた。
それから、数日後。オルフェシウス砦に戻った
そして、季節は巡り──
アンブロシウスとエムリスの専用機は完成した。
「おお!」
「これはまた……遊んだのう、エルネスティ」
アンブロシウスが笑いを押し殺しながら呟く。
彼の言葉の通り、その二機の
片方が持つのは獅子の
もう片方が持つのは虎の
「如何でしょう!『
その二機を前に
「お申し付け通り、両機とも力に
そのプレゼンを聞いて二人とも異論はないようだ。
エムリスはまるで子供のようにはしゃぎながら「気に入ったぜ!」といって満面の笑みで片方を指差す。
同時に、両機を見比べていたアンブロシウスも「ふむ」と
「よーし、そんじゃ俺は……」
「それでは、ワシが……」
「「こっちを貰おうか!」」
二人とも指を差したのは『
アンブロシウスとエムリスは同時に言葉を止めて見つめ合う。張り詰めたような沈黙が両者の間に落ちた。
「おいおい……ちいとばかし、年を考えてくれよ。こんなに派手な機体は似合わないぜ?」
「お主こそ、獅子と嘘吹くにはまだまだ未熟……。中身が羊とあっては王族の恥というもの」
「待ってくれ……!!」
見えない火花が二人の間に飛び散っていたところにオルガが仲裁に入r……
「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか……?」
否、仲裁ではなく『
「ならよ、じいちゃん。それにオルガだったか? 一つ手合わせしようぜ?」
「実力でもぎ取ろうというのか?……ふむ、よかろう!格の差を思い知らせてくれるわ!!」
「オルガもそれでいいな?」
エムリスから模擬戦の提案を受けたオルガは不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ミカァ!やってくれるか?」
「何言ってんの?」
無慈悲な代理拒否。当たり前である。
しばし後、場所は王城に併設された近衛騎士団用の訓練所。
赤茶色の地面の上を熱気を孕んだ風が吹き抜けていく中、二機のカルディトーレと一機の獅電が睨みあっていた。
「言っとくが、手加減しねぇぜ!」
「今生の名残に我が武技、特と味わっていけ!」
二機のカルディトーレから声が響く。
それに対するように白い一角の獅電からもオルガの声がした。
「テイワズからもらった俺の獅電の力、見せてやろうじゃねぇか!!」
P.D.世界では乗る事の叶わなかったオルガの専用獅電『王様の椅子』。
その『王様の椅子』はようやく本来の主を座らせる事ができ、愉快げな様子で猛っていた。訓練所に快調な駆動音が響き渡る。
そんな音の高鳴りが最高潮に達した時、
始まりの合図を受けて、三機が同時に動きだした。
「行くぜぇ!!」
エムリスのカルディトーレが剣を振りかざし、アンブロシウスのカルディトーレが両手に持つ槍でそれを防いで、鍔迫り合いの状態になる。
そこへ離れた位置まで後退したオルガの獅電が手に持つライフルで二機のカルディトーレを狙う。
「ふんっ!!」
「はぁっ!」
ライフルの銃弾が着弾する前に即座に後退する二機のカルディトーレ。その内の一機、アンブロシウス機が後退しながらも槍を伸ばし、エムリス機を突き穿つ。
「何っ!」
「俺は止まらねぇぞ!」
槍の攻撃を受け、バランスを崩したエムリス機に直ぐ様、オルガの獅電が銃口を向ける。
ダダダダダダッ!!
「ちぃっ!!」
獅電の銃擊を何とか剣で
(訓練用の
しかし、そこに文字通り
「このワシを忘れてもらっては困るのう!!」
エムリス機に集中放火を浴びせるオルガの獅電の横からアンブロシウス機の槍が伸びてきて、オルガの獅電が吹き飛ばされる。
ヴァアアアアアア!!
「勝機は剣の中にありだ!!」
オルガの獅電の銃擊が止まったと同時にエムリス機が動き出す。
「攻め気に
がむしゃらに突っ込んでくるエムリス機へと槍を向けるアンブロシウス機。
しかし、その瞬間エムリス機はアンブロシウス機が突き出した槍を踏み台にし、高く跳躍。
踏み台にされた衝撃でアンブロシウス機は槍を地面に落とし、エムリス機はその隙をついて自重で落下しながら剣を振り下ろし、アンブロシウス機の面を打った。
「ア、アンブロシウス機!戦闘不能!!」
そう審判の声が響く。アンブロシウスは
「……ふっ、我が身も老いたものよのう」
「さて、後はお前だ!オルガ!!」
アンブロシウスを負かしたエムリスが
「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。ここで引き下がる訳にはいかねぇ!!」
ヴァアアアアアア!!
叫びながらライフルの引き金を引くオルガの獅電。
……しかし、獅電のライフルから銃弾は射出されなかった……。『弾切れ』である……。
「もらったぁぁ!!」
「やられてたまるか!このままじゃ……こんなところじゃ……終われねぇっ!!」
そして、オルガはこう叫ぶ。
「【ミカァ!】」
…………しかし、なにもおこらない。
「【ミカァ!】、【ミカァ!】」
…………やはり、なにもおこらない。
「何やってんだ、ミカァァァ!!」
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「オルガ機、戦闘不能」
『
その様子を観客席から見ていた三日月は──
「オルガは……死んでいいヤツだから」
そう呟いて
戦いを終え、訓練所を後にしたエムリスは早速、
「じいちゃんから勝ち取ったこの
そんなエムリスの後ろからゆっくりと歩いてきたオルガを見て、三日月はこう言った。
「ははっ、色男になってんね」
「まぁな。だがよ……この戦いでやっぱ俺の機体はこの『王様の椅子』なんだって事がよく分かった。なんつーかこいつがミカでいうとこのバルバトスみてぇな……『相棒』だってことがな」
「うん。こいつもやっとオルガを乗せられたって嬉しがってるよ」
「ふっ、……そうだな」
「ということは、この
そう言いながらアンブロシウスも訓練所から戻ってきた。
「あぁ、それで構わねぇ。俺の機体はやっぱ、この獅電だからよ……」
「うむ。……さて、エルネスティよ」
「はい」
「もう一機の
「ご心配には及びません。元より外見以外は全く同じものでございますので」
その言葉を聞いてアンブロシウスは安堵する。
「ならばよし!」
地味に私の異世界オルガで初めてオルガが専用獅電に乗りました(笑)
あと、前書きにも書きましたが今日はデスマオルガの一話が投稿された日になります。一周年おめでとうございます!その記念に時間も合わせての更新です。
時の流れが経つのは早いですね。