異世界オルガ   作:T oga

47 / 51
あけましておめでとうございます!

遅くなりましたが、どうぞ



ナイツ&オルガ6.5

王都カンカネン。

オービニエ山地のゆるい傾斜を生かした、砦としての風格を色濃く残す街である。

 

この街を守る騎士団は『近衛騎士団』と呼ばれ、都市守護騎士団の一つではあるが特例的に国王直属の騎士団として扱われる。当然、カンカネンには彼らのための設備があり、郊外に存在している演習場もそのひとつだ。

 

その演習場で(くだん)の模擬試合が行われようとしていた。

 

 

演習場の中央はむき出しの地面が平らに(なら)されており、それを取り囲むようにしてすり鉢状に観覧席が並んでいる。

 

そしてその観覧席の一角、特に高くなっているところが貴賓(きひん)席である。その貴賓(きひん)席の中、一段と豪華に飾られた大きな椅子に座っているのが国王アンブロシウスであった。

 

「参れ!国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)!!」

 

国王アンブロシウスのその言葉とともに演習場にファンファーレが響き、国機研(ラボ)の開発した幻晶騎士(シルエットナイト)四個小隊(十二機)が国王の目の前に並ぶ。

 

観覧席に国機研(ラボ)の所長オルヴァー・ブロムダールと第一開発工房長ガイスカ・ヨーハンソンが上がって来て、国王の横に控える。

 

「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます!この模擬試合に相応しい最高の乗り手を用意致しました!そして、あれなるがテレスターレの技術を応用・発展して我が国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)が総力を挙げて開発した次期正式量産機。その先行試作機体である『カルダトア・ダーシュ』にございます!!」

 

ガイスカは嬉々として国王へ新型幻晶騎士(シルエットナイト)カルダトア・ダーシュのプレゼンを行った。

 

カルダトア・ダーシュは見た目こそカルダトアと似た形状であるが、中身はほとんど別物といっていいものである。金属内格(インナースケルトン)はある程度流用できる以外はほぼ新造しており、テレスターレに搭載された新機能──綱型(ストランドタイプ)結晶筋肉(クリスタルティシュー)背面武装(バックウェポン)も調整に調整を重ね、問題視されていた燃費と魔力貯蓄量(マナ・プール)の改善されたものを積んでいる。

テレスターレに比べ、その操作性は雲泥の差であった。

 

プレゼンを聞き終えた国王は笑みを浮かべながら好評する。

 

「うむ。さすがは我が国が誇る騎操鍛冶師(ナイトスミス)の最高峰よ、見事である。このカルダトア・ダーシュは素晴らしき力を持っておる。おぬしらの自信のほども当然の事であろう。して、此度(こたび)の催しにはその力を見せるに相応しい()()を呼んでおる!」

 

その国王の言葉に会場が喚く。皆この後、何がやってくるのかは周知の事実であった。

 

「来い!銀鳳(ぎんおう)騎士団よ!!」

 

そして、彼らが現れた瞬間、絶叫の唱和が大地を揺らした。

 

「なんだ、この足音は?」

「何っ!?あれは!」

「あれはなんだ!?」

 

観客席にいた者、控えの工房にいた者、その場にいた全ての者が驚愕のあまり声をあげて立ち上がった。立ち上がらない者は単に腰を抜かしていただけである。

 

()()は堂々と大地を揺らす轟音と土煙を引き連れ、門をくぐった。

会場中の全ての人の視線を奪った()()は人であり、馬でもあった。──本来、馬の頭部が備わっているべきところに()()()()()()が生えている。

 

驚きのあまり思考を凍らせていた会場の皆は徐々に冷静さを取り戻していく。

 

人馬の騎士が纏うは鋼鉄の鎧。額に突き出た一本の角。右手には巨大な斧槍(ハルバード)、左手には盾を持つ──それは異形ではあるが、やはり幻晶騎士(シルエットナイト)であった。

 

「ふふ、ふはははは……やりおったわエルネスティ! それでこそわしが見込んだものよ!いや予想以上か、これほどとは!まったく、まったく楽しいぞ!!」

 

熱に浮かれたようになっていた会場の皆を正気に戻したのは、国王の高らかな笑い声だった。

 

人馬型の幻晶騎士(シルエットナイト)()荷車(キャレッジ)から幻晶騎士(シルエットナイト)二機、モビルスーツ二機がそれぞれ姿を表し、その中の一機、深紅の装甲と兎の耳のように伸びたアンテナが特徴的なモビルスーツの操縦席(コクピット)から出て来た少年がその場の全員を代表するように前に出て、優美に騎士の礼をとった。

 

「陛下より御命を受け、銀鳳(ぎんおう)騎士団団長エルネスティ・エチェバルリア、同一番中隊隊長エドガー・C・ブランシュ、同二番中隊隊長ディートリヒ・クーニッツ、同遊撃隊隊長三日月・オーガスおよび最新鋭の人馬騎士『ツェンドルグ』ここに揃いましてございます」

 

銀色の髪を翻し、エルネスティ(マクギリス)は顔を上げて満面の笑みを見せる。

 

そのエルネスティ(マクギリス)の乗るモビルスーツは『グリムゲルデ』。P.D.世界にて厄祭戦後期に開発されたヴァルキュリア・フレームのモビルスーツだ。

大破したヘルムヴィーゲ・リンカーの修理はこの模擬試合にまで間に合わなかったため、偽装解除を施したグリムゲルデをエルネスティ(マクギリス)の乗機としたのだ。

 

他の三人の乗機はいつも通り変わらず

エドガー(昭弘)は『ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー』

ディートリヒは『グゥエール』

三日月は『ガンダム・バルバトスルプス』

 

 

「ま、待ってくれ……」

 

そして、その後ろから遅れてやってきたモビルワーカーからも一人の青年が現れた。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

 

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団が全員、会場に揃ったのを確認した国王は改めて彼らの紹介をする。

 

「さて改めて紹介しよう。()の者こそが、エルネスティ・エチェバルリア。新型機の設計者にして銀鳳(ぎんおう)騎士団の団長である」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「両雄並び立つこの場にてこれ以上の長口上は無粋であろう。これより国機研(ラボ)銀鳳(ぎんおう)騎士団による模擬戦を行う。双方支度を整えよ!」

 

国王の命に従い、国機研(ラボ)銀鳳(ぎんおう)騎士団の双方が模擬試合の準備を始める。

 

 

──そして、数十分後。

 

 

「これより国機研(ラボ)銀鳳(ぎんおう)騎士団による模擬戦を始める。なお戦力は均衡を取るため、銀鳳(ぎんおう)騎士団は幻晶騎士(シルエットナイト)二機、モビルスーツ?二機、モビルワーカー?一台、騎馬一騎とし、国機研(ラボ)幻晶騎士(シルエットナイト)三個小隊とする」

 

幻晶騎士(シルエットナイト)三個小隊つまり九機である。

ガンダム・バルバトスルプスとグリムゲルデは幻晶騎士(シルエットナイト)二機分、ツェンドルグは幻晶騎士(シルエットナイト)三機分と判断されたのだ。

 

 

「俺のモビルワーカーを無視するんじゃねぇぞ……」

 

何故、オルガは獅電ではなくモビルワーカーなのか。その理由は単純である。ツェンドルグの()荷車(キャレッジ)に四機しか乗らなかったからだ。

 

 

「それでどうすればいいの、チョコ?」

 

三日月がエルネスティ(マクギリス)にそう問うと、それに便乗してアディとキッドもツェンドルグのコクピットから身を乗り出してこう質問した。

 

「俺達はどう戦えばいいんだ?」

「やっぱりエルくんとミカくんが二機、私たちが三機相手にするの?エルくんとミカくんは大丈夫かもしれないけど私たちは自信ないよ?」

「それについては僕に考えがあります」

 

エルネスティ(マクギリス)の作戦指示を聞いた彼らは操縦席(コクピット)の中で不敵な笑みを浮かべた。

 

「んじゃあ、行くかぁ~!」

「俺も行くぞ!!」

 

 

高らかな喇叭(ラッパ)のファンファーレが演習場に並んだ双方の部隊の間を駆け抜けてゆく。

 

さらに戦闘の始まりを告げる銅鑼(ドラ)が打ち鳴らされ、大きな歓声が後に続く。

 

「戦闘、はじめぇーーーー!!」

 

直後、大地を揺らしながら巨人の騎士が突撃を開始した。

 

最初に動きを見せたのは銀鳳(ぎんおう)騎士団側だ。バルバトスが先陣を切り、それに追従して二機の幻晶騎士(シルエットナイト)とモビルワーカーが走り出る。そして、ツェンドルグはその後ろを速度をあわせてついてゆく

 

その後方で一歩も動かず止まっているのがエルネスティ(マクギリス)のグリムゲルデだ。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

「これも作戦のうちです。それよりも……」

「あぁ、わかってる……。やっちまえ!ミカァッ!!」

 

国機研(ラボ)のカルダトア・ダーシュは全機横並びにして、盾と長槍を構えようとしたが、その前に猛スピードで突っ込んできたバルバトスの奇襲を受け、陣形を乱してしまう。

 

「ばっ……なんだこいつは!?」

「槍では間に合わん!撃て!!」

 

カルダトア・ダーシュが背面武装(バックウェポン)で砲撃するが、それはバルバトスに軽々と避けられてしまう。

 

「ごちゃごちゃうるさいよ」

 

そして、バルバトスのメイスでカルダトア・ダーシュの一機が吹き飛んだ。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

「フィリア!!」

「くっ、悪魔め……」

「まずいな、私があれを抑える!ユンフは後ろを……」

「ゼルクス、敵はあれだけではない。下手に動くな!」

 

同僚の言葉にゼルクスは自分たちがもともと何と対峙していたのかを思い出す。

銀鳳(ぎんおう)騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)二機とモビルワーカー、そして人馬の騎士はもはや眼前に迫って来ていた。

 

「ミカが戦線を撹乱してくれた今が好機だ!行くぞ、お前ら!」

「ツェンドルグはとにかく走り回って場をかき乱すんだ!私とディーで奴らを抑える!」

「させるかぁ!!」

 

土煙を跳ね上げながらツェンドルグが密集しているカルダトア・ダーシュへと突撃、国機研(ラボ)騎操士(ナイトランナー)達はそれを慌てて避ける。

 

ツェンドルグはそのまま戦線を走り抜けていき、その隙をついてオルガのモビルワーカーとエドガー(昭弘)のアールカンバー、ディートリヒのグゥエール、三日月のバルバトスがカルダトア・ダーシュを追い詰める。

 

「俺は止まらねぇぞ!」

 

そう言って一番最初に突っ込んだオルガのモビルワーカーはカルダトア・ダーシュの剣の一閃を受け、木っ端微塵と化した。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「……オルガは死んでいいやつだから」

「勘弁してくれよ……」

 

 

エドガー(昭弘)のアールカンバーとディートリヒのグゥエール、三日月のバルバトスがカルダトア・ダーシュを三方向から挟み込み、カルダトア・ダーシュは密集して方円陣形を取る。

 

そのまま互いに見合っている時、国機研(ラボ)騎操士(ナイトランナー)の一人が()()()に気付いた。

 

その()()()とは────

 

 

「……っ!エチェバルリアの紅色の機体は何処へ行った!!?」

 

その問いに答えるかのようにエルネスティ(マクギリス)の鳴き声がこだまする。

 

「バエルッ!!」

 

その声が聞こえたのは────

 

「エリック!上だ!」

「何っ!?うわぁぁ!!」

 

……空の上からだった。

 

 

後方から跳躍して、方円陣形を取るカルダトア・ダーシュの上空の隙をついたエルネスティ(マクギリス)のグリムゲルデが両腕部に装備されたヴァルキュリアシールドの裏面にマウントしてあるヴァルキュリアブレードをシールドに装着したままラッチを回転して展開し、そのブレードでカルダトア・ダーシュを捌いていく。

 

「このまま一気に畳み掛けるぞ!三日月、エドガー!」

「いいよー」

「相手はあの国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)だ。油断はするなよ、ディー」

「あぁ!分かっているさ!」

 

方円陣形の内側からエルネスティ(マクギリス)のグリムゲルデに、外側から三日月のガンダム・バルバトスルプスとエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー、ディートリヒのグゥエールに挟撃され、国機研(ラボ)のカルダトア・ダーシュは全滅寸前へと追い込まれた。

 

「ちぃっ!このまま負ける国機研(ラボ)ではないぞ!」

 

国機研(ラボ)騎操士(ナイトランナー)の隊長、アーニィスは辛うじて銀鳳(ぎんおう)騎士団の包囲網から逃げ仰せるが……。

 

「アディ、回り込んで仕掛けるぜ!旋回始め!」

「りょーかーい!ツェンちゃんの足さばきを見せてあげるわ!」

 

戦線から少し離れた所で待機していた人馬騎士ツェンドルグが演習場の土を蹴り立て駆ける。

リズミカルな馬蹄(ばてい)の音とともに降り掲げられた斧槍(ハルバード)による奇襲を受け……。

 

「何っ!? か、【風の刃(カマサ)】はっ! ……間に合わなかったか……」

 

 

────国機研(ラボ)のカルダトア・ダーシュは全滅した。

 

 

 

「そこまで!この模擬戦は銀鳳(ぎんおう)騎士団の勝利とする!新型機の力、しかと見せてもらった。そして騎操士(ナイトランナー)達よ、見事な戦い振りであった」

 

その国王の言葉に(三日月とオルガ以外の)全騎操士(ナイトランナー)操縦席(コクピット)から出て、国王に礼をした。

 

 

この模擬試合を見た国機研(ラボ)の所長オルヴァー・ブロムダールはこう感想を述べる。

 

「これは……ハハッ、聞きしに勝る常識破りですね」

 

そして、国機研(ラボ)の第一開発工房長ガイスカ・ヨーハンソンは模擬試合が終わると同時に慌てて、貴賓(きひん)席から演習場へと駆け降りた。

 

「エルネスティ・エチェバルリア!!」

 

止まらずにエルネスティ(マクギリス)たちの元へ駆けてくるガイスカを見たキッドとディートリヒはこう言う。

 

「誰?」

「さぁ?国機研(ラボ)騎操鍛冶師(ナイトスミス)のようだね」

 

ガイスカはエルネスティ(マクギリス)の元へやって来ると開口一番、模擬試合の好評などもなく、こう質問をしてきた。

 

「あの人馬型はどうやって動かしている!?四本足の連携は!?あんな巨体が何故動く!?どんな秘密を隠してる!?教えろ!!」

 

その問いに対するエルネスティ(マクギリス)の答えは簡単なものだった。

 

「残念ながら、我々には話し合う必要も心を通わせる必要もないのです」

「んぬぬ……!!おのれ、小童(こわっぱ)!!」

 

 

 

 

 

この模擬試合を少し離れた所から見ていた一人の男がいた。

 

「こいつはぶったまげた!しばらく留守にしている間にフレメヴィーラはすごいもんを作ったなぁ……」

 

その男は近くにいた少年にこう問いかける。

 

「あの銀髪、名前は何と言ったか?」

「たしか……エルネスティ・エチェバルリアと……」

「エルネスティ・エチェバルリア……フフッ、面白い奴だ」

 

 




読んで下さってありがとうございます!

活動報告にも書きましたが、今年はナイツ&オルガとオルガ細胞の完結を目指して頑張って書いていこうと思います!

今年も変わらず応援のほどよろしくお願いいたします!



P.S.
ニコニコ動画の方に異世界オルガMADを投稿したのでそちらも合わせて見て下さると嬉しいです。

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm34407724


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。