第27回参議院議員選挙が公示された。争点の一つである減税をめぐり、さまざまな意見がある中で判断に迷う人も多いのではないだろうか。
そもそも減税によるメリットとデメリットは何なのか、「財源」とは具体的に何を指すのか。そして各党の減税政策をどのような判断軸で評価すべきなのかといった疑問について、識者の解説とともに整理する。
(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミスト)
- 財源とは、国のサービス予算実行に必要な資金を調達する手段
- 極端な減税は過剰なインフレや通貨安といった財政危機を招く
- 減税政策の判断軸は短期と長期の効果、財源の妥当性、公平性
1.財源って何?
出典:財務省「令和7年度予算(衆議院修正+参議院修正後)」
いわゆる政府の財源とは、道路整備や年金の支給、医療費や教育費の補助といった国のサービス予算実行のために必要な資金を調達する手段だ。その内訳をみると全体の約62%を税金が占めていて、特に大きいのが消費税(約21%)、所得税(約16%)、法人税(約15%)。
税金以外では国債発行による収入が約31%を占めている。これは将来の返済義務を伴う「借金」にあたるため、減税を実施する際には税収減少分をどのように補填するか、また国の財政健全化とのバランスをどのように取るかが重要な課題となる。
- 永濱氏
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日本では国債費の元本の返済に充てる「債務償還費」を歳出に計上していますが、国債は基本的に借り替えで維持するものなので、他国では歳出に含めていません。
そうした場合、日本の財政状況は約17.7兆円改善することになるでしょう。
2.減税はなぜ難しい?
なぜ減税が難しいと言われるのか。
ひとつは社会保障費の増大だ。高齢化が進む日本では減税によって財源が不足した場合に、年々膨らむ社会保障費を賄いきれない恐れがある。次に日本の債務状況。日本はGDPに対する債務残高の割合が主要先進国の中で最も高く、過度な国債の発行は円の信用低下や金利上昇につながる。支払う利息も増えれば、財源が圧迫され政策の実現が困難になってしまう可能性がある。一方で、国債の約9割を国内投資家が保有しているため、財政危機リスクは限定的だとする考えもある。
3.日本と海外の比較
減税に対する向き合い方は国によって異なる。欧米諸国では減税に対して比較的前向きだが、過去の失敗を糧とするイギリスは慎重な構え。中国では経済活性化の目的で業種や規模を限定した減税策を実施していた。
日本は前述の通り、高い債務残高対GDP比と社会保障費の問題がある。施策の実施には効果とリスクの見極めが必要となる。
- 永濱氏
- アメリカでは「多年度中立主義」をとり、10年程度での財政中立を目指す考えですが、日本では減税と財源をセットとする「単年度中立主義」です。これも減税施策を打ち出しにくい要因の一つとなっています。
4.減税と財源のギモン
Q.減税のメリット・デメリットは?
- 永濱氏
- 減税のメニューにもよりますが、投資減税のような支出を伴う減税は経済活性化につながることがメリットです。一方で、必要以上の規模での減税は、過度なインフレや金利上昇、通貨安といった財政リスクが高まります。
Q.減税も給付金も財源は同じ?
- 永濱氏
- 同じです。一般的に減税は恒常的ですが、実施まで時間がかかります。対して、給付金は一時的なため管理がしやすく迅速にできるのがメリットです。減税する場合、一部例外措置があるにせよ、基本的に税法改正が必要になります。
Q.減税と給付金の経済効果は?
- 永濱氏
- 昨年行われた定額減税と給付金との比較ならほぼ同じ程度です。ですが、消費減税は初年度のGDPの押し上げ効果が大きいので約2倍の効果が期待できます。
これは定額減税や給付金が、消費よりも貯蓄に回る傾向にある一方で、消費減税は実際にお金を使わなければ恩恵を受けられず、消費を促しやすいからです(前述の支出を伴う減税)。
Q.財源としての国債発行は?
- 永濱氏
- 政府債務残高対GDP比が悪化しない範囲ならアリだと思います。インフレによる通貨価値の下落は、過去に負った債務の返済に対して有利に働きます。例えば物価が1%上がったら1000兆円の1%である10兆円が実質的な負担軽減となるので、この範囲内での国債発行なら政府債務残高対GDP比は上がりません。
デフレ下にある中での日本では、国債発行が財政悪化に直結していましたが、2022年以降は高インフレが続いています。一番インフレの恩恵を受けるのは税収が増える政府、次いでグローバル展開している大企業、逆にしわ寄せを受けるのが中小企業と家計。こうしたときにしわ寄せ層に還元する政策を実施するのが政府の役割です。
5.各党の主張は?
自民党と公明党は減税に慎重な姿勢であるのに対し、そのほかの党は減税案を提示している。食料品または消費に対するもので料率や期間が異なる。
ではどのようにして支持する政党を選べばよいのか。
6.減税政策をどう判断する?
減税政策を判断する場合、次の4つの観点が重要となる。
- ① 短期的効果:消費活動の刺激によって経済がどれだけ活性化するのか
- ② 長期的影響:財政の悪化が将来世代にどのような影響をもたらすのか
- ③ 財源の妥当性:各党は財源を明確に示しているか。それは現実的なのか
- ④ 公平性:本当に支援が必要な層に届く政策か
7.まとめ
減税は私たちの生活に直結する重大なテーマだ。日本の置かれた状況をきちんと把握し、効果や影響等を考慮した上で判断したい。一方で人口減少、安全保障、環境等、課題は山積している。政策の実行には財源が関わってくる。そうした全体像にも目を向けながら、自分の考えに最も近い選択肢を冷静に見極めることが重要だ。
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