「ピルで女性の性が乱れる」は本当か

女性の痛みを軽減し心身の負担を取るということについて、日本の行政、日本の医療はあまりにも後ろ向きであると思っています。流産にせよ中絶にせよ出産にせよ、すべてが強烈な痛みを伴うことはわかっているのに、こと女性のための医療となると、他の先進国に比べても取り組む気がないことが見てとれるからです。

ピル(経口避妊薬)がいい例ですよね。「ピルを解禁したら(女性の)性が乱れる」「中絶ピルともなるとなおのこと」という理由で女性の身体に優しいはずの医療を何十年も解禁してこなかった半面、男性の勃起不全(ED)を改善するための薬・バイアグラの承認は1999年。申請から半年、アメリカに続いて翌年には通すという異例のスピードで解禁した国です。超男性優位社会のそうした極端さは、無節操に思えるほどです。

そもそも、社会全体の意識がフランスと日本とでは違います。

1990年に私が留学生としてフランスに行ったとき、大学院の健診をまずは受けてくださいと言われて診察を受けに行ったら、女性の医師が応対してくれたんですね。先生がメモを取りながらカジュアルに「あなた、ピルは使っていますよね?」と聞いてきたんです。

島岡教授
撮影=水野真澄
ピルの解禁から25年以上がたったが、日本のピル普及率は低い。島岡教授は「ピルで女性の性が乱れる」といった誤った認識が普及を阻んでいると指摘する

35年前ですらピルを無料で配るフランス

35年前の、まだ日本にピルも入っていないころの話です。「当然使っていますよね」という念押しの言い方でした。聞いた瞬間、私は時代もあり当時の感覚のため頭が真っ白になってしまって。特に結婚前でしたので「えっ」と言ったままシドロモドロになってしまい、「私、ピルなんて見たことさえありません」と答えたところ、非常に驚かれました。同情されたような目で見られてしまったんです。「どんな後進国からこの人は来ているんだろう」という顔で。

「本当に気の毒に。でもあなたね、この年で自分の身は自分で守れなくて、どうするの⁉」って聞かれてしまったんですね。

フランスには「家族計画センター」という「町の保健室」的なものが各市町村にあり、避妊、計画、夫婦カウンセリングなどの健康相談所として機能しています。当時私が行ったグルノーブルというパリから500kmの地方都市にもそれがあり、女性医師から教えてもらって訪ねていきました。

「すいません、ピルがないのでピルをもらいなさいって言われました」

と言ったら、簡単な診察のあと、タダであっさりピルをくれました。お金を払った覚えはありません。それが35年前の話です。今、日本の中高生や大学生は、ピルをタダでもらえますか? コンドームさえレジに持っていくのは憚られますよね。