なぜキャサリン妃は産後すぐに歩けたのか
これはもう、天国と地獄の差じゃないですか。生まれた国が違ったらこんなに違う。フランスの女性は体の負担もなく流産後に生活ができる。なのに、日本ではこんなにも手続きが面倒で手術も大がかり、予後も悪い。掻把されて激しい痛みを伴うわけです。私はたまたま偶然両方を体験しましたが、日本で暮らしている人たちはみな知らないんだろうな、と。
私が流産後に飲んだものは、経口人工中絶薬(中絶ピル)と言われるものと同じ種類の錠剤です。これは、最後の月経が始まった日から63日(妊娠9週)以内に正しく飲むことによって妊娠を終了させることが可能な薬剤であり、日本では2021年12月に厚生労働省へ販売承認申請がされ、2023年1月27日に薬食審・医薬品第一部会において、「メフィーゴパック(ミフェプリストン/ミソプロストール)」が承認されました。
1988年にフランスで承認されて以来、65以上の国と地域で承認されており、G7の中で承認されていなかったのは日本だけで、解禁はなんとフランスより35年も遅れたわけです。
それ以外にも例えば、ヨーロッパでの出産において、無痛分娩は当たり前です。イギリス王室のキャサリン皇太子妃は出産後、病院の前できれいに髪を整えて夫と一緒に歩いて「ハーイ」って手を振りながらそのまま赤ちゃんと退院していきましたよね。日本の経産婦たちはみな、多くがニュース映像を見て驚愕したと思います。なぜキャサリン妃は産後すぐに、歩いて病院を出られたんでしょう。あの強さは、無痛分娩も要素の一つだったのではないでしょうか。
「人が耐える最大の痛み」を麻酔無しで行っている
1993年にフランスで娘を出産した時、ヨーロッパではすでに無痛分娩はマストという状態でした。しかし、私自身が帰国後1997年に盛岡で息子を出産した際、岩手医科大病院でさえ無痛分娩は扱っていませんでした。
日本産科麻酔学会によると、日本の無痛分娩の普及率はまだ1割前後。多くが今も、人が耐える最大の痛みといわれる分娩を、麻酔無しで行っている実態があります。
一方、世界各国で見ると、アメリカ(73.1%)、フランス(82.7%)、カナダ(57.8%)、イギリス(60%)、スウェーデン(66.1%)、フィンランド(89%)、ベルギー(68%)という状況です。他方アジアでは、シンガポール(50%)、韓国(40%)、そして中国が日本とほぼ同じ10%という状況。多くの先進国に比べ、日本が無痛分娩において非常に後れをとっていることがわかります。
分娩の痛みをずっと長時間受け続けるということが女性の身体と精神力にどの程度の負担を及ぼすかは、経産婦ならば誰しも認識できると思います。そのつらさや恐怖感を少しでも軽減する試みは、次の子供を産む気力を女性に与えるのではないでしょうか。

