政界や医学界のトップは男性ばかり

留学を終えて日本に帰国し、1995年に盛岡大学の大学講師として働き始め、慶應義塾大学の非常勤講師もしていたころの話です。東京に実家がありましたので、泊まってまた盛岡に帰る、という生活をしていました。

慶應の法学部では、ピルが日本ではまだ解禁されていませんでしたから(日本での解禁は1999年)、「フランスではタダでピルがもらえるんですよ」という話を学生たちにした上で、「日本はどうしてこんなに長い間解禁されないのかというと、政治家や医学界などのトップが男性ばかりだからです。日本は『超男性優位社会』なんですよ」と授業で伝えていました。

みんな、キョトンとしているわけですよ。全然実感がないものだから。

「日本の現状は本当におかしい。そうした日本各界の男性たちがなぜピルの解禁をしないのか、その理由を知っていますか」と問うてみました。

「もしピルを解禁したら(女性の)性が乱れる」とか、「寝た子を起こすな」、「みんなが性行為をしてしまうじゃないか。それは良くない」っていう、まじめに言っているのか冗談なのかわからないような理屈でピルの解禁が行われてこなかったんですね。そんな理由で解禁しないとエスタブリッシュメントの男性たちが大まじめに言っていたわけです。

島岡教授
撮影=水野真澄
30年前から法学部の授業で性と避妊にまつわる講義を始めたら、たちまち人気授業に

少人数授業のはずが抽選する騒ぎに

もう笑っちゃいますよね。性が乱れるって言うけど、フランスに4年住んでいても援助交際なんてありませんでしたよ。そんな金銭主義で若い子がブランドもののバッグが欲しいから売春するなんていう文化は向こうにはありません。性が乱れているのはどっちですかと。そんな話を講義でしていたんです。

こうも言いました。「フランスではラブホテルも見たことがありませんでした。ここ慶應の周りには林立していますよね? この違いはなんですか?」

「性が乱れに乱れきっているのは日本のほうなんです。ピルを解禁したから性が乱れるなんていうのは大嘘です」

そういう話をしていたら、当初は非常勤としての30人ぐらいのこぢんまりした授業だったんですが、倍々ゲームで受講者が増えてきちゃって500人以上になり、法学講座そのものがパンクして生徒が教室に入りきらなくなったんです。大教室は500人が最大だったんですが、抽選になる騒ぎになってしまった。それほどまでに、学生には衝撃だったと思うんですね。本当のことだから。