始まらない「安倍氏銃撃」裁判、なぜここまで? 山上被告の胸中は
安倍晋三元首相が前回参院選で演説中に銃撃された事件から、8日で3年。山上徹也被告(44)の公判前整理手続きは、ようやく初公判の期日が決まったものの、なお詰めの協議が続いている。長期化の背景には前代未聞の事件ゆえの事情があるが、被告本人はどう受け止めているのか。
山上被告は2022年7月に奈良市で安倍元首相を手製銃で撃ったとして現行犯逮捕され、23年1月に殺人罪などで起訴された。直後に付された公判前整理手続きは、平均12.3カ月の2・3倍以上に長期化。今年6月に初公判を10月28日と決めたが、審理の中身は調整が続く。
「非常に特異な事件で、どこも特別な対応になっている」。弁護人の一人は取材にそう話す。
歴代最長の政権を築いた元首相が白昼に殺害された事件。被告は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐり「母親が多額の献金をして生活が破綻(はたん)した。教団に恨みがあり、関係が深い安倍氏を狙った」と供述したとされる。
注目が集まるなか、予期せぬ事態が起きないか。そうした懸念は「重圧」となった。
爆発物処理班が出動、その中身とは
まず、被告の勾留場所。通常は捜査が終わると警察の留置場から地元の拘置所に移される。だが検察は今回、「警備上の問題」を理由に規模の大きい大阪の拘置所に勾留するよう求め、奈良地裁が認めた。
それが弁護団の動きを縛った。弁護人4人の事務所はいずれも奈良市内で、高速道路を使っても片道1時間かかる。接見の時間を確保しにくくなり、公判前整理手続きの準備に影響した。
その手続きで、裁判所は異例の対応をとる。開催の間はほかの裁判を一切入れず、警察にも警備を要請する。
それでも、23年6月の第1回では減刑署名が入った段ボール箱に金属探知機が反応。爆発物処理班が出動する騒ぎになり、4カ月延期された。
そして、手続きの中身。事件への教団の影響をどう扱うかで検察側と弁護側で大きな隔たりがある。
検察は被告への「同情論」を警戒か
関係者によると、検察側は同情論が被告に有利に作用するのを警戒して、教団問題に立ち入るのを避けたいとみられる。「正しい量刑判断のため教団の影響を吟味すべきだ」と主張する弁護側は、専門家の「情状鑑定」を要請。検察の反対を受けて地裁が却下すると、弁護側は宗教学者を被告に接見させた。
その内容をどう扱うか、まだ綱引きが続いている。被告の手製銃に法定刑が重い銃刀法の「発射罪」を適用できるかをめぐっても協議が続く。
そうした状況を、山上被告は冷静に見ているようだ。
関係者によると、殺人罪の成否は争わず長期の刑が予想されるなか、公判前整理手続きの長期化を気にしたり、早期の公判開始を望んだりする様子はみられないという。これまで7回開かれた手続きには4回出席している。メモをとりながら耳を傾け、協議内容について「興味深い」とつぶやくこともあったという。
地裁は年内に審理を終えて年明けに判決を言い渡す案を示しているとみられるが、証人として誰を呼ぶかなどで調整が続いており、第2回以降の公判日程は発表されていない。
元裁判官「真実から遠ざかる弊害も」
05年に導入された公判前整理手続きは、そもそも長期化傾向にある。最高裁によると、10年に平均5.4カ月だった期間が20年には同10カ月となり、6年以上かかったケースもある。
主な要因とされるのは、検察がそのつど必要性を判断する証拠開示のプロセスだ。防犯カメラやSNS情報などデジタルの証拠が増えるなか、弁護側は開示請求を繰り返さざるを得ない実態がある。山上被告のケースでも、検察が示した「証拠一覧」にある約4千点をめぐって応酬があり、開示されたのは約1千点。このやりとりで時間が費やされた面もある。
元裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授は「関係者の記憶が薄れ、真実から遠ざかる」と長期化の弊害を指摘し、こう求める。
「事件の背景がわからないまま時間がたつのは社会にとってもよくない。公判では教団の影響も含め、説得力のある評価をしてほしい」
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安倍晋三元首相銃撃事件
2022年7月8日、奈良市で選挙演説中の安倍晋三元首相が銃撃され、死亡しました。殺人や銃刀法違反などの罪で起訴された山上徹也被告の公判前整理手続きが進行中で、10月28日に裁判員裁判の初公判が開かれることが決まりました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]
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