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AIで実現する人の幸せに貢献するモビリティ
2025.05.23 Fri
日大 大澤研究室とLEXUSが共同研究を進める理由
日本大学(日大) 文理学部の大澤研究室とLEXUSがAIに関する共同研究を2024年からスタートさせている。
LEXUSに関わっていただいた方々から幸せが広がっていき、社会全体を幸せにすることを目標に進められている共同研究は、人と心の通じ合うAIの開発を目指す。
トヨタ自動車には創業以来、受け継がれてきた「豊田綱領」の精神を基にし、大変革の時代を生きる37万人の従業員と家族、そして、これからのトヨタを支える次世代のために、トヨタのミッション(果たすべき使命)とビジョン(実現したい未来)を2020年に定義したトヨタフィロソフィーがある。その中にあるトヨタのミッションが「幸せの量産」だ。
この「幸せの量産」はLEXUSでも果たすべき使命となっているが、日大 大澤研究室でも「ドラえもんづくりを通して」同じように人々の幸せを実現しようと考えていたという。
この両者の思いが繋がり開始した共同研究について、大澤研究室を主宰する日大 文理学部 次世代社会研究センターRINGSセンター長で情報科学科の大澤正彦准教授とLexus International Co. LE開発部の雪田幸宏主査に話をきいた。
次世代の「愛車」を目指して
雪田主査
今までの「愛車」は乗る人がクルマの外形やエンジン、乗り味に「愛」を感じて「愛車」になっていたと思います。
しかし昨今、クルマが運転を楽しむものから、人々の体験価値を拡張してくれるものに変革が進む中で、今まで以上に多様性を考慮していかなければなりません。そこで、今まで以上に一人ひとりのお客様に寄り添っていくためにも、AIが必要になると考えていました。
そこで僕は愛車の「愛」がAI(アイ)となる、「AI(愛)車」をつくりたいと思いました。このとき、僕たちがやりたいことは実は、のび太にとってのドラえもんのような存在ではないかと思ったのです。
単純に道具的なAIならどこでもできる。そうではなく、本当に人生のパートナーになれる、AIの愛車がつくりたいと社内で話をしていました。
その2か月後に上司から、「大澤先生という方がいるから、今度一緒に東京に会いに行こう」と言われ、先生の本「ドラえもんを本気でつくる」を渡されました。
2カ月前にドラえもんの話をしていたこともあり、「なんだこの本は!」とワクワクしたのが先生との出会いのきっかけです。
大澤准教授
僕にとっては、今のお話のあとに実際に初めてお会いした瞬間が、このストーリーの出発点でした。
あのときは一緒にお話をさせていただけたのがとても楽しかったです。そして、その1カ月後、またお会いしてそのときも、2時間ぐらいお話しさせていただいたのですが、帰り道にふと怖くなりました。
ワクワクしているけど、自分がブレているんじゃないかと不安に駆られました。「LEXUSの皆さんと一緒に仕事をしてみたい」と考える一方で、僕らがやりたいのは「LEXUSとの共同研究なのか?」と悩みました。
今までの僕らは、(つくっている)ドラえもんが なるべく沢山の人に馴染んで、受け入れてもらえるよう庶民派のイメージでやってきました。
だからこそ、(研究場所として)大学を選ぶときも、偏差値の高い大学ではなく、なるべく多くの人が関わりやすく親しみやすい場で、さまざまな人が活躍できる場所をつくってきました。
そうやってきたのに、「ここにきて、自分はラグジュアリーブランドと組みたいと思っているのか?」と自問しました。
でも、直感では「一緒にやりたい」って思っていたんです。例えば、ある瞬間に何か(革新的なこと)をやったとしても「世界の80億人と同時に仲間になる」ことは難しいです。
だから1人ひとり仲間を増やし、幸せで愛のある世の中をジワジワと広げていくと考えたときに、ある程度余裕があって誰かのために動きたいというモチベーションがある人たちから広がることもあると考えました。
そして、このいい波を起こす震源地がLEXUSになる可能性があると思いました。
そう思ったのも、自分の友人やお世話になっている人たちに、LEXUSに乗っている人が多かったからです。そして、僕はその人たちのことが大好きだなと思ったんです。
そういう人たちの助けもあって今の自分がここにいる。人を幸せにできる人たちが集まっているなら、その素敵な波を広げて、ドラえもんができる世界もつくれるんじゃないかと考え方がアップデートされました。
もちろん、今までやってきたこともやり続けますが、それとは異なる新しいドラえもんをつくる道筋が見えてきたと感じました。
LEXUSのみなさんとの出会いは、僕にとってドラえもんのつくり方の新たな道を見つけるきっかけになったし、自分が言語化できていなかった価値観に気づけました。そうやって世界が広がり、協力関係へと歩んでいきました。
雪田主査
単にその人の人生が豊かになるということだけでなく、LEXUSのお客様は、自分の人生が豊かになった結果、その周りの方も幸せにできる人たちのはずと思っています。
初めてお会いしたときに、大澤先生は「いい心の変化を起こせるようにしたい。その結果、周りも幸せになって、社会全体が幸せになっていくはず」と言ってくれたことに、すごく共感して「これはやりたいことが一緒じゃないか!」と思いました。
大澤准教授
僕もLEXUSを良くするだけの共同研究じゃなくて、世の中を良くしていくための共同研究でもあると気づいて「一緒に研究したい」と思いました。
僕らの思いがそこで繋がったというのが、共同研究を力強く進めていく原動力になっていると思います。
AIもコミュニケーションが大切!?
大澤准教授
僕らがエージェントAIを研究するためには、まずは人間同士でコミュニケーションが取れなければ、AIともコミュニケーションは取れないと考えています。
コミュニケーションを取って、相手が望んでいることや価値観を知るということをすごく大事にしています。
雪田主査
以前、未来のシナリオを僕たちがつくって、その中で「人とAIが共に成長する」というストーリーを大澤先生にお伝えしました。
そのとき大澤先生から「本当にオーナーとAIがともに成長する姿を思い描いてますか?」と言われました。
大澤准教授
失礼なやつですね(笑)
雪田主査
いやいや(笑)。確かにそのシナリオでは、共に成長するようにはなっていなかったんですよね。
あのときに「相互適応」という考え方を教えていただいて、自分たちが書いたストーリーは、なんて一方通行だったんだろうなと気が付きました。
実現したいと言っていたことの間違いを初回から指摘していただいて、深く考える良いきっかけになりました。
大澤准教授
いいたいことを言い合える関係性が初回からできたと思っています。違う組織同士で新しくプロジェクトを組むことは相当大変ですし、最初から考えていることがピッタリと合うなんてことはないです。
だからこそ、分かっているふりで空中戦をするのではなく、お互いが思っていることを一歩踏み込んでコミュニケーションができるのは、共同研究でもすごい大事だと思います。
意見を言えるし、聞いてもらえる。だから、こちらも真剣に聞く。お互い議論ができる関係をつくれていると思います。
雪田主査
大澤先生から誘ってもらい、今年の2月にヒューマンエージェントインタラクション(HAI)シンポジウムに参加したとき、HAIがより深く理解でき、今まで自分目線で会話してしまっていたと振り返ることができました。
大澤准教授
シンポジウムの直後に、雪田さんから次にやりたいことのご提案いただいたのですが、本当に僕らが目指してきたこととドンピシャで感動しました。
そこから、手法やインスピレーションが溢れてきて、次の技術提案につながっていきました。 歩み寄ってもらった一歩が僕らにとっては絶大でした。
現地現物がお互いの理解を深めコミュニケーションを円滑にする
トヨタ自動車には「現地現物」という豊田佐吉、豊田喜一郎の時代から続く考え方がある。それは、現地に行って、現地を視察することではなく、目の前で起こっていることを、「自分事」として捉え、さらに良くしようと、努力するためにある言葉だ。
大澤准教授
自分たちがトヨタ自動車とLEXUSのみなさんを知る方法は、愛知県豊田市にお邪魔して、いろいろな方とコミュニケーションを取りながら、みなさんが普段見ている景色を実際に見ることです。
やはり、言葉で説明されたことを理解するのと、実際にその現場に飛び込んで、その場の雰囲気や、やっていることを見るのでは全然違うと思いました。
たびたび豊田市に行きますが、行く度に(上手く)すり合ったとか、アップデートされたとか、違う景色が見えるようになります。
雪田主査
それが大澤先生の言ってくれた、お互いが歩み寄って相互適応するってことに近いのだと思います。
大澤先生のことを理解したいと自分から近づくと、先生にはきっと伝わっていて、お互いの距離を近づけることができると感じます。
大澤准教授
AIと人間の相互適応を研究してきましたが、理想的な関係構築は簡単ではありません。どうすればAIと共存できるのかなど、いろいろと聞かれるのですが、そもそも人間同士も争いばかりで共存できていないです。
「どんな人とでも、上手くやれる手法がありますか?」と聞かれたら、そんなものはなく、目の前の人に一生懸命、真摯に向き合っていくだけです。
それはAIと人間の関係でも同じだと思います。人と真剣に向き合うことができない人間がつくったAIでは、相互適応できるわけがないと思っています。理想的なAIと人間の関係性を人間と人間でやらないといけないと思っています。
雪田主査
最初のころにHAIについて悩んでいるときに、大澤先生に「HAIの観点でアドバイスがほしいです」と言いました。
そのとき先生が、「HAIというけど、結局は人と人です。どう感じているか、それだけですよ。別にAIと捉えずに、人と人の社会だったらどうするかを考えればいいだけです。」と言われ心に刺さりました。
あれから、常にその思考で困ったときは、「人の社会だったらどうする?」と考えるようになりました。
大澤准教授
そうやって一生懸命考えた想いや、積み上がった思考が、みんなの人間関係を良くすることに繋がっていくと思います。
僕らが提案したのも、「LEXUSっていいよね」だけで終わらずに、「LEXUSのユーザーっていいよね」にアップデートされ、その輪がどんどん広がるということを考えました。
AIのことを考えた結果、人と人との良い関係性も伝播していくという。 本当に良い関係性というものをLEXUSが震源地となって世界中に広げていくための共同研究だと思います。
学生をすごく受け入れていただいているのも、とても嬉しいです。やっぱり(こういう共同研究だと先方から)「先生がちゃんとやってくださいよ」みたいなことを言われることもよくあります。
この共同研究は学生が一緒にやっていくことを認めていただけているので、そこもすごく大きいです。
学生たちもLEXUSのみなさんのことが大好きだし、学生の成長とかを見ても、このプロジェクトは価値があると思います。
心を感じることで変化を起こすHAIとは
共同研究ではHAIで、よりよい社会の実現だけでなく、日本から世界に広がる新たな産業の構築を目指すという。
大澤准教授
僕らが専門にしている研究領域がHAIです。簡単に説明すると、今までのAIは、ロボットの中を賢くしていくという思考が強かったのですが、HAIはロボットを擬人化させることで人間との関係を最適化して、良くするという発想の研究領域です。
ロボットだけを考えるのではなく、人も含めて考えると技術的なハードルは下がり、得られる効果は上がるというのが、研究の中でも強く感じているところです。
人だけでも、ロボットだけでも難しかったことが、人とロボットを一体のシステムとして捉えると課題が簡単に解決できるという考え方です。
ロボットを擬人化すると人のように心がある存在だと思えるようになり、人間は助けてあげることができます。
道具だったら助けるという発想にはならないのですが、擬人化することで人間が歩み寄るという行動が出てきます。
これをうまく使うと、いろいろな面白いこと、嬉しいことが起こせるというのが、HAIです。
日本で盛り上がり世界に広がった研究領域で、HAIの国際会議で年によっては採択された論文の過半数が日本ということがあるくらいです。
それは、擬人化という感覚が日本人にとって、相性がいいからではないかと言われています。
日本には「八百万の神」とか、「付喪神」など、いろいろなものに心があることを想定してきた文化があります。それが活きているのだと思います。
擬人化するということ自体は世界中にある感覚ですが、日本人はそれを繊細にデザインすることができます。
HAIの研究を広げることで、人がポジティブになる技術を世界に送り出せると思っています。研究だけではなく、産業化までが取り組んでいるテーマです。
雪田主査
これからの工場、生産ラインは、労働人口が減ってきているので、より働きやすい環境をつくっていかないといけないと思います。
そうするとオープンな場所に綺麗な生産ラインを引いていかないといけないと思っていますが、ロボットと人がそこで共生することは非常に大事な要素になると思っています。
単純に危ないから人が入れないようにすると、オープンな環境なのに人とロボットが一緒に作業ができないみたいなことが起こります。そこで、HAIの領域がすごく有効に使えるんじゃないかと思っていました。
共同研究で目指す未来
HAIを使った大澤研究室とLEXUSの共同研究。この研究で目指す未来について聞いた。
大澤准教授
まずは、AIエージェントとして車載することを目指しますが、クルマづくりだけで閉じないということが大事だと思っています。
それによりLEXUSのクルマが「愛車」として多くの人に愛される状態をつくって、結果的に人の心がポジティブになる世界がいいなと思っています。
あえて抽象的な言葉で説明していますし、それを具体的なイメージにする必要がないと思っています。
それはなぜかというと、僕が思っている人の幸せは、多くの人の幸せではない可能性があるからです。
たぶん1人ひとりが「いいな」と思う世界は、僕の想像力だけでは想像しきれないくらい多様だし、とても複雑な世界だと思います。
だから僕の想像力では、世の中をすごくシンプルにし、決めつけた世界になってしまうと思います。
神様みたいな人が世界を変えるのではなく、1人ひとりが自分の世界でその人にとってポジティブに変化させられる世界、それが当たり前のことだと思っています。
家族、友人との関係とか、1人ひとりのコミュニケーションのとり方、理想の人間関係、付き合い方で、ちょっとずつ、その人にとって良い世界を目指しています。
大学でも100人いたら100人と会話をしなくてはならないわけではなくて、気の合う仲間を選んで、仲間と授業を受けたり、時にはサボったり、サークルに行ったり、意思決定をしているわけですよね。
その1人ひとりが自分の心にとって、ポジティブな選択ができるようになってほしいですし、その選択をする応援やエネルギーの根源となるところにLEXUSがあって、自分の心がポジティブになるような意思決定ができる、そうなればいいなと思っています。
雪田主査
僕はLEXUSに乗ってくださるお客様の1人ひとりが「本当に乗ってよかったな」と思っていただいて、その結果、人生が豊かになったとまずは思ってもらいたい。これが一番です。
ただ、それだけで終わらないのがLEXUSだと思っていて、その人が幸せになったことで、必ずその周りの人も幸せになれる。
そんな人たちがLEXUSに乗ってくれていると思っているので、幸せが伝播していく社会になって、やっぱりLEXUSっていいなと周りからも思ってもらえるようなブランドになりたいと思います。
そういった社会をつくっていければ、先生が思っている「ドラえもんをつくりたい」とか、その先にあるビジョンも実現していけると思っているので、この共同研究でいい結果が生まれると思っています。
大澤准教授
愛する人を抱きしめたときの幸せみたいなものをクルマに乗ることで感じられる。そういうモノをつくりたい。
愛する人がいる、それが家族、恋人、友人かもしれないし、いろいろな関係性の中であると思いますが、そういう人がいることのエネルギーって絶大じゃないですか。
だけど、そういう存在がいなくて苦しい人も世の中にはいるわけで、世界中の人にそういう存在がいて、その存在があるから、人間関係も頑張れるし、頑張るから、また愛し愛されることができる。
そういうポジティブなループの出発点がLEXUSだったら素敵だなって思いますね。 何かいい循環が生まれていく、そういうものは伝播していくものだから、LEXUSを通して、人の幸せに貢献できると嬉しいなと思います。