今日から7月、すっかり夏になりました。
夏といえば、「怖い話」です。競売にまつわる怖い話ばかり紹介してきた『競売物語』ですが、今日はとびきり怖い話をご紹介します。
テーマは、「特別な競売」。普通の競売ですらハイリスクで怖いのに、「特別」となればどんなに怖いのでしょうか。
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【登場人物】
本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント
阿部弁護士のひとこと解説
丸の内ソレイユ法律事務所の阿部栄一郎弁護士が、不動産トラブルを数多く担当してきた経験を活かし、法律の豆知識をご紹介します。
解説:怖~い「滌除」は名前を変えて残っている?
本編でも描かれていた滌除と増価競売は、2004年に廃止されました。現在は滌除は改正され、「抵当権消滅請求」(民法379条)として定められています。
抵当権消滅請求は、その名のとおり、抵当権を抹消せずに物件を買い受けた第三者が抵当権者に対して、一定の金額(第三者が任意に決めることができます)を提示して、抵当権の消滅を求めるものです。
この点は、滌除とほぼ同じような内容となっています。ちなみに、通常は、抵当権が付いたままの物件を買主が買うことはありません(決済時点でも抵当権を抹消しないケース)。
抵当権消滅請求を受けた抵当権者(銀行など)は、2カ月以内に抵当権消滅請求を承諾するか、競売の申立てをするか決めます。
2カ月以内に抵当権者が競売の申立てをしなかった場合、抵当権者は抵当権消滅請求を承諾したものとみなされます。承諾した場合、第三者は抵当権者に対して提示した金額を支払うと抵当権を抹消することができる、といった流れです。
この点も、概ね滌除と同じような内容に見えます。ですが、これでも多少は抵当権者に優しい制度に変わっているのです。
■おもな変更点
<競売申し立てまでの期間>
・滌除:1カ月
・抵当権消滅請求:2カ月
<申し立てる競売>
・滌除:増価競売
・抵当権消滅請求:通常の競売
本編でも描かれているとおり、抵当権者に負担が大きい制度でした。
たとえば増価競売では、第三者の提示額の「1割増し以上」の金額を買受けの最低額としなければならず、買受人が現れない場合には抵当権者が買い受ける義務がありました。
その「第三者の言い値の1割増し以上」の資金は当然、抵当権者が準備します。滌除や増価競売は、悪用される例もあったため、廃止されたということです。
空き家再生人の「現場目線」
大家歴15年の「空き家再生人」こと広之内友輝です。漫画と同じ北海道で、ガラガラ・ボロボロのワケアリ物件を「直して貸す」のが得意です。不動産にまつわるリアルな「現場の話」をお伝えします!
解説:「抵当権」に振り回されて
漫画では「抵当権」がポイントでした。私からも、抵当権絡みで大変だったトホホ実話をご紹介します。
私は北海道を拠点に不動産投資をしています。ある日買おうとした物件に、遠く離れた「兵庫県の金融機関の抵当権」がついたままになっていることに気が付きました。
売主がこの物件を担保にして何らかのお金を借りていて、まだ返し終わっていなかったのです。私が支払う物件購入代金を、残りの返済に充てるつもりでした。
一方私は、「北海道の金融機関」で融資を受けて物件を買いたいと思っていました。すると、抵当権に関連して2つの処理が必要になります。
(1)兵庫の金融機関の抵当権を外す手続きをする
(2)北海道の金融機関の抵当権を設定し直す
これらは、原則同日付けで行わなければなりません。
手続きには、売主の金融機関が発行する「抵当権を解除する」旨の証明書類が必要です。重要書類なので、悪用されたら大変です。兵庫と北海道のように場所が離れていると、やり取りにも一苦労だといいます。
売主が事前に抵当権を外してくれれば(2)だけでよかったのですが、この物件は違ったのでややこしくなってしまいました。
こうなると、手続きに時間がかかります。そのせいで契約自体が数週間遅れたり、こちらがゴタゴタしている間に欲しい物件を他の人に買われてしまった! なんて話も聞いたことがあります。
そこでどうしたか、というと…「売主と同じ金融機関の北海道支店」で融資を受けることにしました。
別の金融機関でやり取りするより、同じ金融機関の支店間でやり取りしてもらったほうが、多少はスムーズに進むようです。おかげで、無事に手続きを済ませて物件を買うことができました。
◇
金融機関は「貸したお金をキッチリ回収する」ことを至上命題としていますので、抵当権絡みの対応でピリつくことも多いです。
今回は、売主が使っていたのが全国規模の金融機関だったので助かりました。もしこの方法が使えなかったら、もっと面倒なことになっていたんだろうな…と思います。
(漫画:根本尚、監修・解説:弁護士 阿部栄一郎、広之内友輝)
根本 尚/漫画家(X)
『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。
広之内 友輝/不動産投資家
不動産投資歴15年。32棟400室を所有する。北海道で、ガラガラ・ボロボロの「ワケアリ物件」に数多く投資。物件再生に関して豊富な知識と実績を持つ。楽待では「空家再生人」としてもお馴染み。
阿部 栄一郎/弁護士
2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。不動産関連のイベントや相談会への参加不動産専門紙への寄稿も行っている。
『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った。