何度か実験を繰り返している内に新型
このままでは実戦には投入出来ない。ダーヴィドと鉄華団達はこの改善策を検討していた。
「
「ラフタ……騎操士学科の授業で習っただろ。
「あ~、よくわかんねぇけどよ、その
「おめぇはホントバカだな、オルガ。
「堂々巡りだな……」
ユージンの言葉を最後にその場にいる全員が悩み、静まり返ってしまう。
その静寂を破ったのは三日月だった。彼は中等部の
「なんで?
「……そうか!
「すげぇよ、ミカは……」
「かっこわる~い!おデブちゃんになってる~!」
見学に来た
「確かに、元のグシオンみてぇになっちまってるな」
この改善案は問題点が多かった。
とにかく機体重量の増加が激しすぎる為、
厚みの増した装甲は動きを阻害し、格闘戦能力への悪影響も大きい。
防御力の向上というメリットもあるが、デメリットの方が多いと判断され、この方法は却下された。
「とりあえず、重すぎる!なんとかこいつを痩せさせねぇといけねぇな!」
そう言って、再び鉄華団と開発会議に入るダーヴィドに
「すいません親方。オルガ団長を借りていってもいいですか?僕の方でも作ったものがありまして、それの実験にオルガ団長を使いたいんです」
「待ってくれ……」
「いいよー」
「ミカ、お前っ!」
「別にオルガがここにいても正直役に立つと思えねぇしな、大丈夫だろ」
「ユージン!」
「では、借りていきますね」
ヴァアアアアアア!!
「お待ちしておりました、准将。工房主からこの庭を自由に使って良いと許可はとってあります」
「いつもすまんな、石動」
「ありがとう石動さん」
「いえ、アディ様もお気になさらず」
「で、エル。これは何なんだよ?」
腕に新装備を搭載した
ちなみに
そして、その
「これは
「おう」
「オルガ団長、出番ですよ」
「俺は何すりゃいいんだ?」
「そこに立っていて下さい!」
「は?」
「その先に俺はいるぞ!」
「発射!」
その矢はオルガへと真っ直ぐ飛んでいき、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「キッド、それは連射も出来ますよ!」
「マジか」
キッドは
再び、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「連射可能な攻城兵器です!」
「攻城兵器って……お前、どっかの城でも攻めるつもりなのか?」
「っていうか、エル君はこれを何に使うつもりで作ったの?」
──数日後──
「てなぁわけで、不満はあるが、もうどうしようもねぇ!これで完成だ!」
新型
その新型
「ワシは精々、サロドレアの改良程度とたかを
「はい、まごう事無き新型機です!」
「うむ……。何かしらの報告はしておくべきであろう」
「陛下とまで言わなくとも、
『
ダーヴィドの言ったその提案にユージンも乗る。
「
「では、報告させてもらおう」
ラウリの不安は新型機が
そんな彼らの様子を見ていた双子の兄妹は……。
「ねぇ、どうする?お父様との約束。今がその時、なんじゃないの?」
「……そうだな。
そして、セラーティ侯爵家の屋敷。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「至急、この書類をディクスゴード公の邸宅へ。確実に公本人にお渡しするように」
「かしこまりました。ただちに手配致します」
「……ディクスゴード公、これは思ったよりも厄介な事になるやも知れませんぞ」
──数日後──
「全く、よく降る事じゃのう」
ライヒアラ騎操士学園の学園長であるラウリ・エチェバルリアは窓の外を見ながら、途絶える気配のない雨に眉間を寄せ、髭を撫で擦っていた。
そんな時、学園長室の扉から唐突にノックの音が聞こえてくる。
「ふむ、どなたかの?」
「邪魔するぜ~」
扉の外からは学園の用務員を務めるオルガが入ってきた。
「オルガ殿か、どうしたんじゃ?」
「あんたに話があるらしい。来客だ」
「……客が来る予定は今日は入ってなかったはずじゃが……まぁいい。通してくれ」
「ああ、分かったよ。連れてきてやるよ!」
その来客は近くに待機していたようで、返答からまもなく学園長室の扉が再び開かれる。
その来客の姿を見て、ラウリは目を細め、顔の
「その紋章、ディクスゴード公爵配下の騎士殿とお見受けしますが……」
「いかにも、我らはディクスゴード公爵閣下配下、朱兎騎士団に所属する者です」
「その朱兎騎士団の騎士殿が、かような悪天候の中、当学園にいかなるご用ですかな?」
「本日は公爵閣下の命により訪れました。閣下より文を預かっております。お改め下さい」
ラウリは差し出された文を受け取り、中に書いてある内容を確認する。
そして、読み終えた後、彼らへとこう告げた。
「……承知した。すぐに関わった生徒達を集合させる」
工房へ集められたのはダーヴィドやバトソンなどの鍛冶師科の生徒達と鉄華団にタービンズ、石動、アディ、キッド、そして
「我々はディクスゴード公爵より遣わされた朱兎騎士団。そして私は団長のモルテン・フレドホルムである」
「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」
(ディクスゴード公爵?セラーティ侯爵じゃなくて)
アディの疑問を他所にモルテン・フレドホルムは話しを続ける。
「公爵閣下は新型機に興味を示され、実物をご覧になりたいと仰せだ。そこで諸君には新型機全てをカザドシュ砦まで搬送してもらいたい」
その騎士の言葉に対しての返答は沈黙。外の天候も相まって気まずい空気が漂う中、おずおずと親方が挙手をした。
「あー、一つ質問いいか?」
モルテン・フレドホルムが目配せで許可を示すと、彼はそれに応じて、豊かな
「なるべく急いで新型機が見てぇ、って考えにゃ異存はねぇが、何せこの天気だ。どう考えたって
「当然だ。これは公爵閣下より直々に下された命令である。この学園で騎操士課程まで上り詰めた者ならば、雨天行軍の修練も積んでいるだろう。外の天候などでは手を止める理由にはならない。直ちに準備にかかってほしい」
「どうする、オルガ?」
ユージンがオルガにそう問う。
オルガは少し逡巡した後、ゆっくりと口を開いた。
「分かった。鉄華団はあんたの側に乗ってやる」
目的地であるカザドシュ砦──フレメヴィーラ王国の北側にあるディクスゴード公爵領の玄関口に位置する朱兎騎士団の駐屯基地に辿り着いた後、この新型機開発の代表者を選出して、公爵閣下と対談をして欲しいとモルテン・フレドホルムから告げられた。
「この
「ああ、分かったよ。行ってやるよ!」
「待ってほしい、オルガ団長。ここは……私の出番だ!」
「お供します、准将!」
「は?」
ディクスゴード公爵との対談は
「暫く振りだな、エルネスティ・エチェバルリア」
「再びお目にかかれて光栄です。ディクスゴード公爵」
「お前の話しが聞きたい」
「残念ながら、我々には話し合う必要も、心を通わせる必要もないのです」
「何?」
────────────────────────────────────────────
「帰ってきたぞーーーー!!!!」
「おお!」
バトソンのその叫びを聞き、アディとキッドも街へと帰ってきた馬車へと駆け寄る。
「野郎共、変わりはねぇか?」
「親方ーー!…お帰り!」
「エル君は~?」
アディがそう言いながら、周りをキョロキョロと見渡すその様子を見て、騎操士学科の生徒達が顔をしかめる。
「あ~、それなんだが……」
「エルネスティはテレスターレと一緒にディクスゴード公爵預りとなった。付き添いの石動もな」
「え?」
所変わって、カザドシュ砦。
ディクスゴード公爵と
そして、騎操士学科の生徒達がライヒアラ学園街に辿り着いた頃、彼らの対談はついに動き出した。
ディクスゴード公爵のこの言葉を発端として……。
「現行機カルダトアの前身はサロドレア。サロドレアからカルダトアまでの世代交代には実に
「運命か……。三百年だ!」
「三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」
(何を言っておるのだ、この坊主は……?)
クヌート・ディクスゴードはいきなり大声を出す彼に困惑していた。
「この資料をご覧下さい。そこに記されている通り……」
クヌートは彼から手渡された「バエル」や「アグニカ・カイエル」と書かれた資料へと目を向ける。
「ギャラルホルンにおいてバエルを操る者こそが、唯一絶対の力を持ち、その頂点に立つ!」
彼は休む事なく、アグニカ・カイエルとバエルの説明を続けた。
三時間ほど話し続けた後、彼に『THE LIFE of AGNIKA KAIERU』という題名のアグニカの伝記(を
「ディクスゴード公爵!こちらをご覧下さい!!」
「いい加減にせぬか!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたクヌートがそう言って机を叩くが……。
「バエルを持つ私の言葉に背くとは……。仕方がない、もう一度最初から説明するとしよう」
「えっ!?」
「この中に書かれたアグニカ・カイエルの思想に私は救われた……」
そして、再び彼は三時間ほど、喋り続けた。
「アグニカの魂は、私を選んだのです!ギャラルホルンの正式なるトップとして。そして、バエルはその玉座に私が腰を掛ける事を許した。あなた方は私に従わなければならない。それを拒否するのはアグニカ・カイエルを否定する事になる」
(バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル…………)
クヌート・ディクスゴードは
──数日後──
「おっそ~~~~い!!!!」
工房にアディの声が響き渡る。
「んも~!!何で、エル君戻って来ないのよ~!そんなに公爵と意気投合したってわけ!」
アディのその言葉を聞いた三日月はバルバトスの通信回線を石動に繋げる。
《どうした、三日月・オーガス?》
「ねぇ、まだなの?」
《すまない、カザドシュ砦本部の完全掌握まであと少しだ》
「チョコは?」
《……
(チョコレート……)
彼は以前
彼はオルガのいる学園の用務員室へ足を運ぶ。
「おお、ミカ。どうした?」
彼は無言でオルガの胸ぐらを掴む。
ピギュ
「チョコレート」
「え"え"っ!?」
「買ってきて」
「離しやがれ!」
オルガは三日月を払いのけるが、機嫌が悪い彼はポケットから無造作に銃を取り出す。
また殺されると直感で悟ったオルガは謝ろうとするが、その刹那、以前の国王陛下の御前での出来事を思い出した。
《謝ったら許さない》
《勘弁してくれよ……》
《パンパンパン》
《【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】》
「謝ったら許さない」
「ああ、分かったよ。買ってきてやるよ!買ってこりゃいいんだろ!途中にどんな地獄が待っていようと、俺がチョコレートを買ってきてやるよ!」
そう言ってオルガは用務員の仕事を放り出し、街へ飛び出す。
しかし、オルガはチョコレートがどこで売っているのか検討もつかない為、テレスターレや
オルガがカザドシュ砦へ向けて飛び出していったという話はすぐに皆に知れ渡った。
「じゃあ、俺たちもオルガさんの後を追ってエルを迎えに行こうぜ!」
「賛成ーー!」
そう言って興奮する双子を押し留めたのは、
「それは出来ない!」
「エドガー先輩!」
「何で、オルガさんは良くて私たちはダメなの!?」
「オルガは……その……。と、とにかく、エルネスティは公爵の正式な
「でも、オルガはどうする?今から止めに行く?」
《俺は止まらねぇぞ!》
「いいよ、連れ戻さなくても(チョコレート欲しいし)」
「そう言う訳にはいかねぇんだよ、三日月。確かに俺らが作った
ユージンが必死に三日月を説得しようとするが、三日月は聞く耳は持たないといった様子だ。
どうしても、チョコレートが欲しいらしい。
「……そういや、ディートリヒ。あいつの改修が終わってなかったな」
「あいつ……グゥエールか?」
「あれだって、言うなりゃ新型だ。改修が終わったらここには置いて置けねぇ。なんたって、新型機は全部公爵の管理下に入るんだからな」
ダーヴィドの言わんとしている事を理解し始めた皆の顔に笑みが浮かぶ。
「てことは、新型機をカザドシュ砦まで届けなきゃいけない訳だ!俺達の手で!」
「おお!」
「それならば問題ない!」
「ありがとう、親方!」
「ついでに、道の途中でオルガも回収して行かなくちゃな!!」
「皆で、エルネスティを迎えに行くぞ!!」
それより数日の後、カザドシュ砦近隣に位置するダリエ村にて、複数の
その村を救おうとしたオルガが希望の花を咲かせた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
2週間振りの投稿です。遅くなって申し訳ない……。
実は、再来週の10月4日でノベライズ版異世界オルガも一周年になります。異世界オルガ完結から祝福オルガ投稿まで空白の期間もありましたが、読者の皆様のおかげで一年間書き続けられました。ありがとうございます!
これからのノベライズですが、だんご氏の熱い要望もあり、『オルガ細胞』のノベライズも始める事にしました!この『ナイツ&オルガ』も勿論続けます。
詳しくは活動報告の方をご参照下さい。
長くなりましたが、最後に……。
……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。