異世界オルガ   作:T oga

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デスマーチから始まる異世界オルガ7

サトゥーが赤い兜を被ったネズミ男に応急手当てをした後、そのネズミ男とそいつが「姫」と呼んだ少女をなんでも屋へと連れて行った。

 

何故、なんでも屋へ連れて行ったのかというと……。

 

ネズミ男が「姫」と呼んだ少女をサトゥーがAR表示で確認したところ、彼女の名が『ミサナリーア・ボルエナン』と出たからだ。

 

種族はエルフでなんでも屋の店長であるユサラトーヤ・ボルエナンと同じ名字でもあるから間違いなく店長の知り合いだろうとのことらしい。

 

どうやら、そのサトゥーの読みは当たっていたようだ。なんでも屋のナディと店長に彼らを任せ、俺たちは宿に戻った。

 

 

そして、朝。

 

ルルの体調も良くなったようなので、俺とミカとサトゥーは再びなんでも屋へと向かった。

(昨夜はついてこなかったが、今日はミカもついてきた)

 

「邪魔するぜ~」

「こんにちは、様子はどうですか?」

「はい、もう大丈夫ですよ。今は二人とも眠っています」

 

二人の看病で寝ていないのだろう。少し眠そうなナディが二人の容体を教えてくれた。

 

ネズミ男の方は神官に治療をしてもらい、何とか一命を取り留めたようだ。

 

「ミーアちゃんは怪我(けが)とかはないんですけど、(ひど)く疲労していて衰弱(すいじゃく)気味なんです」

 

ミサナリーア姫の愛称はミーアというらしい。

 

ナディが話している途中、二階から何やら物音が聞こえた。サトゥーもそれに気付いたらしく、ナディにこう言う。

 

「何か二階で物音がしましたけど、目が覚めたんじゃないですか?」

 

 

サトゥー、ナディと一緒にミーアの部屋を訪れる。

 

「ミーアちゃん、具合はどう?」

「誰?」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「この店の店員でナディと言うの。店長……ユサラトーヤのお店よ」

「ユーヤの」

「は?」

 

遊矢?

 

あのトマト野郎の顔を思い浮かべたその瞬間、ミカが何かを感じたようで窓の外を見る。

 

「何あれ?」

「ん?」

 

ミカと一緒に窓の外を見ると、なんでも屋の目の前に何故か黒い渦があった。

 

「何だありゃ?」

 

レディース エーン ジェントルメーン!

 

「何っ!?」

 

その瞬間、黒い渦から奴が出てきた。

 

「俺の名前は榊遊矢!」

「チッ」

「【シノォォォ!!】」

(うな)れっ!ギャラクシーキャノンッ!!発射ぁっ!!」

 

俺はシノを召喚して、奴を黒い渦の中へと還した。

 

ちなみに、昨日寝た時に夢の中に出てきた神の爺さんにカズマの世界にいた時に最終的に使えた召喚魔法をそのまま使えるようにしてもらった。

 

これで、シノと昭弘も召喚出来るようになった訳だ。

 

 

サトゥーは、眠るまでミーアの傍にいてあげるようなので、俺とミカは先に宿へと戻った。

 

 

宿ではポチやアリサたちが昨日の(のみ)(いち)で買ったカードを使い、字を覚える練習をしていた。

(何故かマクギリスもいるが、気にしないでおこう)

 

「俺もやる」

 

その輪の中にミカも入っていく。そういえば生前言ってたな。

 

色々な本を読んで、野菜のこととか勉強したい。いつか、農場をやってみたいって……。

 

すげぇよ、ミカは……。今度は読み書きまで……。

 

 

「よーし、十枚目ゲット!」

「にゅ~!」

「アリサ、強すぎるのです!」

「すごいな」

 

そこになんでも屋から帰って来たサトゥーもやって来て、声をかける。

 

「楽しそうだね」

「字~覚えてた~!」

「デュエルで」

 

文字の面のカードを見て、そこに書かれた単語を正解出来ればそのカードを獲得出来るというデュエルだ。

 

先ほどまでは、俺がカードを選んでいたのだが、サトゥーが来たため、サトゥーにカード選びを任せ、俺もデュエルに参加する。

 

 

オルガ・イツカ LP1

 

「は?」

 

乱入ペナルティ 200ポイント

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

サトゥーがカードを一枚選び、皆に見せる。

 

「じゃあ……これは何のカードだい?」

「それは『肉』なのです!」

「残念、『山羊(やぎ)』だ」

 

サトゥーが再びカードを一枚選び、皆に見せる。

 

「こっちは?」

「それも『肉』~!」

「違う」

「『狼の王』か?」

「違う」

「と思ったが、違ったようだ」

「教えてくれ、オルガ。オルガ・イツカ」

 

ミカがそう聞いてくる。あの目は裏切れねぇ。

 

「『宇宙ネズミ』!」

「違う、『(うさぎ)』だ」

 

ピギュ

 

「勘弁してくれよ、ミカ……」

 

リザも勘違いしていたらしく、驚いてサトゥーにこう聞いた。

 

「では、このカードも『鶏肉』ではなく『鶏』なのですか?」

「『鶏』ではないよ。あれは『天使』だ」

「残念、『鳥』だ」

「違ったようだ」

 

 

その後、再びナディに呼ばれたため、なんでも屋に戻ってきた。

 

アリサがミーアに会ってみたいと言ったので、アリサやポチたちも一緒に連れてきた。

 

アリサ、ポチ、タマにミーアの相手を任せ、俺たちはナディの話しを聞く。

 

「サトゥーさん達は馬車はお持ちなんですか?」

「いえ、荷馬を連れていたんですが、例の星降りのせいで逃げられてしまったんですよ」

「それは災難でしたね……」

 

そういえば、そんな設定だったな。

 

「それよりも俺らを呼びつけた用件を聞こうか?」

 

俺がそう尋ねると、ナディはこんな話しを持ち出してきた。

 

「あの、資金に余裕があればなんですが。馬車を買われませんか?」

「馬車ですか!?」

 

ナディは借家(しゃくや)の代わりとして馬車を買うのはどうかと提案してきた。

 

「あんた、正気か?俺らみたいなチンケな組織にする話じゃねぇな」

「せっかくのお話ですが、御者の経験がないので……」

「……待ってくれ」

 

サトゥーは断ろうとしたが、俺たちの話を聞いていたルルが何か言いたそうにしていたので、俺はサトゥーの言葉を(さえぎ)ってルルに話を振る。

 

「ルル、なんか言いてぇ事があんならはっきりしろ」

「えっ?」

「……お前ら奴隷は今まで何も考えてこなかったのかも知れねぇ、自分じゃ何もな……。今までどうだったかは変えられねぇ。ただこれから先は変えられる」

 

俺がいつか昭弘に言った台詞(セリフ)だ。

 

それを聞いたルルはゆっくりと、何度も()んだり詰まったりしたが、一生懸命に言葉を紡いで自分の出来る事を伝えてくれた。

 

「あ、あの私、一頭引きの荷馬車なら扱った事があります。二頭引きは扱った事はないですけど、馬車の運転を教えるくらいなら……なんとか……」

「じゃあルルに教えて貰おうかな」

「分かった。鉄華団はあんたの側に乗ってやる」

「ナディさん、そういう事なので購入させて頂きます」

「即決ですね」

 

ということで馬車を買うことになった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「旅の前に野営の練習をしましょう!」

 

アリサのそんな一言から西街の空き地で野営の練習をする事になった。

 

草を刈ったり、テントを張ったりしている内にオレは色々なスキルを覚えた。ログにはこのように出ている。

 

>【草刈り】スキルを得ました。

>【耕作】スキルを得ました。

>【開拓】スキルを得ました。

>【採取】スキルを得ました。

>【石工】スキルを得ました。

>【野営】スキルを得ました。

 

作業中、笛付きケトルのピーッという音が聞こえて来た。

 

その音を聞いたポチとタマが驚いて、こっちに走ってくる。

 

「やかん怒った~?」

「助けてなのです!やかんの人が怒るのです!」

「誰だ、そいつは?」

 

やかんの人って……。オルガも困惑してるし。

 

ポチとタマ、そしてオルガと三日月も笛付きケトルを見るのは初めてだったようだ。

 

「あれはお湯が沸いたよって、笛の音で教えてくれているんだよ」

「怒ってない~?」

「どうして沸いたらピーッてなるのです?」

 

オレはポチ達に蒸気の仕組みを教えたが、なかなか通じない。

 

「正直ピンと来ませんね」

「当たり前よ。理系の学生に教えてるわけじゃないのに水が気化したら体積が千倍になるのとか言っても理解出来る訳無いじゃん」

 

違うぞ、アリサ。1699倍だ。

 

「ホント上から目線だよな……おばさん……」

「聞こえてるわよ」

「なっ!……くっ」

 

アリサはやかんの(ふた)を外しながら、オルガ達にこう説明した。

 

「水は熱くなると、この白い煙みたいなのになるの。この煙は力持ちだから(ふた)くらいの軽いものだったら動かしちゃうのよ」

 

次にアリサは近くの草を千切(ちぎ)って風車を作る。

 

それを蒸気に当てて回転させた後、自分でも息を吹きかけて回転させる。

 

「人が息を吹きかけるのと同じ事を、この白い煙がやるから笛の音が出るのよ」

「正直ピンと来ませんね」

「アリサすごい~」

「やっと分かった」

「良くわかったのです!」

「何っ!?……散々、考えたけど、正直ピンと来ませんね」

 

オルガ以外にはアリサの説明で通じたようだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

野営練習という名目のピクニックの帰りに寄ったなんでも屋で、馬車を購入した。

 

「これでこの馬車はサトゥーさんの物です」

「ありがとうございます。これでたくさん荷物を運べます」

「ねぇ、この馬車でミーアを故郷に送ってあげましょうよ!」

 

アリサがそう提案する。それに対してサトゥーはこう質問した。

 

「故郷?ミーアの故郷って何処(どこ)なんだ?」

「エルフの里はシガ王国の南東にあるそうですよ」

「オルガ」

 

それを聞いていたミカが俺の名を呼ぶ。

 

ミカの目が俺に聞いてくるんだ。「連れていってくれるんだろ?」ってな。……あの目は裏切れねぇ。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りは出来ねぇんだ。連れてきゃいいんだろ!!途中にどんな地獄が待っていようと、お前を、お前らを俺が連れてってやるよ!!」

「ああ、そうだよ。連れていってくれ。次は誰を殺せばいい。何を壊せばいい。オルガが目指す場所へ行けるんなら、何だってやってやるよ」

 

 

サトゥーがルルに馬車の操車を教えてもらっていた時、急に天気が崩れ、雨が降ってきたので、俺たちはとりあえずなんでも屋に入る。

 

 

ちょうどいいので、この際になんでも屋の店長にミーアを故郷に送り届ける事を話す事に決めた。

 

「あんたに話がある」

「店長、実は……」

 

サトゥーが話しを切り出そうとした声を断ち切るように雷の音とナディやミーアたちの悲鳴が聞こえた。

 

「何があった!?」

「どうした?」

「て、店長……」

 

サトゥーがマップで周囲を確認したが、「敵影はなし」だそうだ。

 

じゃあ、さっきの悲鳴は一体?

 

その疑問はすぐに解消された。

二度目の落雷と同時に再び悲鳴がこだまする。

 

ナディやミーアたちは雷に怯えて、悲鳴を上げただけだったらしい。

 

「はぁ、雷に弱いだけか……」

「なんだよ……」

「雷はとても危ないの、危険なのよ?」

「そうか?」

 

雷なんて、なんてこたぁねぇだろ。神雷(ダインスレイヴ)に比べりゃあな。

 

俺は外の様子を見るため、なんでも屋を出る。

 

その時、雷が俺に直撃し、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「竜だって、雷に当たったら墜落しちゃうの、落ちちゃうの、本当よ?」

 

ミーアが必死に雷の危険性を(うった)える中、タマとミカは野外の雨を見つめていた。

 

「タマ、どうした?」

「どうした、ミカ?」

 

俺とサトゥーもタマとミカが見ている方を注視してみる。

 

するとそこには一匹のフクロウがいた。

 

そのフクロウが四度目の落雷とともに人の姿へと形を変える。

 

そして、その黒いフードを深く被った男はこう言った。

 

「迎えに来たのだよ、ミーア」

 

 




デスマオルガもあと2話ですね。(動画通り9話で完結とします)

デスマオルガの次はナイツ&オルガに決めました。いのきさんにも許可を頂いています。
ナイツ&オルガの次はRe:オルガです。その後は祝福オルガ2期になるか、百錬のオルガになるか、別の作品になるかわかりませんが、とりあえずはRe:オルガのノベライズまで頑張ります!


……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。
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