「助けて頂きありがとうございます!私はセーリュー伯爵様の家臣で魔法兵のゼナです」
「ご丁寧にどうも。私は旅の行商人のサトゥーと申します」
「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。団員を守んのは俺の仕事だ」
「誰もそこまで聞いてないけど……」
サトゥーがゼナを助けた後、俺たちはお互いに自己紹介をした。
サトゥーと話し合い、ゼナを仲間のところまで連れていくことに決めたその時、ふいに矢が飛んできて、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
矢が飛んできた方向には、
「貴様、何者だ!仲間を放せ!」
「ちょ、ちょっとリリオ。この人達は大丈夫だよ」
「ゼナっちは黙ってて」
ゼナが必死に取り成すが、向こうは警戒を解く気は無いらしい。
「はじめまして、兵士の方。私は旅の行商人でサトゥーと申します。それでこちらは護衛のオルガです」
サトゥーが兵士たちに弁明を始まる。俺が喋ると余計に疑われる可能性があるため、黙って見ていることにした。
「行商人というわりに手ぶらのようだけど?」
「……お恥ずかしい話ですが、先程の隕石に驚いて、荷馬が逃げてしまいまして……」
「隕石というのはさっきの『星降り』のことね」
「はい。祖父の恩人のお墓がある『戦士の
「そう、災難だったわね」
どうやら上手くいったようだ。サトゥーは良く口が回るな。
「では、身分証があるなら出しなさい」
身分証……?カズマの世界にあった冒険者カードみたいなもんか?
「それが荷馬に
「……いいでしょう。セーリュー市で発行して貰えばいいわ」
「お願いします」
「すまねぇ」
俺とサトゥーはリリオと呼ばれた小柄な女兵士とイオナという女騎士、そしてゼナと共に荷馬に乗ってセーリュー市へと向かう。
「サトゥーさんとオルガさんはセーリュー市に着いたら、誰か知り合いの方でもいらっしゃるんですか?」
セーリュー市へ向かう途中、ゼナが俺たちにそんな話題を振ってきた。
「いえ、残念ながら居ません。とりあえず、宿でもとろうと思ってます」
「それなら門前宿がいいですね。正門を入ってすぐのところにある宿で、少し高めですけど、清潔で食事も美味しいと評判です」
「それはいいですね。オルガ、そこにしよっか」
「ああ」
そんな話をしている間に、セーリュー市へと到着した。
「では、サトゥーさん!……とオルガさん。後でお礼に伺うので、ちゃんと門前宿に泊まって下さいね」
ゼナが別れ際にそう言う。……俺のこと一瞬忘れてたじゃねぇか……。
その後、俺たちはイオナに連れられて、詰め所へとやって来た。
イオナが詰め所にいた男(イオナからは騎士ソーンと呼ばれていた)に説明して、俺たちの身分証を発行して貰うよう打診している。
その時、俺はカズマの世界で、冒険者カードを発行して貰った時のことを思い出した。
《では、こちらの水晶に手をかざして下さい》
《【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】》
あの時、水晶が爆発したのはもしかして……。
何か嫌な予感がした俺は、サトゥーのアイテムストレージを見せてもらい、そこにあったステータス偽装用のアイテムを使った。
イオナと騎士ソーンの話が終わり、身分証を発行して貰うことになった。
「じゃあまずはボウズからだ。一応、聞いておくが、指名手配されてたり盗みを働いたりしてないな?」
「はい」
……危ねぇ。嫌な予感が当たっていたな……。
「ここが門前宿か」
俺とサトゥーの身分証を無事発行出来た後、イオナの言っていた門前宿までやってきた。
「やっぱ冬夜の世界やカズマの世界で泊まった宿と変わんねぇな……」
そんな事を感じながらも、サトゥーと共に宿へと入る。
「いらっしゃい。お客さん!」
宿に入ると、茶髪で
宿で簡単な食事を済ませた後、俺たちはマーサに市場を案内してもらうことになった。
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「このガボの実三つでいくら?」
「三つで
「高い、
「お姉さん、それじゃこっちが干上がっちまうよ、四つで
「五つで
「仕方ない、お姉さん美人だからその値段でいいよ」
市場の露店のおっさんと女の人の会話が聞こえてくる。
「値切るのが基本か」
「みたいだな」
そんな市場の雑踏の中から何やら争っている声が聞こえた。
「きったねぇ獣人風情が、東街まで来てんじゃねぇよ」
声の聞こえた方へ歩いていくと、金髪の若い男が
蹴り飛ばされた犬耳の獣人の幼女の近くに猫耳の獣人の幼女も駆け寄って来て、二人でペコペコと頭を下げるが、金髪の若い男はその子供たちを再び蹴りつける。
「何やってんだぁぁっ!」
「止まれ、オルガ」
「俺は止まれねぇ!」
金髪の若い男に殴りかかろうとした俺をサトゥーが止める。
止めるんじゃねぇぞ……。
「ここはオレに任せて」
サトゥーはそう言って、金髪の若い男と獣人の子供たちの間に割って入った。
「この子達が何か?」
>【
「はっ!アンタの奴隷か!?……ちゃんと縄付けて西街の奥に突っ込んどけ!」
金髪の若い男はそう言い捨てて、去っていった。
その後、俺とサトゥーは地面に散乱していた
「……ありがと、なのです」
「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。こんくらいなんてこたぁねぇ……」
「怪我はないかい?」
「あい」
「大丈夫、なのです」
「そうか、表通りは人が多いから気を付けてね」
サトゥーがそう言うと、獣人の子供たちは、俺たちにペコリと頭を下げた後、同じく獣人の
獣人の子供たちと別れた俺たちは、市場の衣類エリアへやって来た。俺やミカ、サトゥーの服を買うためだ。
「あ、ほら、アレ見て」
服を探しながら、市場の衣類エリアを歩いていると、マーサが何かを見つけて、走っていく。
マーサは露店に並べられている仮面の一つを取って、顔に
「これはね、竜面だよ。収穫祭のお祭りに
「どうかな。三日月・オーガス、オルガ・イツカ。無病息災家内安全の竜面だ。鉄華団には持ってこいだろう」
露店を出していた仮面の男はそう言って、竜面を
「って言うか、なんでチョコの人がいんの?」
ミカが露店の店主である仮面の男を見て、そう言う。
それを聞いたサトゥーが俺とミカに質問したが、俺たちが答える前に露店の店主である仮面の男が答えた。
「?三日月とオルガの知り合い?」
「始めまして、モンターク商会と申します」
モンターク商会と名乗った仮面の男を試すように俺はこう尋ねた。
「ところでモンターク商会さんよ。あんたの本当の名前は何て言うんだったか?」
「モンタークで結構。それが真実の名ですので」
は?
「……マクギリスだろ!」
>称号『アグニカの魂』を得ました。
「ははははっ!今ので気付いたのか。凄まじいな、その感覚……」
「……明らかにトラブルを呼びそうな称号だな」
「別に、普通でしょ」
その後、マクギリスと別れた俺たちは服を買って(サトゥーはマクギリスの売っていた竜面も買った)、宿へと帰り、夕食を食べて寝床につく。
……そう言えば、なんでマクギリスがこの世界に来てるんだ?……まぁ、また会う機会もあるだろうし、その時に聞きゃいいか。
そう自己完結させた俺は、ゆっくりと目を閉じた。