ロボットアニメが好きな者は少なくはないだろう。
だが、そのロボットが間近で戦う様を、その目で見た事はないのではないか?
もちろんアニメでは良く見る光景だとは思う。それでも、それが間近で戦う光景を見た者は現代社会には居ないはずだ。
しかし、今オレはその光景を目の当たりにしている。
大人は誰も笑いながら「アニメの観すぎだ」と言うだろう。オレもその大人の一人だったのだから。
だが、オレは絶対に、そう絶対に嘘など微塵もついていない。
時は少し
オレは遅れに遅れているプロジェクトを納期に間に合わせるために休日出勤していた。いわゆるスマートフォン用のゲームアプリやPC用のブラウザゲームなどを大手から依頼されて作成する下請け外注会社のプログラマーをしている。
いかにブラックな会社とはいえ普通一人に2プロジェクト以上割り振られることは無い。しかし仕様変更とバグの多さに後輩の若いプログラマーが納品間際に失踪してしまったのだ!
離職率の高い職場故、この会社にいたプログラマーは後輩氏とオレの二人のみ。急な補充など見込めるはずもなくオレは自分のプロジェクトだけでなく後輩氏の炎上プロジェクトの後始末までする羽目になっていた。
OJTする暇も無く実践に投入された後輩氏に文句を言っても仕方ないが、後輩氏が入社したばかりのときには四人いたプログラマーが今やオレ一人というのは、会社としてどうかとは思う。
「さ……、鈴木さん、『WAR WORLD』の難易度が初心者には難しいから直せってクライアントからクレームが来たんですがどうしましょっか」
振り返るとディレクター兼プランナーのメタボ氏が困った顔でそう聞いてきた。
あと今、佐藤って言いかけたなコノヤロウ。半年もチーム組んでるのに間違えかけるな!
「う~ん。前にボツったキャラ初回作成時のみマップ全索敵と三回分くらいのマップ殲滅ボムをボーナスにつけてやるのでいいんじゃない? 使わずにクリアしたらレア称号プレゼントとかにして得意な連中には自分から使わない方向へ持って行っとけば?」
「もう時間もないし、それで行っときますか~。じゃ鈴木さん実装よろしく」
そこからは独り言を呟きつつ黙々と作業を進めた。
後輩氏の残した無数のケアレスミスを深夜まで修正し、デバッグチームに後を任せる。
翌朝までチェックは続き、奇跡的にMMO-RPGのクライアントプログラムは納品された。
勿論まだバグは残っているだろうが、ネット配信には「アップデートパッチ」という伝家の宝刀があるので心配はいらないだろう。ユーザーからの罵声が聞こえてきそうだがオレは眠い。デバッグチームの作業中に修正した『WAR WORLD』の実行パッケージをメタボ氏に社内メールで転送して、机の下の安住の地で30時間ぶりの安眠についた。
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そして、目覚めるとオレは荒野にいた。
そう荒野だ。アメリカのグランドキャニオンあたりを想像してもらうのがいいか。
ふと、ポケットに入っていたケータイを取り出して、操作してみるが……。
「使えるわけないか」
そう独り言を呟いてケータイのブラック画面を見ると、そこには高一くらいの自分の顔が映った。
……おそらくこれは夢だ。
あまり深く考えないことにしよう。
次にオレは視界の下にある四つのアイコンとメニューと書かれたガジェットを見る。
先ほどまで作業していた『WAR WORLD』のものと同じようなガジェットだ。
そのアイコンやメニューは考えただけで操作できるらしい。
メニューはタブに分かれ、『INFO』『MAP』『ユニット管理』『ストレージ』『交流』『ログ』『設定』といったいつもの項目に『ステータス』『装備』『魔法』『スキル』といった『WAR WORLD』には存在しない欄が増えていた。
名前は『サトゥー』。『WAR WORLD』で使用するテストキャラと同じ名前だ。
ステータスを見るとレベルは1で、HP、
年齢は十五歳……潜在心理でもう一回学生生活でもしたいと思っているのかもしれない。
右下の四つのアイコンは『全マップ探査』が一つと『流星雨』が三つ。メタボ氏との打ち合わせで適当にでっち上げた初心者救済策だ。
『全マップ探査』は名前の通りマップ内の全ての範囲が索敵済みになる。また全てのユニットの弱点を初めとする詳細情報の閲覧が可能になる。
試しにスマホみたいに指でタップして実行してみる。
レーダーが全て索敵済みになり無数の敵が赤い点で表示される。レーダーの倍率を下げて広範囲を映す。
「赤ってことは、こいつら敵だな」
敵の詳細情報を閲覧してみる。
「リザードマンか、あれ?……うん。やっぱりそうだ。……ん?」
敵の中にリザードマンではないユニットがいた。……名前は『鉄華団団長 オルガ』。年齢は十九歳で、職業は召喚士?
まぁ、敵だからリザードマンと一緒に倒しちゃいますけどね。
さてと、ではゲームスタートと行きますか!
自軍の『ユニット』は多数を相手にしやすいのを選ばねば!
……そんなことを考えていた時代がありました。
『ユニット作成』……作成可能ユニットなし。
『ユニット配置』……作成済みユニットなし。
「レベル1のキャラで突撃しろとでもwww」
さすがは夢。理不尽にも程がある。
そんなことを考えている間にリザードマンが接近してきていたようだ。
「●●●●●●●!●●●●●●●●●●!●●●●●●●●!」
リザードマンが聞いたことのない言葉で何かを叫ぶ。何を言っているのかは分からないが、明らかにオレがここに居る事を確信しているかのような振る舞いだ。
これも夢らしい不条理さといえるだろう。
奴等はオレからの返答をしばらく待っていたが、オレは何も答えなかった。だって怖いじゃん。
オレが何も答えないことに
夢だから死ぬわけ無いんですけどね。怖いものは怖いけど。
綺麗に弧を描いて飛ぶ矢はオレの頬を
……死ぬわけない。そう言ったオレの先程の言葉を撤回しよう。頬が焼けるように痛い!!
ここは、本当に夢の中なのか?もし違ったとしたら…………!
「ヤバイ!!このままじゃ死ぬぞ!」
オレは死を覚悟した。しかし……。
「死なねぇ!!死んでたまるか!このままじゃ……こんなところじゃ……終われねぇっ!!」
オルガとかいう召喚士がまるでオレに渇を入れるかのようにそう叫んで、一人でリザードマンの群れに飛び込んでいった。
そして……「ミカァ!」と何度も叫びながら……死んだ。
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
ザァ、という土砂降りの豪雨のような音が、
リザードマンの群れから放たれた弓矢が、弧を描いて絶えず飛んでくる。
この状況に対するオレの選択肢は多くない。このまま座して死ぬか、矢の雨の合間を狙って逃げるか────
視界の端に表示されたままだった三つある『流星雨』のアイコンの一つを選択する。
消滅パターンを残して、アイコンが消えた。だがそれだけだ。
「そんなっ!未実装でしたってオチなんて最悪じゃないか……」
焦るオレを更に
「くそっ!バグで敗北とか、バッドエンドにもほどがあるぞ!」
その時だった。空から無数の流星と共に白いロボットが舞い降りたのは……。
「管制制御システム、スラスター全開」
オレは
おまたせ。
ようやく冒頭のシーンに戻るわけだ。
本名、鈴木一郎。キャラ名、サトゥーの異世界生活はこんな感じで始まった。
次回の『デスマーチから始まる異世界オルガ2』は前編(1.5話)と後編に分けます。
それと前回の話の後書きで予告した通り、オリジナルストーリーの異世界オルガ4.5をデスマオルガの伏線回として投稿しましたので、そちらも読んで頂けたら嬉しいです。