異世界オルガ   作:T oga

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祝福オルガ9

屋敷の幽霊騒動から数日後、俺は特にすることもなく街をふらついていた。

 

「……ここか……」

「……ああ……」

「ん?」

 

街を歩いていると、裏路地から見知った声が聞こえてきた。

 

裏路地に入ると、道の往来(おうらい)でコソコソしながら、一軒の店の様子を(うかが)っているオルガとシノがいた。

 

「目の前のおっ○いの方がずっといいけどな!」

「お前ら、何やってんの?」

 

 

 

 

 

カズマが俺たちに声をかける数分前。

 

俺は数日前に新しく召喚出来るようになったシノに連れられ、とある店へとやって来た。

 

シノは俺に召喚され、この世界に来てすぐにこの店を見つけ出したらしい。

 

「……ここか……」

「……ああ……。飲んで食ってだけじゃ物足りねぇよ。やっぱここは女だろ、女!乳ブラブラさせてる女が目の前にいんのに、手が出せねぇんだぜ!なぁ、オルガ!」

「……シノは、ラフタを探しに行った昭弘とはえらい違いだな……」

「俺は遠くにいて会えない女よか目の前のおっ○いの方がずっといいけどな!」

 

シノとそんなやり取りをしていたその時、カズマに声をかけられた。というわけだ。

 

「お前ら、何やってんの?」

 

 

俺はシノ、そしてカズマと共に、若干(じゃっかん)の緊張を(にじ)ませながら、その店の中へと入る。

 

「いらっしゃいませー」

 

店に入ると、エロい格好のお姉さんが魅惑(みわく)的な笑顔で出迎えてくれる。

 

席に案内され、ソファに腰掛けると、お姉さんはこう切り出した。

 

「お客様」

「あ……はいっ」

「こちらのお店は初めてですか?」

「は、はいっ」

 

カズマは緊張してDT丸出しの応対をしているが……俺は……。

 

「あぁ……あるに決まってんだろ!」

 

と、見栄を張った。

 

そんな俺の虚勢(きょせい)を知ってか知らずか、お姉さんは微笑(びしょう)を浮かべ、説明を始めた。

 

「それではご説明しますね」

「……ぉ願いします……」

「オネガイシマス!」

「私たちサキュバスはこの街の男性冒険者と共存共栄の関係を築いています。冒険者の方々は馬小屋暮らしの方が多いですよね」

「はい」

 

俺たちは馬小屋暮らしとは違うが……どうでもいいな。

 

「そうなると男性は色々と溜まってくると思います。しかし周りには他の冒険者が寝ているので、ナニすることも出来ません」

 

他の冒険者……ミカのことか……。

 

「そこで、私たちサキュバスが男性冒険者たちにスッキリする夢をお見せするんです」

 

一通りの説明を終えたサキュバスのお姉さんから一枚の紙を手渡される。

 

「ご注文はこちらのアンケート用紙に希望の夢の内容をご記入下さい」

「おっしゃ、待ってました~!今日はどうすっかな~!」

 

そのアンケート用紙を一番に受け取ったシノは何やら色々と書き始めた。

 

俺もアンケート用紙に目を落とすと、気になる点があった。質問しようとしたのだが、その前にカズマがこう尋ねる。

 

「え?……あの、夢の中での自分の状態、性別、外見って項目が有りますけど……これは?」

 

カズマも俺と同じ事が気になったようだ。

 

「王様や英雄になってみたいなどですね」

「火星の王になる……」

「女性側になってみたいというお客様もいらっしゃいます」

 

女性側……ということは、俺もダクネスみたいなドMクルセイダーに……。

 

「年端もいかない少年になって、押し倒されたいというお客様もいらっしゃいました」

「マクギリスじゃねぇか……」

「……大丈夫なのだろうか?この街の男達は」

 

その後、アンケートを記入し終わった俺たちは店を出た。

 

シノは相部屋の相手がミカだから今日は一人で宿に泊まりたいと言い出したので、途中で別れたが、俺とカズマは足早(あしばや)に屋敷へと帰った。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

屋敷に戻って来て、夕食と入浴を手早く済ませた俺とオルガは自分の部屋へと草々(そうそう)に引き()もった。

 

部屋に閉じ()もって、鍵を掛け、窓の鍵を外しておく。

 

別に鍵を外せと言われた訳ではないが、念のためだ。

 

わざわざ、サキュバスのお姉さんに来て頂くのに、これ以上お手数かけては申し訳ない。

 

時計がないので正確な時刻は分からないが、アンケート用紙に記入した就寝(しゅうしん)予定時刻は(せま)ってきている。

 

それまでに眠らなければいけないのだが、色々な興奮と緊張で眠れない。

 

ヤバイ、ドキドキしてきた!

 

ああ、どうしようどうしよう、緊張と期待で興奮して眠れない!

 

 

……俺はベットから這い出て、風呂場へと向かった。

 

体を温めれば、良く眠れるかも知れないと思い立ったからだ。

 

 

俺は浴場の(あか)りをつけ、扉に入浴中の札を掛けて、風呂に湯を張り、浴槽の中でのんびりと手足を伸ばす。

 

そのまま深く息を吐き、何となく眠くなって目を閉じた。

 

 

……俺は一体どれくらいの間そうしていたのだろうか?

 

脱衣場の外からカラン、と何かが落ちる音がして目を開けた。

 

気のせいかと思ったが、こんな静かな中で聞き間違えるとも思えない。

 

扉に掛けてあった札が落ちたのだろうか?

 

それに知らない間に風呂場の(あか)りも消えている。なんでだろう?

 

……まあ、いいか。俺は暗視スキルを持ってるし、月明かりだけでも充分明るいしな。

 

そう、呑気(のんき)に構えていると、……脱衣場に人影が見えた。

 

誰だ?シノは宿に泊まっているし、三日月さんはあまり風呂に入りたがらないから違う。

 

俺が部屋から出てくる時、オルガはすでに寝ていたので、オルガも多分違うだろう。

 

ということは……。考えられるのは、アクアかめぐみん、ダクネス、フミタンの内の誰かだ。

 

って、おいおいおい!

 

俺は慌てて声を上げようとして気がついた。

 

明らかに誰かに仕組まれたようなこの展開に(おちい)る前、俺は眠気を感じて目を閉じていた。

 

つまり、この状況は……。

 

「夢か!」

 

俺がそう判断したと同時に風呂場の扉が開く。

 

誰だ!アクアかめぐみんかダクネスかフミタンか……!

 

「お、おう」

 

……オルガじゃねぇか……。

 

「何だよ、カズマ。お前も眠れねぇのか?」

 

……何これ、おかしい。本当におかしい……。

 

 

「この曲者(くせもの)ー!皆、出会え、出会え!」

 

その時、屋敷にアクアの声が響いた。

 

俺とオルガは腰にタオルを巻いて、アクアの声が聞こえた広間まで様子を見に行く事にした。

 

 

タオル一丁で広間に出ると、そこには昼間見たお姉さんのサキュバスより幼げな、小柄なサキュバスの女の子がアクアの手によって、押さえられていた。

それにめぐみんもパジャマ姿のまま、サキュバスを威圧(いあつ)している。

 

「カズマ、見て見て!私の結界に引っ掛かって身動き取れなくなった曲者(くせもの)が…………。って、こっちにも曲者(くせもの)がいた!」

「誰が曲者(くせもの)だ!俺達は眠れないから風呂に入ってただけで……ってサキュバス!?」

「ええ、サキュバスよ!このサキュバス、きっとカズマ達を狙ってやってきたのね!」

「勘弁してくれよ……」

 

つまり、このサキュバスの子は俺達に夢を見させる為にコッソリ枕元(まくらもと)に立とうとしたが、アクアの張っていた結界とやらに引っ掛かって、捕まってしまったということらしい。

 

「さくっと悪魔(ばら)いしてやるわ!」

「大人しく(めっ)されるがいい!」

「ひっ!」

 

(おび)えるサキュバスの子を退治しようとするアクアとめぐみん。

 

「観念するのね!今飛びきり強力な対悪魔用の……!」

 

俺は無言でサキュバスの前に立ち、両手を広げ、(かば)いながらこう言った。

 

「ニゲロ……」

「えっ!?で、ですが……」

「何やってんの、カズマ?その子はアンタたちの精気(せいき)を狙って襲ってきた悪魔なのよ!?」

「正気ですか、カズマ!?可愛くても、それはモンスターなんですよ!」

「どうしたというのだ、カズマ!?はっ!?まさか、サキュバスに魅了(みりょう)されて……」

 

アクアとめぐみんは俺に(するど)く叫び、ダクネスは見当違いの事を言っているが、何を言われようとも俺はサキュバスを(かば)うのを止めるつもりはない。

 

そんな俺にサキュバスが皆に聞こえないように小さい声でこう言う。

 

「お客さん、こんな状況になったのは侵入出来なかった未熟(みじゅく)な私が悪いんです……。お客さんに恥をかかせる訳にはいきません……。私は野良サキュバスとして退治されますから、お客さんは何も知らないフリを……」

 

それを聞いていたオルガがサキュバスの手を引き、こう叫ぶ。

 

「いいから行くぞ!」

「団長さん!?」

「イケッ……オルガ……」

「すまねぇ、この恩は忘れねぇ」

 

オルガがサキュバスの手を取って、玄関まで走る。

その様子を見たフミタンはオルガもサキュバスに魅了(みりょう)されたと勘違いしたようだ。

 

俺はサキュバスが逃げた事を確認した後、アクア達に向かって、拳を構え、ファイティングポーズを取った。

 

「オルガまで……。どうやら、アンタたちとはここで決着をつけないといけないようね」

「イクゼ……」

「アンタたちをけちょんけちょんにした後、そこのサキュバスに引導(いんどう)を渡してあげるわ!」

 

俺とアクアの闘いが始まろうとした、その時だった。

 

部屋から出てきた三日月さんが、無言で銃をポケットから取り出して……。

 

 

パン!パン!パン!

 

 

…………俺は死を覚悟した。

 

三日月さんに殺される。直感的にそう(さと)った。

 

 

しかし……。

 

 

「何だよ、結構当たんじゃねぇか……」

 

俺は死ななかった。

 

サキュバスを玄関口まで逃がしたオルガが、俺を(かば)い、三日月さんの銃弾を全て背中で受け止めたのだ。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガ、ありがとな……。

 

 




オルガインキュバスの所はこのすばの原作通りサキュバスに変更しました。

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