異世界オルガ   作:T oga

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祝福オルガ8

ゾンビメーカー討伐の翌日。俺達はとある魔道具店へとやってきた。

 

「おし、着いたぞ。いいか、アクア。今の内に言っとくが、絶対に暴れるなよ。喧嘩するなよ。魔法使うなよ。分かったか」

「ちょっと、カズマ。何で私がそんな事しなきゃなんないのよ?一度言っておきたいんだけど、カズマって私を何だと思ってるの?私、チンピラや無法者じゃないのよ?女神よ、神様なのよ」

 

俺の注意に文句を言うアクアと三日月さん、オルガを連れて、俺は店の扉を開けて店内へと入った。

 

「邪魔するぜ~」

「いらっしゃ……ああっ!?」

「ああーっ!出たわね!昨日のクソアンデット!アンタこんな所で店なんて出してたの?女神である私はあんな貧相(ひんそう)な宿に寝泊まりしてるってのに!アンタはお店の経営者って訳!?リッチーのくせに生意気よ!こんな店、神雷(じんらい)を落として(つぶ)してやるわ!」

「ダインスレイヴじゃねぇか……」

「おい、やめろ!あと、貧相(ひんそう)な宿も言うな!宿主に悪いだろ!」

 

店に入るなり、いきなり俺の注意を忘れて暴れだしたアクアの頭をダガーの柄で軽く殴る。

 

そのまま後頭部を押さえてうずくまるアクアをよそに、俺は(おび)える店主に挨拶した。

 

「ようウィズ。約束通り、会いに来たぞ」

 

 

彼女の名はウィズ。

 

普通の女の人に見えるが、その正体はリッチー。アンデットの王である。

 

「火星の王……」

 

ピギュ

 

「勘弁してくれよ……」

 

ウィズはリッチーなのにやさしい子で、毎夜(まいよ)墓地を彷徨(さまよ)う魂を天に(かえ)してあげていた。

 

いろいろあって、俺達はその仕事を代わりに引き受けて、彼女を見逃してあげたのだ。

 

俺はその時、ウィズにもらったメモを頼りにこのウィズが(いとな)んでいる魔道具店までやってきた。

 

「……ふん。お茶も出ないのかしら?この店は」

「あっ、す、すいませんっ!今すぐ持ってきますっ!!」

「持って来なくていい!いや、客にお茶出す魔道具店なんてどこにあるんだよ」

 

陰湿(いんしつ)なイビリをするアクアの言う事を素直に聞こうとするウィズを止める。

 

「止まるんじゃねぇぞ」

「あっ、こら!オルガ!」

「すいません!やっぱり、持ってきます~!」

 

オルガの追い討ちでウィズは涙目になりながら、お茶を()れにカウンターに走っていった。

 

 

「ど、どうぞ……」

 

ウィズが()れてきてくれたお茶に全く口をつけないのも悪い。仕方なくお茶を一口飲んだ俺は早速、本題に入る。

 

「ウィズ。ポイントに余裕が出来たから、スキルを何か教えてくれないか?」

「わかりました!それでは私のスキルをお教えしますね」

 

 

俺はウィズに【ドレインタッチ】というスキルを教えて貰い、それを覚えるため冒険者カードを取り出した。

その冒険者カードには【ドレインタッチ】以外に【止まるんじゃねぇぞ……】というスキルも習得可能スキルの中に入っていた。

 

「これは?」

「それは、団長さんの宴会芸スキルです」

「あんた……。この店で働いてたのか?」

 

俺の疑問に答える形でカウンターから出てきた女性はなんと、フミタンだった。

 

フミタンに話を聞くと、彼女はこの世界に転生して右も左も分からず、困惑している所をウィズに助けられ、ウィズの住むこの店に厄介になっていたらしい。

 

 

「って言うか、オルガの蘇生魔法って宴会芸スキルだったのか!?」

「ああ、もう少し持つかと思ったんだが……そうだな……丁度いいのかもな」

 

オルガは俺にも【止まるんじゃねぇぞ……】スキルを覚えて欲しいみたいだが……。

 

自力蘇生にしろ、アクアの蘇生魔法にしろ一度、天界を経由する必要があるため、俺が覚えるには魔力が非常に高い。それに前回の冬将軍の時も俺は即死してしまったので、詠唱が必要な【止まるんじゃねぇぞ……】スキルは相性が悪い。そのため、この【止まるんじゃねぇぞ……】スキルの習得にスキルポイントを使うメリットは少ない。

 

また、俺はどこに行っても、基本はアクア同伴(どうはん)なので、もし死んでしまった時の蘇生はアクアに任せた方がいい。

 

「これはいらないな」

 

俺は【止まるんじゃねぇぞ……】スキルは覚えずに【ドレインタッチ】だけを覚えた。

 

「習得完了!」

「何やってんだ~!」

「あたりまえじゃん」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「ごめんください。ウィズさんはいらっしゃいますか?」

 

俺たちがウィズの魔道具店でお茶を飲んで休んでいた時、一人の男がウィズを訪ねて来た。

 

「最近、この街の空き家に何故か様々な悪霊が住み着いてしまったのです。何度(はら)ってもすぐに新しい悪霊が住み着いてしまって……。冒険者ギルドにも相談したのですが、対処出来ないと断られてしまいました……。それでウィズさんに何とかしていただけないかと……」

 

悪霊の討伐クエストを出して退治しても、またすぐに新しい悪霊が住み着いてしまう。確かに冒険者ギルドじゃ対処出来ねぇ問題だな……。

 

「なんでウィズのとこに相談に来たの?」

 

ミカが疑問に思ったようで、その男にそう質問する。

 

「ウィズさんは店を出す前は高名な魔法使いでしてね。商店街の者は困った事があるとウィズさんに頼むのですよ。特にアンデット(がら)みの問題に関してはエキスパートみたいなものでして……。それでこうして相談に来たのですよ」

 

なるほどな。ウィズはリッチー。火星の王……じゃなくて、アンデットの王だ。アンデットに関する問題は冒険者よりもウィズのがプロフェッショナルだ。

 

その話を聞きながら、カズマが何か思い付いた様で、男にこう話を切り出した。

 

「その依頼、俺達に任せてもらえませんか!その代わり、悪霊を(はら)った後の空き家を買いたいんですけど……」

 

 

街の郊外に(たたず)む一軒の屋敷。そこに俺たちはやってきた。

 

宿で寝ていためぐみんとダクネスの二人にもウィズの店を訪ねて来た男の話をして、七人全員で悪霊が住み着いたという屋敷までやってきた。

 

七人……俺とミカ、カズマにアクア、めぐみん、ダクネス、そしてフミタンの七人だ。

 

フミタンはこれ以上、ウィズの店に世話になる訳にはいかないと言い出して、俺たちについてきたのだ。

 

「ここか~」

「悪くないわね。ええ、悪くないわ」

「しかし、除霊(じょれい)の報酬として、ここに住んでいいとは……太っ腹な大家さんだな」

「でも、大家さんが言うには、(はら)っても、(はら)ってもすぐにまた霊が現れるらしいぞ」

「いいから行くぞ!」

 

俺たちは屋敷の中へと入っていった。

 

 

そして、夜半過ぎ。

 

俺たちは、各自の部屋割りを決め、屋敷でくつろいでいた。ちなみに俺はカズマと同室だ。

 

俺は部屋のベットで寝転がっているカズマにこう質問する。

 

「カズマ、この屋敷の悪霊はどうするんだ?」

「ああ、それなら俺らは何もしなくても問題ないよ。この屋敷に女神であるアクアが住み着けば、朝までには悪霊の(たぐ)いは出ていってくれるんじゃないかって思ってる」

「もし、出ていかなかったらどうすんだ?」

「あいつのアンデットホイホイな性質で逆にアクアの部屋に悪霊が集まって、キレたアクアが悪霊をまとめて浄化してくれるだろう。多分」

「確かに……そうだな」

 

なんとかなりそうだ。そう思ったその時、アクアの叫び声が聞こえた。

 

「あああああああっ!わああああああーっ!」

「なんだ!?」

 

その叫び声を聞いて、カズマはベットから飛び起きた。

 

 

慌ててアクアの部屋に駆けつけたカズマは勢い良く部屋の扉を開けながら、こう言う。

 

「どうしたっ!おいアクア、何があった!大丈夫かっ!」

「慌てんな、落ち着けカズマ」

 

部屋には大事そうに(から)酒瓶(さかびん)を抱え、泣いているアクアがいた。

 

「うっ……、ううっ……。カ、カズマぁぁ……」

「おい……」

「これは大事に取っておいた凄く高いお酒なのよ。お風呂から上がったらゆっくりちびちび大事に飲もうと楽しみにしてたのに……。それが、私が部屋から帰って来たら、見ての通り(から)だったのよおおお!」

 

その酒は以前の雪精(ゆきせい)討伐の後、冒険者ギルドでやった飲み会の時に、俺が()けた酒だった。

アクアは「部屋から帰って来たら(から)だった」と言っているが、それは実は一昨日(おととい)くらいから(から)だったのだ。

 

「……そうか、じゃあお休み。また明日な」

「これは悪霊の仕業(しわざ)よ!ちょっと私、屋敷の中を探索して、目につく霊をしばき回してくるわ!」

 

そう言って、アクアは部屋を飛び出していった。

 

「【ターンアンデット】【ターンアンデット】!【ターンアンデット】!!【ターンアンデット】!!!【ターンアンデット】!!!!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

一体どれほど眠ったのか。俺は、ふと夜中に目が醒めた。

 

隣のベットではオルガがまるで死んでいるかのように寝入っている。

 

屋敷の中は静まり返り、深夜はとっくに回っているだろう。

 

尿意を感じた俺はベットから起き上がろうとしたのだが、その時、部屋の隅からなにやら音が聞こえた。

 

カタンッ!

 

その音は静まり返る屋敷の中にとても大きく響き渡った。

 

その音がした方を(おそ)(おそ)る見てみると、そこには小さな西洋人形が置かれていた。

 

……怖っ!あんな人形、この部屋にあったっけ?

 

カタンッ!カタンッ!

 

その音は何度も何度も繰り返し響き渡る。俺は恐怖を感じ、きつく目を(つむ)った。

 

カタンッ!カタンッ!カタンッ!

 

…………だ、大丈夫だ……。この屋敷にはアクアがいる。俺達には女神がついてるんだ。

 

悪霊?何それ、おいしいの?そんなもんアクアさんにかかれば、チョロいもんだろ。なんせウチのアクアさんはリッチーですら浄化させた女神ですぜ?大丈夫だ、問題ない。

 

カタンッカタンッカタンッカタンッ!!

 

ああ、朝になったらアクアに今までの事を謝ろう。俺は確かに女神様に対してちょっと扱いが雑過ぎたな。

うん、あれだ。反省してる。反省してます。

 

カタカタカタカタ、ガタガタガタガタッ!

 

ああああああああああマジで今までの事謝るから!

 

謝るから、どうかアクア様、助けて下さいっ!

 

 

………………俺の懺悔(ざんげ)と祈りが届いたのか、部屋に響いていた音はピタリと()んでいた。

 

はぁ、良かった。やっぱり悪霊なんていなかったんだ。さっきのはきっと俺の勘違いだったんだ……。

 

俺は少しだけ安心する。

それと同時に、ある欲求が湧き上がった 。

 

目を開けたい。

 

目を開けて、さっきの人形が今どうなってるのか確認したい。

だが、俺の(かん)みたいな部分が全力でそれは()めとけと(ささや)いている。

 

どうしよう、マジで気になる。だが、目を開けるのは怖い。でも、このままも怖い!

 

俺はしばらく悩み、このままではトイレにも行けない事を思い出す。

 

俺は意を決して、ゆっくりとその目を開け…………。

 

すぐ目の前で俺の顔を覗きこむ西洋人形と目が合った。

 

「はあああああ!わああああああああああ!!」

 

俺は魂を(しぼ)りだす様な絶叫(ぜっきょう)を上げ、ベットから飛び起きて部屋を飛び出した。

 

 

俺はアクアの部屋へ続く廊下を裸足(はだし)でひた走っていた。

 

背後からはさっきの人形達が追ってきている。

 

ガタンッ!ガタタタタタタッ!カタカタカタカタッ!

 

背後に嫌な音と気配を感じながら、アクアの部屋に着くと、ノックもせずに部屋に飛び込んだ。

 

「アクアー!アクア様~!助けt……!」

 

部屋に入ると、そこにアクアの姿は無く、目の前には両目を(あか)く輝かせた黒髪の少女が暗闇の中、ベットの上に座っていた。

 

「ギィヤァァァァァァァァァァ!」

「ファァァァァァァァァァ!」

「ワァァァァァァァァァァ!」

 

思わず悲鳴を上げる俺につられて、目の前の黒髪の少女も悲鳴を上げる。

また、部屋の隅からも悲鳴が聞こえてきた。

 

だが、その声には聞き覚えがあった。悲鳴を上げた二人を良く見てみると…………めぐみんとフミタンだった。

 

「って、めぐみんとフミタンか……。脅かすなよ。危うく漏らすとこだったぞ。おい」

「それはこちらの台詞(セリフ)です」

「なんでカズマがこの部屋に飛び込んでくるんですか、アクアが帰って来たのかと思ったのに」

「そういや、なんでアクアの部屋にめぐみんとフミタンがいるんだ?」

「……いや、その……」

「人形が……ですね。あちこちで……動いておりまして」

「それと……アクアに、ですね。……トイレまで着いてきてもらいたくて……」

「めぐみん、お前もか……」

 

フミタンは人形が怖くてアクアに助けを求めて、めぐみんはそれに加え、トイレに着いてきてもらいたくてアクアの部屋に来たようだ。

 

しかし、冷静に考えて見ると、今アクアは徐霊(じょれい)のため、屋敷内を探索しているはずだ。ここにいるはずもない。

 

……という事は、このまま部屋でじっとしてればアクアが徐霊(じょれい)を完了させるはずだ。

 

悪霊の問題はアクアに任せるとして……もう一つの問題はなんとかしないといけない。

 

「なあ、めぐみん、フミタン。ちょっとあっち向いて耳を(ふさ)いでてくれないか?ちょっと失礼して、ベランダから……」

「っ!///……わかりました」

 

フミタンが照れて、目を(つむ)り、耳を(ふさ)ぐ。

 

しかし、めぐみんは行かせまいと俺の手を掴んだ。

 

「おい、めぐみん。何してんだよ。放してくれ。さもないと、俺のズボンとこの部屋の絨毯(じゅうたん)が大変な事になる」

「行かせませんよ。何一人でスッキリしようとしてるんですか。私達は仲間じゃないですか?トイレだろうとどこだろうと逝くときは一緒です」

 

めぐみんはそう言って、笑みを浮かべる。

 

「ええい、放せ!こんな時だけ仲間の絆を主張するな!お前、紅魔族はトイレ行かないとか言ってたじゃねーか!なんならそこに()いた酒瓶(さかびん)が転がってるから!」

「今、とんでもないことを口走りましたね!」

「さぁ!さぁ!やれよ!やってみろよ!」

「その()いた酒瓶(さかびん)で私に何をしろと!?」

「お○っこだよ!」

「させませんよ!私でもカズマが用を足そうとしている所を、後ろから揺らしてやるぐらいはできますからね!」

「騒がしいな」

「どうしたの?」

 

俺とめぐみんが言い争ってる所にオルガと三日月さんも騒ぎを聞きつけ、やってきた。

 

 

「カズマ、いますか?」

「いるよ」

「俺もいるぞ!」

「本当にいますか?」

「いるぞ!」

「いるって」

 

オルガと三日月さん、そしてフミタンにも着いてきてもらって、俺達はトイレにやってきた。

皆で集まっていれば、霊も寄ってこないだろうと思ったからだ。

 

先に用を済ませた俺は、めぐみんが出てくるのをトイレのドアの前で待っていた。

 

 

「さすがにちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」

 

めぐみんが突然、そんな事を言い出した。

 

それを聞いた三日月さんは銃を取り出しながらオルガの名前を呼ぶ。

 

「オルガ!」

 

パン!パン!パン!

 

「団長さん!?」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

♪キボウノハナー♪

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

……やっぱすげぇよ、三日月さんは。

 

 




元動画のクーデリアの叫び声やライドの例のセリフはフミタンに変更しました。

あと、最後の死んだオルガの魂が人形と混ざり合うところが再現出来ませんでした。許して……。

「許さない」
「え"っ!」

パン!パン!パン!

「団長!何やってるんだよ、団長!」

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