異世界オルガ   作:T oga

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今回は元動画にないオリジナルです。



祝福オルガ7.5

街から外れた丘の上。

 

そこには、死んでいった者たちが埋葬(まいそう)されている共同墓地がある。

 

今回請けた依頼は、夜中に共同墓地に湧いて出るというアンデットモンスターの一種ゾンビメーカーの討伐だ。

 

ゾンビメーカーはゾンビを操る悪霊で、自らは質のいい死体に乗り移り、手下代わりに数体のゾンビを操るモンスターらしい。

 

 

夜道を歩きながら、カズマがこうぼやく。

 

「何で、夜中にクエストを請けなきゃいけないんだよ……。こんなの時間外労働じゃないか……」

「何よ!女神である私の決定に(そむ)くわけ?」

 

そのカズマのぼやきに対して、アクアがそう言う。アクアの台詞(セリフ)に俺は既視感(デジャヴ)を覚えた。

 

《バエルを持つ私の言葉に(そむ)くとは》

 

「マクギリスじゃねぇか……」

 

 

デュラハンの討伐や雪精(ゆきせい)、冬将軍の討伐で高収入を得た俺たちがなぜ、こんな真夜中のクエストを請けたのか……。簡単な話だ。

 

 

雪精(ゆきせい)討伐クエストで俺たちのパーティが冬将軍を倒した事はギルド内であっという間に噂になった。

 

《おいおい、冬将軍倒したんだってな!(おご)れよカズマ!》

《お前、あのベルディアとかいう魔王軍の幹部を倒した時の金も残ってんだろ~!(おご)(おご)れ~!》

《うひょー!カズマ様~!(おご)って、(おご)って~!》

《あ~、もううるさい!いいよ、(おご)ってやるよ!!皆、好きなだけ飲め~!》

 

そして、朝になると金は無くなっていた……。

 

 

真夜中のクエストは雑魚モンスターでも高収入を得られるようなので、この依頼を請けたという訳だ。

 

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカーの討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデットが出そうな予感がするんですけど」

 

そう言ったアクアにカズマがつっこむ。

 

「おい、そう言った事言うなよ。それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを数体討伐。そして、取り巻きのゾンビもちゃんと土に(かえ )してやる。そして、とっとと帰って宿で寝る。計画以外のイレギュラーが起こったら、即刻(そっこく)帰る。いいな?」

「ああ、俺らがこれ以上危ない橋を渡る必要はねぇ」

 

カズマの言葉にパーティメンバーが皆、こくりと頷く。

 

「いいかお前ら。今までみたいに誰かを殺しゃ終わりって戦いじゃねぇ。この戦いは俺ら全員が生き残ること、それが目的なんだ。生きて、生き延びることで、あいつらに一泡吹かせてやるんだ。いいな、絶対に引くんじゃねぇぞ!」

「オルガ、言ってることめちゃくちゃだぞ」

 

 

墓地に向かって歩いていると、墓場の中央で青白い光が見えた。

 

「……あれ?ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……?」

 

めぐみんが自信無さげに呟いた。

 

遠くに見えるその青い光は大きな円形の魔方陣。その魔法陣の中に黒いローブの人影が見えた。

 

そして、その黒いローブの周りには、ユラユラと(うごめ)く人影が数体見えた。

 

それに対してダクネスは、大剣を胸に抱えたままこう言う。

 

「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる以上、アンデットに違いないだろう」

「まっ、待ってくれ!」

 

 

その時、アクアがとんでもない行動に出た。

 

「あーーーーーーーーっ!!!!」

 

突然、叫んだアクアは何を思ったのか、ローブの人影に向かって走り出す。

 

「ちょ、アクア止まれ!」

「止まるんじゃねぇぞ」

 

カズマの制止も聞かずに飛び出していったアクアはローブの人影に駆け寄るとビシッと人影を指差した。

 

「リッチーがノコノコとこんな所に現れるとは、不届きなっ!成敗してやるっ!」

 

アクアの言葉を聞いた俺はカズマにこう質問する。

 

「なぁ、カズマ。リッチーって何だ?」

「ああ、リッチーって言うのは……ヴァンパイアと同じくらいメジャーなアンデットだよ。…………なんて説明すればいいかな?…………めぐみん頼む」

「リッチーとは、ヴァンパイアと並ぶアンデットの最高峰で、魔法を極めた魔法使いが自らの身体(からだ)を捨て去り、ノーライフキングと呼ばれるようになったアンデットの王です」

「火星の王か?」

「違います」

「なんだよ……」

 

つまり、強い未練(みれん)(うら)みで自然にアンデットになってしまったモンスターとは違い、自らの意思で自然の摂理(せつり)()じ曲げて神の敵対者になった者。らしいのだが……。

 

「や、やめやめ、やめてええええええ!誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとするの!?やめて!やめて下さい!」

「うっさい!黙りなさいアンデット!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもない事企んでるんでしょ!なによ、こんな物!こんな物!」

 

そのリッチーは、ぐりぐりと魔法陣を踏みつけるアクアの腰に泣きながらしがみつき、魔法陣の破壊を食い止めていた。

 

「やめてー!やめてー!!この魔法陣は今だ成仏出来ない迷える魂を天に(かえ)してあげる為の物です!(あや)しげな魔法陣じゃありません!ロクでもない事なんて企んでません~!」

 

確かにリッチーの言う通り、青白い人魂(ひとだま)のようなものが魔法陣に入ると、その魔法陣の光と共にその人魂(ひとだま)が天へと吸い込まれていく。

 

「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行(ぜんこう)はアークプリーストの私がやるから、アンタは引っ込んでなさい!」

 

アクアな杖を構えながらこう続ける。

 

「見てなさい!そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してあげるわ!」

「ええっ!?ちょ、やめっ!」

「まっ、待ってくれ!」

 

慌てるリッチーに構いもせず、アクアは杖を掲げ、大声で叫ぶ。俺もなぜか嫌な予感がしたため、アクアを制止しようとするが、……遅かった。

 

「【ターンアンデット】!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

……なんで、アンデットじゃないのに、俺まで……。

 

 

墓場全体が、アクアを中心に白い光に包まれた。リッチーの作った魔法陣に集まっていた人魂(ひとだま)もその光に包まれて、消えていった。

 

そして、その光はもちろんリッチーにも(およ)び……。

 

「きゃー!体が、体が消える!やめて、やめてっ!消えちゃう!成仏しちゃう~!」

「あはははははは!愚かなるリッチーよ!自然の摂理(せつり)に反する存在、神の意に(そむ)くアンデットよ!さあ、私の力で欠片(かれら)も残さず消滅するがいいわ!あはははははは!」

「アクア……まるで悪役だな」

 

《まるで将棋だな》

 

冬夜じゃねぇか……。

 

 

「って、おい!やめてやれ」

 

カズマがアクアの後頭部を手刀(しゅとう)で叩く。

 

「ッ!?い、痛っ!痛いじゃないの!アンタ何してくれんのよ、いきなり!」

 

後頭部を叩かれ、集中が途切れたアクアは光を放つのをやめ、頭を押さえながら、涙目でカズマに食いかかる。

 

カズマはそんなアクアを無視して、リッチーにこう話しかけた。

 

「おい、大丈夫か?えっと、リッチーでいいんだよな?あんた」

 

リッチーを良く見ると、体は半透明になっていて、軽く消えかかっていた。

 

やがて、半透明になっていた体もくっきり見えるまでに戻り、リッチーは涙目でフラフラしながらもカズマにこう答えた

 

「は、はい……、だ、だだ、大丈夫です……。危ないところを助けていただいてありがとうございます」

「こんくらいなんてこたぁねぇ」

「えっと、(おっしゃ)る通り、私はリッチーです。リッチーのウィズと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

 

ウィズと名乗ったリッチーにカズマはこう言う。

 

「えっと、……ウィズ?あんた、こんな墓場で何してるんだ?魂を天に(かえ)すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないか?」

「ちょっとカズマ!リッチーと話す事なんて何もないわ!早く私に【ターンアンデット】かけさせなさい!」

 

カズマの言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに【ターンアンデット】をかけようとする。

 

ウィズはカズマの背後に隠れ、(おび)えながら、こう言った。

 

「その……、私は先ほども言った通り、リッチーです。ノーライフキングなんてやってます」

 

火星の王……。

 

ピギュ(ミカが俺の胸ぐらを掴む)

 

「すいませんでした……」

 

 

「アンデットの王である私には、迷える魂たちの話が聞けるんです。この共同墓地の魂の多くはお金がないため、ロクに葬式(そうしき)も上げてもらえず、天に(かえ)る事なく、毎晩墓場を彷徨(さまよ)っています。それで一応、アンデットの王である私としては、定期的にここを訪れ、天に(かえ)りたがっている魂たちを送ってあげてるんです」

 

なんだよ……、いい奴じゃねぇか……。

 

「それは立派な事だし、良い(おこな)いだとは思うんだが……。アクアじゃないけど、そんな事はこの街のプリーストとかに任せとけばいいんじゃないか?」

 

カズマの疑問にウィズは言いにくそうにアクアをチラチラ見ながら、こう言った。

 

「そ、その……。この街のプリーストさんは拝金主義(はいきんしゅぎ)……いえ、お金が無い人は後回し……と言いますか、その……、あの……」

 

アークプリーストのアクアがいるので、言いにくいのだろう。カズマがウィズの言いたいことを要約して言葉にする。

 

「つまり、この街のプリーストは金儲け優先の奴がほとんどで、こんな金の無い連中が埋葬されている墓地なんて供養(くよう)どころか、寄りつきもしないって事か?」

「え……、えっと、……そうです」

 

俺とミカも含めたその場にいる全員が無言の視線をアクアに向ける中、当の本人はばつが悪そうにそっと目を逸らす。

 

「そういうことなら仕方ないんじゃねぇか?」

「ああ、でもウィズ。ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここに来たのも、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを請けたからなんだが……」

「あ、そうでしたか……。その呼び起こしているつもりじゃないんですけど、私がここに来ると、まだ形が残ってる死体は私の魔力に反応して、勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬されている魂が迷わず、天に(かえ)ってくれれば、ここに通う必要もなくなるのですが……」

 

俺とミカを含めたその場にいる全員が無言の視線を再びアクアに向ける。

 

「わ、分かったわよ!私が定期的にここに来て、【ターンアンデット】をかければいいんでしょ!」

 

 

ということで、この件は解決した。

 

その後、ゾンビメーカーを数体討伐した俺たちは宿に帰って、寝床(ねどこ)についたのだった。

 

 

 




希望の花ノルマ達成が難しい……。


私に動画作成は無理だなと自覚しました。

それと同時に素晴らしいオルガMAD動画を作って下さる動画投稿者の皆様に感謝を!


……あと、感想等も下さると嬉しいです。(今回はオリジナルだからちょっと自信ない)

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