「海に潜ってから、大分経つけど……冬夜さん、大丈夫……かな?」
冬夜が海底遺跡の調査に向かってから数時間が経ち、空が赤みががってきた頃、リンゼがそう呟いた。
国王や公爵たちは皆、冬夜が【ゲート】を【エンチャント】した姿見からベルファスト王都へ帰った。
今、海に残っているのは、俺とミカ、リーンとユミナたち四人の全七人だけだ。
リンゼの呟きに対し、リーンがこう答える。
「上がってこないところを見ると、上手くいってるんじゃない?」
リーンの言う通り、冬夜なら大丈夫だとは思うがな。
そんなことよりも俺はずっと空を眺めているミカの方が気になる。
「どうした。ミカ?」
俺がミカにそう聞くと、ミカは空を指差してこう言った。
「何あれ?」
「ん?」
ミカが指差した方向を見ると、空に巨大な岩が浮かんでいた。
「何だありゃ?」
「古代文明パルテノの遺産、といったところかしら?」
リーンが空に浮かぶ巨大な岩を見てそう言った。
それを聞いた八重はリーンの背中の羽を見て、こう聞く。
「リーン殿の背中の羽で飛んでいけないでござるか?」
「無理よ、退化してしまっているから。ちょっと浮く程度しか出来ないわ」
「そうでござるか……」
冬夜が調査に行った海底遺跡も気になるが、あの空に浮かぶパルテノの遺産も気になるな。
どうしたものか……と考えていたらミカが無邪気な声で俺にこう言った。
「オルガ!連れていって!」
「勘弁してくれよ、ミカ……」
「任せて下さい!」
リンゼが妙案を思いついたという顔でそう言い、嬉々とした顔で【エクスプロージョン】を放つ。
もしかして……。
「ま、待ってくれ!」
「【炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!」
ヴァアアアアアア!!
俺は【エクスプロージョン】の爆風で勢いよく空へと打ち上げられ、そして、希望の花が咲いた。
「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
ヴァアアアアアア!!
俺は空に打ち上げられながら、よみがえるための詠唱呪文を唱え、空に浮かぶパルテノの遺産を見下ろせる高度まで上昇したタイミングで『ガンダム・バルバトスルプス』を召喚する。
「【ミカァ!】」
「慣性制御システム、スラスター全開」
バルバトスルプスはパルテノの遺産に落下しながら、腕部200mm砲を収納状態のまま真下に発砲する。
パルテノの遺産は下から見ると、ただの巨大な岩であったが、上から見ると、まるで農業用のビニールハウスのように見える。
そのビニールハウスの天井を破壊して、バルバトスルプスはパルテノの遺産に突入する。
俺もバルバトスルプスの肩に掴まり、ミカと共にその空中庭園へと降り立った。
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僕は海底遺跡にあった魔法陣に魔力を込めた後、気がつくとここに来ていた。
この場所の管理人を名乗る謎のアンドロイド『フランシェスカ』によると、ここはレジーナ・バビロンなる者が造った『バビロンの空中庭園』らしい。
「アンドロイドってことはシェスカは機械なのか?」
「全てが機械ではありませンが。魔法で造られた生体部品や、魔力炉なども使われてイルので、魔法生命体と機械の融合体……とでも申しましょウか」
そのようにシェスカが話しているとき、シェスカの後ろのガラス張りの壁の向こうに広がる雲海を飛ぶオルガが見えた……。
いやいや、オルガが空を飛ぶ訳ないし、多分見間違いだろ……。
そう判断して、シェスカとの会話に戻ろうとした時、大きな発砲音が聞こえ、『バビロンの空中庭園』の天井を覆うガラスのドームの一部が割れた。
しかし、シェスカは気にせず会話を続ける。
「そういえバ、貴方のお名前は?」
「あ、え……えっと、冬夜。望月冬夜だよ」
「望月冬夜様。あなたは適合者としテ相応しいと認められまシた。末永ク、よろしくお願いいタします。マスター」
「えっ?適合……者?」
「あの魔法陣は普通の人では起動出来ませン。多人数での魔力を受け付けるコトが出来ないよウになっているのでス。つまりあの魔法陣を起動しテ、ここに転移出来る者は、全属性を持つ者だけ……。博士と同じ特性を持つ者だけなのでス」
そう言いながら、シェスカが魔法陣を指差した瞬間、その魔法陣が『ガンダム・バルバトスルプス』のソードメイスで叩きつけられた。
そして、『ガンダム・バルバトスルプス』の肩に掴まっていたオルガが降りてくる。
「オルガ!?」
「なんで冬夜がここにいるんだ?海に潜ったはずだろ」
「海底遺跡がこの空中庭園に繋がってたんだよ」
「お知り合いでスか、マスター?」
「ああ、うん」
「でハ、改めて自己紹介ヲ」
そう言って、シェスカはオルガにも僕にしたのと同じ自己紹介をした。
「私はフランシェスカ。この『庭園』の管理端末として博士に造られましタ。今から5092年前のことでス」
「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」
「そンなことより、マスター。もう一度申しまスが、あなたは適合者としテ相応しいと認められまシた」
「だから、なんの適合者だよ!?わけわからん!」
「火星の王じゃねえか!」
「違いまスよ」
「なんだよ……」
がっくり、と
「これヨり機体ナンバー23、個体名『フランシェスカ』は、あなたに譲渡されまス」
「いらねえ」
うん。僕もいらない。
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フランシェスカとかいうアンドロイドのマスターになった冬夜は【ゲート】でリーンやユミナたちをこの空中庭園へ連れてきた。
その後、冬夜とリーンの二人はこの空中庭園の話をフランシェスカから詳しく聞くため
俺とミカが庭園を散歩していると、ユミナの声が聞こえてきた。
「皆さんで冬夜さんのお嫁さんになりませんか?」
「「「えっ!?」」」
ユミナの突然の提案にエルゼ、リンゼ、八重の三人は顔を赤くしたまま固まった。
そして数秒後、最初に元に戻ったエルゼがユミナにこう確認した。
「っていうか、ユミナと冬夜が結婚して私も冬夜と結婚したら、私も王女ってことになるの?」
「待ってくれ!」
俺は『王』という単語に思わず反応してしまい、ユミナたちの話に割って入った。
ユミナと冬夜が結婚して俺も冬夜と結婚したら、俺も王になれるんじゃねぇか?
「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか」
「よからぬことを考えてはいませんか?」
「すいませんでした」
そして俺とミカ、ユミナたちは一緒に冬夜とリーン、フランシェスカの元へと戻った。
空中庭園についての話は終わり、あとはこのフランシェスカをこれからどうするかという話に移る。
「それで、この子これからどうするの?」
「どうするって言ってもな……。シェスカはどうしたい?」
冬夜がそう聞くと、フランシェスカは即答した。
「私はマスターと共にいたいと思いまス。おはよウからおやすみまデ、お風呂からベットの中まデ」
「お風呂から……ベットの中まで……」
「いや、勝手に言ってるだけだから」
フランシェスカのその回答に冬夜は頭を抱え、リンゼは嫉妬する。
俺もフランシェスカのその発言に思わずこう呟いてしまった。
「……ここに置いてっちまえばいいんじゃねぇか」
「それだ!」
俺のその呟きを聞き、冬夜はフランシェスカにこう言った。
「シェスカがここから離れるのはマズいんじゃないのか?管理人不在じゃ何かあったら困るだろ?」
しかし、フランシェスカは問題はないといった様子でキッパリとこう答えた。
「ご心配なク。『空中庭園』に何かあったラすぐに分かりますシ、私にはここへの転移能力もありまス。管理はオートで充分ですカラ、何も問題はありませン」
「あぁ、そうなの……。……もう引き取るしかないのか……」
泣くなよ、冬夜。
「つきまシては庭園へのマスター登録を済ませテいただきタク。私はすでにマスターの物でスが、庭園もきちんとマスターの物とシなければなりませン」
「登録? どうするのさ?」
「ちょっと失礼しまスね」
そう言ってシェスカは椅子に座る冬夜の前へと回り込む。そして冬夜の頬に両手を添えて、なんでもないことのようにそのまま唇を合わせた。
♪オ~ルフェ~ンズ ナミダ~♪
「ふむッ!!???」
「「「「ああぁああーーーーーーーッ!!!!」」」」
ユミナたちの四重奏の叫び声が庭園に響き渡る。俺も嫉妬と憎悪が入れ混じった、今までで一番大きな叫び声をあげた。
「何やってんだぁぁっ!!」
「登録完了。マスターの遺伝子を記憶しまシた。これより『空中庭園』の所有者は私のマスターである望月冬夜様に移譲されまス」
「ちょっとなにしてるんですかぁ!!いきなり、きっ、きっ、キスするとか!私だってまだなのに!私だってまだなのに!!」
真っ赤な顔でユミナがシェスカに迫り寄る。小さい腕を振り上げて、ガーッと全身で怒りを表していた。
そして、リンゼも険しい顔で腰に手を当て、冬夜の目の前に立った。
「……冬夜さん!」
「……っハイ!」
「…………私は、冬夜さんが好き……です」
「は?」
俺は怒るだろうと思っていたのだが、リンゼは俺の予想を裏切り、冬夜に告白をした。
そしてリンゼは何かを決意したかのように目を
♪オ~ルフェ~ンズ ナミダ~♪
「っむぐっ!?」
「「「ああぁああぁあーーーーーーーッ!!!!」」」
「何やってんだぁぁっ!!」
先程よりも一人足りない三重奏の叫び声と俺の人生最大の叫び声が庭園にこだまする。
叫ぶ俺とユミナ、エルゼ、八重の中。俺だけがなぜかミカに胸ぐらを掴まれる。
ピギュ
そしてミカはきわめて冷静にこう発言した。
「別に、普通でしょ」
「え"っ!?」
「普通でしょ!」
「……放しやがれ!!」
読んでいただき、ありがとうございました!
次回の異世界オルガ12は冬夜目線の『Episode of Smartphone』とオルガ目線の『Episode of Orphans』に分けます。次回もお楽しみに!