異世界オルガ   作:T oga

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今回は元動画にないオリジナルです。



異世界オルガ4.5

「あっ!しまった」

 

国王の暗殺未遂事件を解決した後、ユミナをパーティに加えてから数日後、ふいに冬夜が何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「どうしたの?冬夜」

「なんかあったのか?」

 

ミカと俺が声を上げた冬夜に質問すると、冬夜はこう答えた。

 

「うん。公爵にモビルアーマーのこと話すの忘れてた」

「何やってんだぁぁっ!」

「ごめん、ごめん。今から行ってくるね。【ゲート】!」

 

冬夜はそう言った後、【ゲート】に入っていった。

 

 

そして、次の日──

 

俺とミカ、そして冬夜の三人は現場を見たいと言い出したオルトリンデ公爵を連れて、モビルアーマーの現れた旧王都へとやって来た。

 

「……ここが冬夜殿の言うモビルアーマーとやらが現れた場所か」

「はい」

「しかし、来てみたはいいが何もないな……」

「だから言ったじゃないですか」

 

モビルアーマーを倒すために威力を底上げした【エクスプロージョン】で辺り一面を焼き払ったため、元々は穴だらけの城壁と町の形をかろうじて残す石畳と建物、そして完全に崩壊した王城らしき瓦礫(がれき)しかなかった場所が更地になってしまっている。本当に何もない。

 

 

「ん?ミカはどこ行った?」

 

公爵と冬夜が話している間にミカがいなくなっていた。

 

「オルガ」

 

俺を呼ぶ声がした方を見てみると、ミカが地面を指差していた。

 

「ミカさん、この下になにかあるんですか?」

「なんか気になった」

「三日月殿は勘が鋭いからな。調べてみよう」

「わかりました。【ロングセンス】!」

 

冬夜が【ロングセンス】で、ミカが指差した地面の下を()る。

 

「どうだ?なんか見えるか」

「……鉄の扉と……その下に……階段?」

 

鉄の扉と階段……地下通路か何かか?

 

「オルガ、連れていって!」

「勘弁してくれよ、ミカ……」

「ダメだよ、オルガ。俺はまだ止まれない」

「待ってろよ」

「連れてってくれ、オルガ」

「待てっていってんだろ!」

 

俺がそう叫ぶと、ミカは俺の胸ぐらを掴む。

 

ピギュ

 

「え"え"っ!?」

「ここが俺たちの場所なの?そこに着くまで俺は止まらない。止まれない」

「放しやがれ!!」

 

こうなると、もうミカは止められねぇ。

俺は胸ぐらを掴むミカの手を払いのけて、こう言った。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!連れてきゃいいんだろ!!お前を、お前らを俺が連れてってやるよ!!」

 

四人で力を合わせてその鉄扉を開ける。なぜか()び付いていることもなく、すんなりと開けることが出来た。もしかしたら鉄じゃないのかもしれねぇ。

 

そしてその下には、地下へと続く石の階段が、俺たちを迎えたのであった……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「【光よ来たれ、小さき照明、ライト】」

 

宙に作り出した明かりを頼りに、僕たちは石の階段を踏みしめ、地下へと進み出した。

 

階段は緩やかな角度で螺旋を描き、どこまでも地下へ続いている。歩いているうちにまるで地獄にでも続いているかのような、そんな馬鹿げた不安が湧いてきた。

 

やがて長い階段の終わった先に、広い石造りの通路が現れた。

 

魔法の【ライト】で通路を照らしながら進んでいくと、だんだんと通路の天井が高くなっていき、やがて大きな広間に出た。

 

 

「なんだこれ……?」

「なんだこりゃ?」

 

部屋の中央には(ほこり)と砂にまみれた物体が置かれていた。

 

それはなんと表現したらいいのか……。僕がまずイメージしたものは虫だ。コオロギ。アレに似てる。頭部のようにも見えるアーモンド型の物から、六つの細長い足のような物が伸びている。数本折れてはいたが。

 

大きさは軽自動車くらいあるだろうか。手足をもがれ、死んだコオロギを想像させる。

 

しかし、そのフォルムは流線型のシンプルな形で、生物というよりは機械のようにも見える。

 

 

よくよく見ると、頭部に見える部分の奥に、うっすらと野球ボールほどの赤い物体が透けて見えた。

 

表面の(ほこり)や砂を払うと、この謎の物体は半透明な物資で出来ていることがわかった。……ガラスだろうか。薄暗くてよく見えないな……ん?

 

「あれ?光が弱くなっているような……」

「ような、じゃねぇ。確実に弱くなってるぞ。これは……」

「冬夜殿!」

 

公爵の叫びに視線を戻すと、コオロギの頭部、奥に見えた赤いボールが輝き始めていた。

コオロギの体が細かく振動している。

 

「冬夜!【ライト】の魔力があいつに吸収されてるぞ!」

 

光が弱くなったのはそれでか!

 

ボールの輝きはどんどん増し、コオロギは体を少しずつ動かし始めた。

 

まさか……生きているのか、これは!?

 

折れていた足がいつの間にか再生している。魔力を取り込み、活動を再開させたというのか!?

 

 

キィィィィィィィィィン!

 

 

「うぐっ……これは……ッ!」

 

耳鳴りがしたときのような、甲高い音が辺りに響き渡った。部屋中に反射してビリビリと身体中が震えるほどの衝撃。ピシッと壁に亀裂が入り出す。まずい! このままでは生き埋めになる!

 

「【ゲート】!」

 

僕は目の前に【ゲート】を出現させ、みんなを次々と地上へと送る。僕も門をくぐろうとしたその時、コオロギが立ち上がり、足の一本を僕目掛けてものすごい速さで伸ばしてきた。五メートルは離れていた僕のところまで、槍のように足を伸ばしてきたのだ。

 

「うわっ!?」

「冬夜!」

 

オルガが僕を庇い、……希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

「ごめん、オルガ。ありがとう」

 

僕は転がるように【ゲート】を抜け、地上に出た。

 

すぐに【ゲート】は閉じ、目の前に地上の廃墟が広がる。どうやら生き埋めにはならずにすんだようだ。

 

しかし、オルガは生き埋めだ。あの状況じゃ助けられない。仕方ない。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「何だったんだろ、あれ?」

「まだ来るよ」

 

ミカさんが地下への入り口を眺めながら、緊張した面持ちでそう呟く。

 

その後、ゴゴゴゴゴ……と地鳴りが響き渡ってすぐ、ドカァッ!と地面を突き破り、そいつは地上へと現れた。

 

 

アーモンド型の頭部、そこから伸びた細長い六本足。太陽の下で水晶のような体が光り輝く。半透明のその生物は結晶生命体とでもいうのだろうか。

 

「公爵は出来るだけ遠くに離れて下さい!【炎よ来たれ、赤き連弾、ファイアアロー】!」

 

公爵をミカさんに任し、炎の矢を連続でコオロギに向けて打ち出す。しかし、コオロギはそれを避けることもなく、平然と受け止めた。炎の矢が次々とコオロギに吸い込まれるように消えていく。

 

「魔法が吸収された!?くっ……なら!」

 

僕は落ち着いてそいつの動きを読み、それに合わせて腰の刀を抜き放つ。

 

だが、その攻撃で奴につけることが出来たのは、わずかなかすり傷ひとつだった。

 

「硬っ!」

「ならこいつでどうだ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

復活したオルガが銃を発砲する。やはり大した傷をつけることはできないようだ。

 

「【ミカァ!】」

 

次はミカさんのバルバトスをLv1(第1形態)で召喚し、メイスでコオロギを叩き付ける。

 

「ギィィ!」

 

()びついたドアのような(きし)みをあげて、コオロギが(ひる)む。

しかし、バルバトスの攻撃でも、あの硬さには軽度のダメージしか与えられないようだ。

 

「なら……こうだ!」

 

バルバトスをLv4(第4形態)に変化させて、コオロギの細長い足を目掛けて太刀を振るう。

 

次の瞬間、ガラスが砕け散るような音と共に奴の足が一本砕けた。

 

よし!やっぱりミカさんはすごいや!

 

傷を与えられないわけじゃない。少しでもダメージを与えることができるのなら、いつかは倒せる!

 

 

「ギ……ギィィィィィィィィ!」

 

突然、コオロギが(うな)り声を上げ、頭部の赤いボールが輝く。それに反応するかのように、砕けたはずの足が再生されていく。おい、嘘だろ……。

 

「再生した……」

「勘弁してくれよ……」

 

魔法を吸収し、非常に硬い強度……なにか弱点はないのか?

 

「どうすんの、冬夜?再生するんじゃどうしようもないよ」

 

ミカさんがなんとか抑えてくれてはいるが、決定打を与えられなければ意味がない。

 

僕達の魔力を奪って再生か……フッ……まるで将棋だな

 

「は?」

「何言ってんの、冬夜?」

 

……そういえば……あいつを見つけたときは体が砕けたままだったな……。どうしてだ……?

 

確か……僕の魔法を吸収して、それから再生した……。再生するのに魔力を必要とするのか。そういえば、あの時も頭部の球が光っていたな。ひょっとしてあの頭部にある赤い球が核になっているんじゃ……。

 

「……そうか、()を取れば!」

 

 

「オルガ、ちょっと……」

 

思いついたことをオルガに伝える。

 

「は? そんなこと出来んのか!?」

「わからない……。でも試してみる価値はある」

「……わかった」

 

フーッと息を整えると、僕はコオロギに向けて魔力を集中し、その物体を思い浮かべた。体が透明だからよく見えるな!

 

「【アポーツ】!」

 

僕の手の中に鈍く光る赤い水晶が現れた。よし、成功だ!

 

「オルガ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

僕が放り投げたその球をオルガの放った銃の銃弾が撃ち抜く。

 

「なんだよ……結構当たんじゃねぇか」

 

そして、その物体はパキィンッと粉々に砕け散った。

 

「これで……どうだ!?」

 

核を撃ち抜かれたコオロギが動きを止める。やがて全身に亀裂が入り、ガラガラと崩れ落ちていく。キラキラと太陽に反射しながら、水晶の魔物はついに倒れた。

 

僕たちはしばらくの間、また再生するんじゃないかと注意を向けていたが、いつまで()っても水晶の魔物がよみがえることはなかった。オルガと違って。

 

 




読んでいただいてありがとうございます。

今回の話は第3章『デスマーチから始まる異世界オルガ』の伏線にもなります。
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