「ガラガラなのになぜ?」西松屋が少子化でも30期連続増収できた“非常識”だけどすごい戦略
例えば、衣服などの商品の陳列方法は、ハンガー陳列を基本とし、商品を畳む手間を極力省いています。その結果、1店舗あたりの従業員数(パートタイマー含む)は約4人と少数に抑えられています。さらに驚くべきことに、西松屋の社員数は695人と店舗数の1145店舗より遙かに少ないのです。 また、ガラガラの広い店舗は、顧客体験だけではなく、従業員にとっても陳列などの作業がしやすい状態だといえます。 加えて、駅前などではなく、郊外立地かつワンフロア、ロードサイドの出店というのも西松屋の特徴です。こうした戦略は賃料や建設費の圧縮につながっているとみられます。 ● 西松屋のビジネスモデルから 学べる「3つのこと」 では、最後に西松屋の「ビジネスモデル」を整理してみましょう。 ビジネスモデルとは「誰に何を、どのように提供し、どのように儲けるか」を描いたビジネスの設計図です。顧客価値の提供、経営資源、プロセス、利益方程式の4つの要素で構成され、新規事業構想や既存事業の見直し、競合比較に活用されます。成功には4要素が合理的に相互補完的に作用していることが重要です。 あらためて西松屋のビジネスを「誰に何をどのように提供し、どのように儲けるか」の視点で見てみると、西松屋は、「親子連れの顧客が本当に求めている顧客価値は何か」を深く洞察し、見た目には「ガラガラ」な店舗という形で実現し、標準化された低コストのチェーンオペレーションを徹底することで、「低価格」と「買い物のしやすさ(広い通路、探しやすさ、近隣での入手可能性)」という明確な顧客価値を顧客に提供しています。それは、多くの日本企業が持つ「手厚いサービスのホスピタリティーこそが顧客満足につながる」という常識とは一線を画すものです。
この西松屋の事例から、私たちビジネスパーソンが学べることは多岐にわたります。例えば、次のようなことが読者の皆さんのビジネスにも参考になるのではないでしょうか。 1.顧客が真に求める体験価値とは何か 自社の業界や業務における「常識」や「慣習」に対し、それが本当に顧客価値の向上や収益性改善に不可欠なのか、ゼロベースで問い直す視点を持つこと。 2.戦略とは捨てること 全ての顧客ニーズを完璧に満たそうとするのではなく、ターゲット顧客を明確にし、何を提供し、何を「あえて提供しない」のかを戦略的に選択することの重要性。西松屋は、手厚い人的接客よりも「圧倒的な低価格」と「ストレスのない買い物環境」を選びました。 3.手段は目的に対して合理的か 「誰に何を、どのように提供し、どのように儲けるか」はそれぞれ整合している必要があります。 「優れた戦略は、一見すると非常識(バカなアイデア)に見えるが、深く理解すると極めて合理的(なるほど)である」と言われます。西松屋の「意図的な閑散とした店舗空間」戦略は、まさにこの言葉を体現しています。 手厚い接客という業界の常識にあえて背を向け、顧客が真に求める「ストレスのない買い物環境」と「圧倒的な低価格」を、徹底したローコストオペレーションによって実現する。この合理的な仕組みこそが、西松屋の持続的な競争優位の源泉なのです。
鈴木健一