「ガラガラなのになぜ?」西松屋が少子化でも30期連続増収できた“非常識”だけどすごい戦略
子ども服などの販売を手掛ける西松屋チェーン。少子化が進む昨今ですが、業績好調で25年2月期(単体)は、売上高は前期比増収、営業利益も増益となりました。売上高はなんと30期連続で過去最高を更新。営業利益率も競合他社を圧倒する高さです。西松屋の高収益の秘密は何か、考えてみましょう。(グロービスAI経営教育研究所所長/グロービス経営大学院教員 鈴木健一) 【グラフ】競合の赤ちゃん本舗、バースデイと比較してみると… ● ガラガラなのに高収益! 西松屋はなぜ儲かっているのか? 「西松屋?ああ、あの子ども服の安いお店ね。いつ行っても空いてて、店員さんも少ないから、子連れでも気兼ねなく見られるのよ」――。 子育て世代なら、こんな会話に覚えがあるかもしれません。 しかし、この一見「のんびり」とした店舗の姿とは裏腹に、西松屋チェーンがベビー・子ども用品業界で圧倒的な売上高を誇り、かつ高い営業利益率を叩き出していることをご存じでしょうか。 この「閑散として見える店舗で高収益」の背景にある西松屋のビジネスモデルの謎を解き明かしていきます。 まず、西松屋がベビー・子ども用品市場でどれほどのポジションを築いているか、具体的な数字で見てみましょう。 主要競合として「アカチャンホンポ(赤ちゃん本舗)」や「バースデイ(しまむらグループ)」が挙げられますが、西松屋の強さは圧倒的です。 西松屋は売上高で他社を大きく引き離し、さらに本業の儲けを示す営業利益率においても高い水準を維持しています。「いつ行ってもガラガラ」というユーザーの印象の裏で、なぜこれほどの高収益を上げ続けることができるのでしょうか。
● 「ガラガラ」は結果ではなく 良質な顧客体験をつくるための手段 西松屋と、詳細なデータ比較がしやすいアカチャンホンポを軸に見ていくと、興味深い特徴が浮かび上がってきます。 売り場面積あたりの従業員数を見ると、赤ちゃん本舗は1.4人/100平方メートルなのに対して、西松屋は0.6人/100平方メートル。「店員があまり見当たらない」というのは、確かに間違っていないようです。 一方で、実は売り場面積あたりの客数は平均すると両社に大きな差はありません。週末のアカチャンホンポ(ショッピングモールなどへの出店が多い)の混雑状態が体感値の差になっているのかもしれません。 西松屋では、店舗が繁盛して売り上げが一定基準を超えると近隣にさらに出店し、店舗の「ガラガラ」状態を維持しながら地域での寡占化を図っています。 なぜ、西松屋は一見非常識な「ガラガラ」戦略をとっているのでしょうか。実は「ガラガラ」こそが、西松屋の“顧客体験”には重要なのです。 西松屋の顧客の多くは親子連れで、ベビーカーや子どもと一緒に買い物に来ています。 このようなお客さんにとって西松屋は ●いつ行ってもお店が「ガラガラ」で他の顧客を気にしなくていい ●通路も幅広いためベビーカーもすれ違いやすく、子どもが人にぶつかる心配もない ●店員が少ないため、気兼ねなく買い物ができる ●BGMがなく店内が静かで、子どもが寝ていても落ち着いて買い物できる 場所となっています。