TBSの報道番組『報道特集』(毎週土曜 午後5時〜)が度々ネット上で話題になっている。SNS上では「#報道特集ありがとう」「#報道特集がんばれ」といったハッシュタグも登場、幾度もトレンド入りしてきた。
きっかけは、昨年の兵庫県知事選をめぐる問題に関するキャンペーン報道。斎藤元彦知事の支持者と見られる層から激しい誹謗中傷を受けながらも、「2馬力選挙」の実態や自殺者を生んだ誹謗中傷問題について独自に調査し伝え続ける番組の姿勢が支持されているのだ。
同番組のディレクターとして「消えた年金記録」「国境を超える特殊詐欺」などの特集に携わり、2020年7月から5年にわたり編集長を務めた曺琴袖(ちょう くんす)さん。今年の7月1日に情報制作局長に就任し、「報道」から「情報番組」へと活躍の場を移した。
曺琴袖 プロフィール
1970年、京都府生まれ。1995年、早稲田大学法学部卒業後、TBSテレビに入社。報道局外信部、ニューヨーク支局記者、『報道特集』ディレクター、『あさチャン!』『ひるおび!』のプロデューサーを経て、2020年7月より『報道特集』の編集長に就任。2025年7月より情報制作局長に就任予定。
誹謗中傷を受けながらも調査報道を続ける思いについて聞いた第1回に続き、曺さんへのインタビュー第2回では、仕事と家庭の両立について伺う。
お子さんが幼い頃、報道の仕事から離れ、情報番組のプロデューサーとして勤務していた曺さん。激務の中で子どもと一緒にいるために、「朝3時に出社して、午後2時に帰宅する生活」を続けていたら、ある日、乳がんと診断されてしまう(詳しくは第2回前編 参照)。子育てと病気の治療をしながらも、なぜ報道の第一線でキャリアを築くことができたのか。
※本記事に含まれる医学的な内容は放射線科医の松村むつみさんが監修しています。
再検査の背中を押した、小林麻央の存在
――乳がんであることに気づいたのは、どんなきっかけだったんですか。
曺:乳頭からの出血でした。着ていたTシャツに茶褐色の分泌液によるシミがついたんです。私は会社の健康診断しか受けておらず(※1)、がん検診などはまったく受けていませんでした。ただ、タバコも吸わないし、飲酒もほとんどしない。家系に乳がんを患った人もいなくて、がんのリスク因子として自分に当てはまるところがなかったので、ならないと思っていました。
――それで、出血に気づいて病院で検査を受けたわけですね。
曺:はい。最初の病院で画像診断(乳房超音波検査)と細胞診を受けたのですが、細胞診ではクラス2(※2)という結果でしたが、画像診断については口頭で「問題ありませんでした」と説明を受けただけでした(※3)。ただ、経過観察の必要があるということで、半年後にまた検査を受けるよう言われたのですが、半年後にまた病院に行くのが億劫でした(※4)。
さらに、その1年前の2017年に小林麻央さんが乳がんで亡くなられたとき、情報番組で画像診断がいかに難しいかという特集を担当していたので、画像診断の結果に疑問もありました(※5)。だから、その病院で、「半年後といわず、ここでできる検査を今全部してください!」と言って組織検査までやってもらったら、乳がんと診断されたんです(※6)。
※医師注1:企業検診には企業の福利厚生の一環としてがん検診が含まれているケースもあります。
※医師注2:細胞診における「クラス2」とは、やや異型のある細胞が認められるものの、炎症や良性腫瘍によるもので、がんの疑いはないとされる段階です。
※医師注3:「問題ありませんでした」だと「全く何もないから」なのか「良性の可能性が高いから」なのか判然としませんが、なぜフォローアップが必要なのかを含め、医師からより明確な説明があるとよかったかもしれません。
※医師注4:悪性病変である場合、通常、時間と共に大きくなり進行していくので、より診断されやすくなります。また、悪性病変の場合、受診しないまま半年以上経過すると、リンパ節や他の臓器に転移を起こしてしまう可能性もあるので、半年後にフォローアップが必要と言われた場合には、億劫がらずに受診することが重要です。
※医師注5:一般的に乳がんでは、特に乳管内癌や小さな癌などの早期がんの場合に、画像診断が偽陰性となることがあります。また、個々人の乳腺組織の量などの諸条件によって診断のされやすさも変わります。ですので、「画像診断で診断することが難しいケースもある」ことは事実です。ただ、検診のマンモグラフィや超音波検査によってある一定割合の症例は検出されるため、画像による検診の意味がないわけではありません。
※医師注6:細胞診は細い針で吸引して細胞を採取するものですが、組織診ではより太い針を用いて、とれる組織も多いです。そのため、組織診のほうがより正確な診断が下せる検査となっています。
患者さんが自らの意思を医師に伝えてコミュニケーションをとったうえで検査や治療の方法を選択することは重要であり、今回の曺さんの事例はその一例と言えます。ただ、細胞診の結果を受けてすぐに組織診を行うべきか否かは、状況によっては正解とは限らないため、担当医と相談したうえでご判断ください。