本文へ移動

「やってみようと思うなら、今、やりなさい」響いた厳しい声、そして… 『岡本綾子マジック』おそるべし

2025年7月1日 13時30分

岡本綾子さん

岡本綾子さん

◇女子プロゴルフツアー取材38年のベテラン記者がつづる、極上エピソード女王列伝 月橋文美のゴルフ『女王たちの流儀』岡本綾子編(10)
 プレーヤーとして残した実績もさることながら、指導者、解説者としても異才ぶりを見せてきている岡本綾子さん。折に触れて相手の心に差し込まれるアドバイスは、門下の弟子たちに限らず、数々の選手の窮地を救ってきた。
 たとえば上田桃子。2007年11月、三重県の近鉄賢島CCで開催された米ツアー共催のミズノクラシック週だった。初めての賞金女王争いの中で苦しんでいた上田に、岡本さんが練習ラウンド時、ボソッと声をかけた。「あれもダメ、これもダメって、うまくいかないことばかり上げて悩んでるんじゃなくて、もっと自分のいいところを探してみなよ。あなたには素晴らしいところがいっぱいあるんだから」
 その年、4月の初優勝から7月までに4勝して賞金女王レースの先頭を走っていたが、8月以降、10月までは2位が3回。とくに10月の富士通レディースでは1メートルほどのパットを外したことからプレーオフに敗れたこともあり、悩んでいた上田だった。
 その大会が始まり、優勝戦線にいた彼女が、長時間のパッティング練習を終えて、クラブハウス前に岡本さんを見つけると「綾子さん、ショートパットが入らないんです」と訴えてきた。
 「…目の玉が動きすぎる。ボールのディンプルが見えてる?」と岡本さん。「えっ…⁈ そこまで考えて見たことなかったです。あとでやってみます」と、おじぎをして帰ろうとした上田に「やってみようと思うなら、今、グリーンに戻ってやりなさい」と、珍しく厳しい声が響いた。
 それから辺りが真っ暗になるまで約1時間、パッティンググリーンでマンツーマンの指導。翌日岡本さんに「岡本さんはいつもディンプルまで見てるんですか?」とたずねると「要はね、ほんの少しだけ目が離れるタイミングが早い、ってことなのよ。不安や気になることがあって、ショートパットのときに最後までボールを見ることができずインパクトに誤差ができてた。ディンプルうんぬんというのは、それくらいボールを見なさいってこと。これはプロ同士の会話。おまじないみたいなものよ」と説明された。
 その日、上田は優勝。賞金女王&米ツアーへの足がかりをつくった。“綾子マジック”おそるべし、である。(月橋文美)
おすすめ情報