番組への誹謗中傷、自身への殺害予告…TBS『報道特集』元編集長がそれでも「調査報道」を続けた理由
誹謗中傷に殺害予告…報道人生30年の中で前例のない「攻撃」
――それがハッシュタグが生まれたきっかけだったのですね。先ほど番組やスポンサーが「攻撃」を受けたという話がありましたが、具体的にはどんなものだったのでしょうか。 曺:ネット上の誹謗中傷です。斎藤氏や立花氏を支持する人が番組や出演者などに関する事実ではない誤った印象操作につながる動画をYouTube上に投稿し、それが切り抜き動画としてSNS上で拡散されたりしました。スポンサーに対しては、立花氏が苦情のメールや電話を行うことをXで呼びかけ、支持者らがそれに従ったのです。報道人生30年の中でも経験したことのない、凄まじい勢いの攻撃でした。 そして私個人に対しては、在日韓国人であることに対するヘイトのコメントの他、殺害予告のメールも来ました。 ――殺害予告まで……。犬笛を吹く人々が野放しになっている印象がありますが、会社からはリスクを考慮して、ストップがかからなかったのですか。 曺:TBSは、報道現場の意思を現場ではない人たちの影響力で変えさせようということが少ない会社なんです。私たちがやると決めたことに対して、他からのストップはありませんでした。会社から何か取材に制限がかけられるということよりも、殺害予告まであったということで、『報道特集』の仲間が萎縮して、現場に出たくないと言うことが怖かった。その雰囲気が現場に全然なかったのは幸いでした。 ――ご自身よりも現場の雰囲気を心配されるとは……曺さんはなぜそこまで強くいられるのでしょうか。 曺:同じような思いや憤り、正義感を持っている仲間がいるからだと思います。でも、竹内さんの奥様のように、死後も続く夫への誹謗中傷を日々目の当たりにし、つらい状況にある方のインタビューを放送する際、その放送を受けて、さらに誹謗中傷が殺到してしまったら、精神的に非常にこたえます。
「誹謗中傷ビジネス」の拡大に強い危機感
――『報道特集』では、竹内さんに対する誹謗中傷問題についても詳しく調査報道されていますね(追い詰められていた元兵庫県議の竹内英明さん 「でっち上げ」と発言した立花孝志氏は/2025年1月25日放送)。 曺:東京大学大学院工学系研究科教授・鳥海不二夫さんの調査によると、2024年1月1日から2025年1月18日までにXで拡散された竹内さんへの誹謗中傷の投稿の半分はわずか13アカウントの発信が基になっているとわかっているそうです。 さらに誹謗中傷の投稿をしている人を取材したんですが(「真実かどうかよりも、極端なコンテンツほどたくさん見られる」選挙期間中に拡散される誹謗中傷や虚偽を含む動画 作成に報酬も…背景を取材/2025年3月15日放送)、その人たちの動機は政治的主張ではないんです。インプレ稼ぎ、金儲けの仕組みにのっかっただけだったんです。 立花氏の街頭演説の動画撮影や、立花氏や斉藤知事を支持する内容の切り抜き動画の作成などが仕事仲介サイトを通じて何者かから発注されているわけです。そうした仕事を請け負った人のマニュアルなどを精査すると、それ以前に斎藤知事を攻撃する動画の作成・投稿もしていたことがわかりました。 ――まったく逆の立ち位置なんですね……。 曺:政治的な主張がないからできることですよね。だからこそ、簡単に改心する人も多いんです。竹内さんを誹謗中傷する内容の切り抜き動画を作成・投稿していた人に、竹内さんのご家族が傷ついていると番組のキャスターが伝えたら、自分も子供が生まれたばかりなので、亡くなられた方の奥さんが苦しんでいると知って、もうやめようと思いますと言い、アカウントを閉鎖しました。 ――生活苦でやっていた方もいますか。 曺:そういう方も多くいらっしゃいます。 ――ネットのルールや法律を変えていかないと、どうにもならないところまできていますよね。 曺:木村花さんへの誹謗中傷が問題になり、社会で対策を進めた時から別のステージに入っていて、いまは誹謗中傷で金儲けをしようとする人がたくさん出てきたステージなんです。せめてビジネスとしてそういうことをやる人が続出する事態を食い止めないと、大変なことになると思います。 ――クラウドワークスで誹謗中傷が“仕事”として発注されていたことを『報道特集』が取り上げたのは衝撃でした(前述の3月15日放送回)。以降、ランサーズ、ココナラという大手の仕事仲介サイトも含め3社は政治・選挙活動の仕事依頼を禁止しましたが、発注内容を詳しく書かなければわからないですよね。 曺:私たちが確認したのはクラウドワークスさんのみですが、発注の文言に制限があるだけで、実際の発注内容に深く関与していらっしゃらないんですよ。発注者と受注者の善意に任せているところがあるので、もっと厳しい措置に出ないとなくならないと思います。 ◇続く後編【「ポスト真実」時代にマスメディアが信頼を取り戻すには? TBS『報道特集』元編集長・曺琴袖に聞く】では、客観的な事実よりも、自分が信じたいことを信じる「ポスト真実」の時代におけるマスメディアの役割について聞いた。
FRaU編集部