山口県内屈指の事業規模と歴史を持つ製パン業、松月堂製パンが破綻した。競争激化とコスト高騰で経営状況が悪化、大手の取引中止で終止符を打った。地域の食を支え、根強い“ファン”もいたが、利益確保に最後まで苦戦した。
パン製造業では山口県下で屈指の事業規模を有する松月堂製パン(宇部市)が2月28日、山口地方裁判所宇部支部から破産手続き開始の決定を受けた。負債総額は約11億5500万円。
松月堂製パンは1934年に創業。「宇部の人は給食から松月堂のパンで育っている」と言うように学校給食のパンと米飯も供給しており、地域での知名度は高い。しかし90年代をピークに売り上げは3分の1以下に縮小、最近は8期連続の赤字決算と、経営不振が続いていた。債権者である取引先の担当者は「厳しいという話は聞いていた。来るべきときが来たなと。驚きはなかった」と淡々と話す。
松月堂製パンの従業員はパートを含めて200人以上に上る。3月初めには地元雇用への影響が大きいとして、県と宇部市が再就職支援に乗り出したと報じられた。
宇部市をはじめ3自治体に供給している学校給食用のパンと米飯については、山口県パン工業協同組合と県学校給食会で調整。供給量を1社で賄えるところが他になく、県内の数社の中小業者が分担して引き継いだ。しかし業界に詳しい関係者は、どこも生産余力や配送、人員面での余裕が少なく「供給は綱渡りではないか」とみる。
地域の事業環境厳しく
松月堂製パンの事業の柱は4つあった。1つ目が大手パンメーカー、敷島製パン向けのOEM(相手先ブランドによる生産)。主に食パンの人気ブランド「超熟」の生産委託を受けていた。
2つ目が自社ブランドの菓子パンの製造。スーパーや量販店向けに販売、個包装されているため「包装パン」と呼ぶ。中には60年以上製造を続ける人気商品もあった。
3つ目が直営店。複数の店名でベーカリー店を展開、一時は広島、福岡、島根の3県にも拡大。直近は路面店と商業施設内店舗を県内と北九州市の合計10カ所で運営していた。そして4つ目が学校給食で、県内の3市町に供給していた。
1953年に法人を設立。当初からの販売先は山口県とその近隣の中堅スーパーや地元の個人商店、病院や学校だった。70年には現在の本社工場を新設するとともに、直営店を増やし始める。工場で製造するパンや和洋菓子に加え、店で生地から焼き上げる「焼きたてパンの店」の先駆けとなったのが82年に宇部市中央町にオープンした直営店「カトルセゾン宇部本店」だった(2022年6月に閉店)。
しかし2000年代以降は、大手スーパーの進出やコンビニエンスストアの出店増加などで、松月堂製パンの主力販売先であった地元の中堅スーパーや商店の統廃合や閉店が続いた。ブランド認知度と価格競争力で勝る大手製パン会社の商品との競合が増え、事業環境は厳しくなっていった。
一時は40店舗を超えたという直営店も、固定費の高さや、店舗周辺の人流の変化による販売不振などから閉店や統合を進めていた。
一方で、商品開発に力を入れていた。地元産の小麦粉や食材を使用し、地産地消をうたうドーナツやパン、工場で出荷できなかったパンを再加工し、食品ロス削減をうたうクッキーなど。ネット販売やふるさと納税の返礼品などに販路も広げていた。
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